第47話 パーティーの準備
僕は、とりあえずインビジブルスラッシャーを手に取り、『消えろ』と念じてみる
すると、柄は見えているものの、刀身が完全な透明になり、見えなくなる
念のために持ったまま動かしてみたが、ガラスのように角度によって光を反射することもなく、全く見えない
「本当に見えねえじゃねえか、間合いもつかめねえぞ」
「手首の動きを見れば攻撃は防げるかもしれないけど、見えないんじゃ難しいね」
「…あれ?」
左手に持ち変えようとすると刀身が見えるようになった。握る手の力を抜くと、効果が消えるようだ
まあ、確かに発動しっぱなしじゃ危険だし、チート過ぎる
「じゃあこれはベイクさんがどうぞ」
インビジブルスラッシャーはショートソードなので、ベイクさんが使うのがベストだろう
しかし、僕の言葉に皆が驚く
「いくらなんでもそれはねえよ、おい」
「今までのレアなドロップ装備は全部オレらが貰っているじゃないか」
「…アキラだけが何も手に入れていない
…このサークレットとタリスマンにその剣、マーガンのアミュレットだけでも5万ゴールドは超えるはず
…オークションに出せば、10万を超えてもおかしくない」
その言葉に僕の方が驚く
「えっ? そんなにするんですか? まだ10階層ですよ?」
「…価値は階層で決まるわけじゃない、実用性で決まるの
タリスマンはともかくアミュレットの需要はかなり高い」
「その剣もショートソードだし、直剣だから万人が使えるよ。当然高く売れるはず」
「サークレットだってそうだ、俺ら戦士でも魔力は使う。だから魔力がある程度減ったら帰還するのが常識なんだが、そいつがあればその常識すら変わっちまうんだよ」
「『まだ行けるはもう危ない』ですか」
確かに言われてみれば、どれも便利な効果がある
しかし、合わない装備品は別に必要ないのだから、使える人にこそ使ってほしいと思うんだけど
「そうだ! じゃあアキラたちが俺ら『トライエッジ』に…」
「…ダメ」
マーガンさんの勧誘をファーラさんが即却下する
「なんでだよ、おい」
「アキラの能力が高すぎるからよ
ベイクの代わりにはシーナがいるし、私やマーガンの代わりもいくらでもいる
だけどアキラの代わりはどこにもいないわ。むしろ私たちが仲間に入れてもらう立場よ」
「…それはちょっと畏れ多いのですが」
「そうでしょう? うちのチームは平等がモットーだからね。先輩を立てるタイプのアキラには合わないと思うわ」
「じゃあどうすんだよ?」
「とりあえず帰ってから決めましょうよ。迷宮はもう飽きました」
「…だな」
「…ボスフロアの階段部屋の中には転移魔方陣があるわ。それに入れば1階の安全部屋まで行けるわよ」
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「あー、やっぱり辛気くせえ穴の中より外の方がいいぜ」
「そうですね、空気もおいしい感じですよ」
「…まずは門番に報告して、ギルドでコアの換金、その後で酒場に行って分け前の相談、いいわね?」
迷宮を後にした僕たちは、義務づけられている報告を済ませ、魔核や毒針といった使い道のないドロップ品の換金をしてから酒場へ向かう
かなりの時間迷宮内にいた気もするのだが、実際はまだ午後3時から4時くらいのようで、酒場にはまだ僕たちだけしか客はいない、相談には好都合だろう
「…あらためて言うわ
アキラ、本当に助かったわ
ドラゴンフライに勝てたのはあなたのおかげよ、本当にありがとう」
「そんな、僕は全力を尽くしただけですよ、むしろファーラさんがいたからこそ勝てたと思いますよ」
「違うだろ、ドラゴンフライの眼を酸で潰すなんて戦法は初めて聞いたぞ」
「そうそう、さっきも言ったけど、1人で何役こなせるんだか、本当に規格外だよアキラ君は」
「いらっしゃいませー、ご注文はー?」
褒められてむず痒くなったところに、店員の女性が来てくれた
「…私たちはいつもので」
「僕は麦茶(この世界にもある)をお願いします
シーナちゃんは?」
「わたしはレモン水をお願いします」
「かしこまりましたー、エール2杯とミード(蜂蜜酒)3杯、ホットワイン1杯、それに麦茶とレモン水ですねー、少々お待ちくださいー」
…数がおかしい気もするが、誰もなにも言わないところを見ると、間違ってないのだろう
ちなみにここは酒場であって居酒屋ではないため、酒とつまみとソフトドリンクしかない
「よし、酒が来る前に難しい話は終わらせるぞ
さっき言った4つは俺らが貰うとして、それ以外は全てアキラたちに渡す。それでいいか?」
マーガンさんがなぜか僕に聞いてくる
「はい、もちろんいいですよ。というより本当にそれでいいんですか?」
「…もう少しアキラは物の価値を知った方がいい」
「はっきり言ってボッタクリに近いよ。アキラ君は大損することになるんだけど」
「そうなんですね、別に構いませんよ。シーナちゃんのマントも手に入りましたし、なによりもお金で買えないものも得ましたから」
迷宮での戦いの経験と、かなりの経験値を稼ぐことができたのだ。むしろ得した気分である
「…そう、ならばいつでも呼んで、私たち『トライエッジ』はあなたたちに協力するわ。みんなもいいわね?」
「当然だよ」
「後輩に借りを作るってのは性に合わねえからな」
…僕は、もう1つお金で買えないものを手に入れた
ベテラン冒険者との関係を
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「それでは3日後に、マーガンさんは本当に来ないのですか?」
「ああ、でかい家は苦手なんだよ。今度どこかで奢るから勘弁してくれ」
温泉完成記念のパーティーの日時を決めたのだが、やはりマーガンさんは来ないそうだ
「…パーティーは楽しむものよ、仕方ないわ」
「…そうですね、残念です。お土産を用意しておきますね」
僕たちは、酒場を出てから別れ、ファーラさんたちは宿屋へ、僕とシーナちゃんは家へと向かう
「シーナちゃん、僕はちょっと試したいことがあるから、悪いけど明日は1人で狩りに行ってくれないかな?」
「はい、おまかせください
またグリーンバードを獲ってきますね」
「無理はしなくていいよ」
僕は必要なものをいくつか買い、町の外に出てから『ワープ』で帰宅する
前々から仕込んでおいたあるものが、ようやく使えるようになったのだ
次回タイトル予告
意外な再会
おまけネタショート
マーガン「ふう、まるで何ヵ月も迷宮内にいた気分だぜ」
ファーラ「それは言っちゃダメ」
明「シーナちゃん、どうしたの?」
シーナ「…セリフがほとんどありませんでした」
明「仕方ないよ、5人もいたんだから」
シーナ「この作品は奴隷ハーレムものですよね?
ハーレムメンバーが増えたら、またセリフがなくなりそうですよ」
明「大丈夫だよ、多分ね」
シーナ「余計不安ですー」
エタってる間に思いついたネタ
プロローグ5より
神「言葉を伝えたいのは誰だい?」
明「えっと、両親、姉さん、紗那、祖父母が3人で7人かな」
神「その『T正』ってなんなんだい?」
明「えっ? ああ、数を数える時に『正』の字を5として数えるんですよ」
神「そうなんだね、じゃあそのTは2という意味なんだね」
明「そうなりますね」
神「じゃあついでにその数値もスキルポイントに加えておくよ」
明「いいんですか?ありがとうございます」
転生後の明「スキルポイントの確認をしようかな」
残りスキルポイント
200000000000000000000000……………
明「えっ?」
注(2正=2兆×千×千×千×千×千×千×千)
…こっちの方が受けそうな気がする…