居場所
綾がいないことに最初に気が付いたのは悠斗だった。皐月さんの側には兄が一晩中より添って、悠斗も綾も自分の部屋に戻って寝ているはずだった。
なかなか出てこない綾のことを心配して悠斗が部屋をノックしてももう遅い。反応は返ってくるはずもない。
綾がいつ抜け出したかすら分からなかった。
「兄ちゃん! 綾が……いなくなってる」
その報告を聞いた兄も驚いていた。前髪をかき上げげながら「ぁあああ!」と低い唸り声を上げた。
「悠斗。場所に心当たりはあるか?」
「心当たりって、綾の家があった場所だろ? 俺は覚えてないから、だから兄ちゃんに」
「黙って出て行ったんならきっと……それは嘘だ」
「あ……」
兄の言い分に納得せざるを得なかった。
「くそっ。昨日もっと冷静に……こうなることくらい予見できたはずなのに」
それほど兄も昨日は冷静であって冷静でなかったということだ。
「でも……嘘だとすれば、人が近寄らなくて、どこか……隠れられそうな場所だから」
「兄ちゃん、心当たり。あるよ。俺」
悠斗は思い返していた。
一人だけ、綾の行き先を知っている人物がいる。
「どこだ! 早く教えろ! 俺らもそこに早く」
「兄ちゃんは皐月さんの側にいないといけないじゃん。だから……俺一人で行ってくる」
「おい! ちょっと待て悠斗!」
兄の声に耳を傾けることなく、悠斗は最後に笑顔を見せ、部屋を飛び出した。
階段を駆け下り、外に飛び出し、吐く息の白さが煩わしく思える。冬が近づいているのだと知らせてくれる。
夜のうちに冷え切ってしまった空気は、太陽の光を受けてもうすぐ暖かくなるはずだ。
「……無事でいてくれ」
だから、そんな淡い期待をどうか持たせてほしい。
手遅れだと言わないでほしい。
息も絶え絶え。でも走る。一刻でも早く。そのために走る。
「杏南!」
その姿が見えた瞬間、悠斗は叫んでいた。
「えっ? 悠斗?」
杏南は家の前で落ち葉を掃いている最中だった。俯き加減で、箒で穴を掘ろうとしているみたいに、同じ場所を左右交互に何度も何度も。
とにかく外にいてくれたのはラッキーだ。
「杏南、あのな、えっと……」
箒を握りしめている杏南の前で、膝に手をのせた悠斗は呼吸を落ち着かせようともしない。はやる気持ちのまま声を絞り出す。
「ちょ、大丈夫なの悠斗? 一体落ち着いて、ほら深呼吸して」
「そうじゃない! あ……綾はどこで……浦添榊と会ってたんだ?」
その質問に杏南の体が硬直する。
「いきなりどうしたの?」
「いいから! 綾はどこで会ってたんだ! 早く! 答えろ!」
悠斗の声音がどんどん強くなる。それだけ切羽詰っているのだ。
「……街はずれにある、教会……西にあるやつ」
「わかった、ありがとう」
それだけ言い残して、悠斗はまた走り出した。
西の教会。お化けが出るとか、呪われているとか、悪い噂が絶えない場所。悠斗が生まれた時から廃墟だった場所。
「悠斗⁉ ちょっと待って! 綾がどうしたの⁉」
その声が聞こえて少しだけ悠斗は嬉しくなった。
杏南が綾の心配をしていたから。




