第49話 押し掛け奴隷のエルフさん
「…つまり、行方不明になった妹さんを保護していたアキラ君たちを、勘違いから攻撃してしまったわけですね?」
「そういうことになるな」
「そしてそのお詫びとしてアキラ君に仕えると?」
「レニーナを助けてくれた礼もあるな」
ティアさんは眉間を押さえながらロマリーさんの話を聞いている
「…まあ、アキラ君に怪我がなくて良かったですよ
傷1つでもつけていたら、『警告』になっていましたよ、全く…」
『警告』というのは犯罪を犯した人の名前が、ギルドカード等の身分証で黄色で表示されることを表している
犯罪の度合いによって、『犯罪者』、『死刑犯』と変わって行くそうだ
「うむ、アキラ殿は強かった。我が主に相応しい」
「だからといって僕の奴隷になるというのはおかしいのではないですか? そもそも他の方はなんと言っているんです?」
「そのことなら、長老様に報告したところ、激怒されたな」
だったら…、と、言いかけた僕だったが
「なにしろ、『レニーナの恩人に対してなんということをしたのですか!! 責任を取って来なさい!!』と、仰っていたくらいに」
(長老さーん、何を言っているんですか)
「我々エルフは、受けた恩は必ず返し、不始末の責任も必ず取るのだよ」
ロマリーさんは、胸を張って笑う
「状況はわかりましたが、犯罪者でも借金を返せないわけでもない人を奴隷にするのは違法です」
「何? そうなのか? だったら…」
「だからといって、犯罪行為や借金をしてもアキラ君の奴隷にはなれません
エルフの奴隷は珍しいので、オークションにかけられるか、まず貴族に話が行くでしょう
平民のアキラ君が、ロマリーさんを手に入れるのは多分不可能です」
むう…、と、ロマリーさんは言葉に詰まる
しかし、味方だと思っていたティアさんが爆弾ゼリフを口にする
「ですからロマリーさんがアキラ君のパーティに加わればいいんですよ
表向きはパーティメンバーですが、実質は奴隷、これなら問題ありませんよね?」
「ちょ…」
「なるほど、名案であるな」
なぜか僕を無視して進む話に僕は混乱する
「ちょっと、シーナちゃんもなにか言ってくれる?」
「え? あ、はい、ロマリーさん、御主人様の奴隷になるつもりでしたら、まず御主人様を第一に考えなければなりません
御主人様は優しい方ですから、わたしたちを大切にしてくださいますが、いざという時にはわたしたちが盾となってでも御主人様をお守りしなければなりません
その覚悟はありますか?」
「無論だ、私はエルフだ
エルフは誓いは必ず守る、その程度の覚悟もなしにここには来ぬよ」
「それでしたらわたしに異論はありません。一緒に御主人様にお仕えしましょう」
「シーナちゃんまで…」
本当に僕を無視して話が進んでいる
「仕方ないんですよアキラ君、エルフは頑固ですからね。こうでもしなければ、いつまでもつきまとわれますよ」
「ストーカーですかっ!?」
「では、アキラ殿、これからよろしく頼む」
「仕方ありませんね、でもいいんですか?」
「もちろんだとも、アキラ殿への恩を返せるなら、数十年程度の奴隷生活などどうということもない。それにシーナ殿を見る限り、酷いことはされないようであるしな」
そういえばエルフの寿命はかなり長いんだった
「ロマリーさんは攻撃魔法が使えますよね? 頼りになりそうです」
「では、改めてよろしくお願いします」
「うむ、よろしく頼む…いやお願いしますと言うべきでしたか…」
「言葉使いなんて気にしなくてもいいですよ、ロマリーさん」
「そういうわけにはいかんだろう
そうだ、これからアキラ殿のことを主殿と呼ぼう、私のこともロマリーと呼び捨てにして欲しい」
「ロマリーさん、それはちょっと…」
「ロマリーだ」
「ロマリーさん」
「ロマリー!」
「ロマリーさ」
「ロマリー!!」
「…ロマリー」
「うむ、主殿、これからよろしくお願いする」
自称奴隷なのにかなり偉そうだ
しかし、経緯はどうあれ、僕のパーティに魔法使いが加わってくれた
次回タイトル予告
完成と歓迎のパーティー
用語解説
犯罪
法律に違反する行いをすること
違反内容により、罰則も決まる
ギルドカード等の身分証には、犯罪行為を判断する機能もあり、情状酌量の余地のある犯罪には名前が黄色で表示され、実刑が確定する犯罪は赤、死刑が確定する凶悪犯罪者は黒になり、ギルド本部に情報が伝わる
ちなみに赤以上の犯罪者は全て『悪漢』と呼ばれ、殺しても罪にはならず、賞金も出る
もちろん生け捕りにして奴隷商人に売った方が高くなることも多いが、労力がかかり、逆恨みの危険もあるため殺すのが一般的である
そのため、犯罪者となった者は自首することも多い