第4話 明の初仕事
新キャラがいろいろ出ますが
ヒロインはまだ出ません
僕はナイフを操り、皮を剥いて行く
剥いたところから赤い中身が現れる、僕は構わず全ての皮を剥き終え、傍らのザルの中に入れた
「ユーリさん、ジャガイモとニンジンの皮剥き終わりました」
「あら、早かったのね
じゃあ…」
ユーリさんはザルからいくつかジャガイモとニンジンを取り出し、さらにタマネギとセロリとピーマン、そしてハムを追加すると
「これを賽の目に切ってくれる?
スープの具にするから」
「わかりました」
僕が働いているのは『大地の恵み亭』
昼は食堂、夜は居酒屋の店で、冒険者ギルドの隣にある
さっき冒険者ギルドで依頼書を見たところ
『Fランク依頼 期間2〜3日
店主がギックリ腰で倒れたため
手伝いをしてくれる人募集
力仕事、接客担当
料理ができる人優遇
日給80G 賄いあり
寝室貸し出し可
依頼主 大地の恵み亭 ユーリ』
という依頼があったので、受けてみた
まだ防具が完成していないので、町の外に出る依頼はやめておくことにしていた僕に都合がよく
それに賄いありと寝室貸し出し、さらに武具完成までの時間が丁度良いという
まさに願ってもない依頼だったのだ
「具材切り終わりました」
「本当に早いのね、じゃあ炒めておいてくれる?」
トマトベースのスープを、鍋で温めているユーリさんが僕に頼んできた
ユーリさんは、だいたい20代半ばくらいの美人さんで、この『大地の恵み亭』の看板娘らしい
「はい、わかりました」
フライパンにオリーブオイルを引き、油を吸いやすいピーマン、火の通りにくいニンジンをまず炒め、ハム、ジャガイモ、タマネギを順番に加え、最後にセロリを炒めた
「できました」
「ありがとう、じゃあ丁度いいから、賄いにしましょうか」
「ありがとうございます」
メニューは、今作ったミネストローネ風のスープ、パン、そして素揚げした小魚だ
「本当に助かったわ、アキラ君
お父さんがギックリ腰になった時は、どうなるかと思ったわ」
「いえ、僕のほうこそ助かりました
住む家もなかったので
あ、このスープおいしいですね」
「ええ、うちの名物なのよ
お酒の後に丁度いいからって注文する人が多いの」
食べ終わって食器を洗っていると、外から鐘の音が聞こえてきた
7時の鐘だ
「さぁアキラ君、忙しくなるわよ」
「了解です」
僕の初仕事が正念場を迎える
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「エール(麦酒)ジョッキで3杯、それと揚げ魚だ」
「俺は鳥の腿焼き、エールも1杯頼むわ」
「はーい、わかりました
アキラ君お願い」
僕はあらかじめ火を通してあった腿肉を、再び軽く炙る
そしてワタを取り、身に切れ目を入れてあった小魚を素揚げする
どちらも調理時間を短くする工夫だ
その間にユーリさんは、右手にジョッキを4つ、左手に他の客が注文した料理を持って運んで行く
それは僕にはできない技だ
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「鳥の皮付き唐揚げでき上がりました」
できた料理を皿に盛り付け、火事にならないように竈から揚げ鍋を下ろして、料理をお客様に運んで行く
「お待たせしました」
「おう…って見ない顔だな?」
「言ったでしょ?
少しの間手伝ってもらっている、あなた達の後輩よ」
料理を運んで行った席にいた3人組の冒険者に、ユーリさんが僕を紹介する
その冒険者たちは
筋骨隆々の戦士、イケメン風の盗賊、そして……10代前半にしか見えない少女魔法使いだった
もっとも、蜂蜜酒を飲んでいるところを見る限り、最低でも18歳以上なのだろう(この世界では18歳から飲酒できる)
「後輩?
ああ、噂のスターハ村の生き残りか」
「ちょ、マーガンさん!」「…馬鹿」
ガチムチが2人からツッコまれる
「あ、すまねぇな」
「いえ、気にしないでください」
「マーガンはいつもデリカシーがない」
「そうですよ、だから脳筋なんて言われるんですよ」
「ひでぇ言われようだな、おい」
「確かにデリカシー不足だったわね
アキラ君、彼らは悪い人達じゃないから、挨拶でもしておいたら?」
そう言ってユーリさんは厨房へと去って行く
新人の僕に頼れる先輩を紹介してくれたのだろう
「明です、まだFランクの戦士です」
「俺はマーガン、Cランクチーム『トライエッジ』のリーダーで、見ての通りの戦士だ」
「俺はベイク、クラスは盗賊、弓使いの牽制役だよ」
「…ファーラ、魔法使い」
僕たちはそれぞれ自己紹介する
「ああ、1つだけ言っとくね
身長と年齢の話はファーラには禁句だよ」
「…ベイク、聞こえてる
……燃やすわよ?」
こっそり耳打ちしてきたベイクさんに、殺気を孕んだファーラさんが脅迫する
「デリカシーがないのは、俺だけじゃないみたいだな」
その後もモンスターへの対処法や昇格試験の内容、野営などのコツを、注文が入るまで教えてもらった
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「お疲れ様、アキラ君」
「はい、お疲れ様でした」
「じゃあ、この部屋を使ってね」
営業時間が終わり、掃除と食器洗いを終えた僕たちは
明日に備えて寝ることになる
さすがに一般の家に風呂はないので、生活魔法の清浄で汚れを落として寝ることにした
「はい、お休みなさい
ユーリさん」
「お休み、アキラ君」
思えば、なかなか濃い内容の1日だった
墓作りに始まり、ジェイス様との出会い、ギルド登録、武具購入、そして初依頼と日本では考えられないものだった
そんなことをベッドの中で考えながら、僕は意識を手放した……
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「あれ、ここは…」
あの神様といた時のような謎の空間で
僕は目を覚ました
「ようやく起きたか」
「…起きてはいない
ここは夢の中」
「誰?」
あの時と同じように、後ろから聞こえてきた声に、僕が思わず振り返ると
そこには、老人と女性が立っていた
「……えっと?」
老人はどこかで見た気がするものの思い出せず
女性の方は完全な初対面だ
と、言うより白い肌に長い黒髪、黒のワンピースはともかく
左右の手に一匹づつ巻きついている、黒と白の蛇はなんなんだろう?
はっきり言って、物凄くシュールだ
「わしがわからんのか?
つれないのう、お主の祖父だろうに」
「えっ?僕の祖父は……
って、そうかスターハ村の村長さん…」
ようやく老人の正体がわかった
死体で対面したから忘れていた
「で、なんで化けて出たんですか?」
「お主に礼を言うためじゃよ」
「お礼ですか?」
「死んだのは無念じゃったが
それよりも見ず知らずのわしらのために、墓を作ってくれたじゃろう?それが本当に嬉しくての
『死と眠りの神』ヒュレーネ様に、ここに連れて来てもらったのじゃ」
後ろの女性は神様だったらしい
「…わたしは忙しい
要件だけ早く伝えて」
「せっかちじゃのう
アキラよ、お主にスターハ村の遺産を渡そうと思ったのじゃ」
「遺産?」
「わしが若い頃に手に入れたものじゃ
わしの家の裏にある、丸い石の下に埋めてある
よかったら使ってくれ」
「いいんですか?」
「当然じゃ、このまま朽ち果てるより、誰かに使ってもらったほうがありがたい
それに『孫』に形見を残すのは普通じゃろう?」
「そうですね、ありがとうございます」
「礼を言いたいのはこっちのほうじゃ、本当に…」
「…時間、そろそろ…」
女神様が止めてきた
何かファーラさんと被る気がする
「そうですな、わしもようやく婆さんのところへ逝けますな」
「…少年、わたしからも礼を言う
では、良い眠りを」
そう言うと女神様と老人は消えて行った
そして僕は眠りの神の力か
朝までぐっすりと眠った
次回タイトル予告 新装備と指名依頼
用語解説
死と眠りの神ヒュレーネ
死と眠りを司る女神
腰まである長い黒髪と黒いワンピースを纏った姿で現れる
右手に眠りを司る分身体の白い蛇『ヒュプノス』を
左手に死を司る分身体の黒い蛇『タナトス』を常に巻きつけている
普段は寝ていることが多いため
高位の神官でも彼女の声を聞くことは稀
彼女の加護は
催眠のステータス異常完全無効
致死魔法完全無効
一時間以上熟睡するとHP、MP、ステータス異常完全回復など