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第1話 神の言葉

喉にナイフが刺さって倒れている巨大な熊の死体がある

これがブレードベアだろう


ナイフといっても、柄の部分に折れた棒の端が紐でくくりつけられ、近くに折れた棒の片割れが落ちているところを見ると、村人たちは手製の槍を使ってブレードベアを倒したらしい


しかしその周りには…


熊の爪で頭を割られ、脳を飛び散らした死体

腹を裂かれ、内臓が飛び出た死体

首があり得ない向きに曲がった死体などが散乱し、悲惨な光景が広がっている


(命の軽い世界)

(幻想でなく現実)

神の言葉が今更ながら頭に浮かび


「……うっ、うぷっ」


僕はこみ上げてくる吐き気に、物陰に移動すると胃の中身を全部吐き出した


もっとも、転生した際に、体内までリセットされたらしく、胃液しかでなかったが




■□■□■□■□




「誰かー、誰かいませんかー」


僕は既に修得していた、癒し手のL3のスキル『クールダウン』を使用して、心を落ち着かせると

生き残りの村人を探して村の中を移動していた


「……誰もいないみたいだ

やっぱりみんな死んじゃったのかな…

あ、そういえば…」


僕は再び神の言葉を思い出した

(ブレードベアに襲われて全滅した小さな村がある)

全滅『した』確かに神はそう言っていた


「つまり生き残りはいないってことか…

やるせないな…」


苦痛に満ちた表情の死体を見ながら

つい1人言を呟いた


「僕はこの村の人たちとは縁もゆかりもない

だけど、一応この村の生き残りという設定だったよな…」


僕が選んだ道は、せめて村人たちが安らかに眠れるように

お墓を作ることだった




■□■□■□■□




一通り村の内外を探索してみると

近くの丘の中腹にいくつかの木製の十字の墓標が見つかった

おそらくここが共同墓地だろう


ふと、思い立ってこの村そのものに『鑑定』を使用してみると

『(元)スターハ村

6戸21人の寒村だった集落

特産は岩塩と野兎等の干し肉、植物の蔓を使った細工物

村の北にある岩塩の採掘できる洞窟に干し肉等を保存している


住民は、村長兼長老のグリシェ(65)

グリシェの息子で猟師のグリート(43)

・』

と出た


そこで僕は、まず村の中からスコップや鍬、斧、鋸、ナイフなどの必要な道具を探した後

21人分の墓穴を掘り、なるべく家族が近くにいられるように

1人1人を鑑定して名前を調べ、穴に運び、埋めて行った


非力なはずの僕にこれだけの力仕事ができたのは

おそらくメインクラスに選んだ戦士のStr補正が効いているのだろう


そして薪用だったと思われる丸太を削り、組み合わせて十字にし、横木にナイフで名前を彫って墓標にする作業を行ったが

10人分完成したところで日が大分傾いてきたので

今日の作業はここまでにして

食事を作ることにした





■□■□■□■□



僕はまず、生活魔法のレベルを一気に10に上げ

着火ティンダー清浄クリーンアップなどを修得し

即清浄を使用して体の汚れを落とした


「やっぱり最後の120ポイントは大きかったな

それにタレントスキルのおかげで42ポイントでレベル10にできるし」


そして竈に着火で火を起こした後

村探索の過程で見つけていた畑から、この世界にも存在していたジャガイモと未成熟の大豆(いわゆる枝豆)を収穫し

さらに湧き水と岩塩を長老家族の家に運び、塩茹でにすることにした


「こんな時でもお腹はすくんだな

肉はちょっと食べたくないけど」


クールダウンと自分自身のスプラッタ映像を見ていたおかげで、吐き気こそ収まっていたが、どうしても今、肉は食べる気になれなかった


そして僕は茹で芋と枝豆を、口に押し込むようにして食べた後、複数の布団を重ねて、その間に入って寝ることにした


「紗那…父さんたち…

元気でやってるかな…

いや、僕が死んだばかりだから、さすがに無理かな…


明日…お墓が完成したら

アイワンだったかアワインだったかの町を目指そう…」


さすがに疲れていたのか

布団の中に入るとすぐに眠気が襲ってきて、僕は意識を手放した




■□■□■□■□




朝起きた僕は、汲んでおいた水で顔を洗い、昨夜の残りの茹で芋を食べた後

再び墓標作りの作業に入った


手慣れて来たのか、昼前には墓標が完成し、村人たちを埋めた場所に立てることでようやく墓ができた


その後、この世界の流儀がわからなかったので

日本風に正座し、手を合わせて冥福を祈った



そして茹でた干し肉とジャガイモを昼食にし、丁度いい長さと太さの棒と布で木刀を作り(この村には剣が無かった)さらにナイフと棒で槍も作った


「昨日の鑑定では、町まで2時間ほどと出ていた

今から出れば3時前には着けるだろう」



ようやく明の転生者としての生活が始まる

次回タイトル予告「騎士と従者」



用語解説

ブレードベア


個体によっては4メートルを超える巨大な熊

その名の通り、20〜30センチにもなる長く鋭い刃のような前足の爪が特徴


攻撃力は高いが、遠距離攻撃手段を持たず、長い爪のせいで移動速度はさほどではないため(それでも人間よりは速い)中級以上の冒険者から、よく狩られる存在でもある


肉は硬い上に臭く、食用には向かないが

毛皮は防具に、爪はナイフや槍の穂先になり

新鮮な肝臓は薬にもなるため

初級冒険者が無謀な挑戦をして返り討ちに合うことも多い

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