第45話 竜の如き虫
僕たちは安全部屋で待機し、ボス戦に備えている
魔力回復のサークレットを使い回してMPを回復しつつ、これまでの戦利品の中で使えそうなものを一先ず分配することにした
「…陽炎のマントは盗賊用の装備だったはず
ベイクかシーナが持って」
「オレはいらない、弓ならともかく、接近戦でマントなんか着けたくない」
陽炎のマントには、野外での『ハイドボディ』の成功率が上がる効果がある
逆に言えば迷宮内では意味がなく、掴まれたり引っ掛かったりする危険もある
「じゃあシーナちゃん、どうかな?」
「…そうですね、少し矢が抜き難いかもしれませんが、慣れると大丈夫だと思います」
「…じゃあそのマントはシーナが使って
…次は耐毒のアミュレットね」
「俺かアキラだろ、ま、癒し手のアキラが妥当じゃないか?」
「いえ、僕には『インデュア』がありますから、盾役のマーガンさんがどうぞ」
「そうなのか? なら有り難く使わせてもらう」
そんなこんなで分配が終わり、全員のMPが回復するのを待ってからボス部屋へ向かうことにする
「僕たちはボス部屋は初めてなんですけど、どういうモンスターが出てくるのですか?」
「俺たちが戦ったのは、メタルビートル(金属カブトムシ)とアーマーセンチピート(鎧百足)、それにノイズホッパー(雑音バッタ)だったな」
「どれも魔法には弱いからね、ファーラがいたから楽勝だったよ」
「そうなんですね、だったらファーラさんを守るのが僕らの仕事ですね」
「…そういうこと、頼りにしてるわ」
僕らはそこで会話を打ち切り、ボス部屋の扉を開いて中に入って行った
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「…どういうことでしょうか?」
ボス部屋の中に入ったのだが、そこには何もいなかった
「ああ、ボス部屋は最初は何もいないんだよ
扉を閉めるとご対面だ、気をつけろよ」
僕たちは、範囲攻撃を受けないようにバラけ、ファーラさんだけはベイクさんの近くに立つ
「準備はいいかい? じゃあ閉めるよ」
ベイクさんが扉を閉めると同時に空中に魔方陣が浮かび、何かが飛び出してくる
「魔方陣が空中に? こんなことは初めてだぞ」
『何か』は、まるで僕たちを値踏みするように空中に止まる
「…ドラゴンフライ」
巨大な2対の透明な羽根、ミラーボールのような眼、長く伸びた尾、短めだが鋭い棘の生えた脚
ファーラさんの言葉通りの巨大なドラゴンフライ(トンボ)だった
「予定変更、マーガンは私を守って、ベイクとシーナは牽制、アキラは離れて、避けながら回復をお願い」
ファーラさんの指示が飛び、弓使い2人が矢を放つ
そしてファーラさん自身も詠唱を始める
ドラゴンフライは飛んでいるので、僕とマーガンさんの攻撃は届かない
「…煉獄の炎となりて吹き荒れよ『炎の嵐』」
ファーラさんの炎の魔法がドラゴンフライを襲うが、相手は空中で真横に動いてかわし、そのままファーラさん目掛けて突撃してくる
「させねえよ!!」
マーガンさんが割り込み、盾で受け止めるが、衝撃に吹き飛ばされそうになる
「オラァ!!」
押されながらも盾で左へ受け流しつつバトルアックスを振るうマーガンさん
しかし、今度は真上に移動しながら尾を叩きつける
「ぐわっ!?」
鞭のような尾の一撃を受け、今度こそ吹き飛ばされるマーガンさん
これはファーラさんの守りがなくなったことを表す
ドラゴンフライは脚を広げ、ファーラさん目掛けて再び突撃する
トンボが実際に行うように棘つきの脚で獲物を捕まえ、丸かじりするつもりなのだろう
しかし、そこにシーナちゃんのスパイラルショットが飛び、再びドラゴンフライは空中で身をかわす
「くそっ、なんて機動力だ」
「…『ヒール』しかも複眼のせいで死角がありません」
ようやくできた一瞬のチャンスに『ヒール』を使い、マーガンさんを治療する
「助かったぜ、アキラ
だが、このままじゃジリ貧だ。なんとかならねえか?」
「…難しいですね、文字通り縦横無尽に動く化け物です
なんとかファーラさんの魔法を叩き込む以外に勝ち目はありません
…あれ?」
ドラゴンフライは、狙いを定めるようにホバリングしていた。そして次の瞬間、『ドラゴン』フライの名前の由来を僕たちは知ることになる
長い尾の先をファーラさんたちに向け、そこから火炎放射機のように炎を吐き出したのだ
次回タイトル予告
ドラゴンフライとの死闘
用語解説
アミュレット
護符とも呼ばれる装飾品の一種
状態異常や魔法攻撃等に耐性を与えるものが多い
迷宮内でたまに見つかるが、需要が非常に高く、売りに出されることはまれ
また、全ての装飾品に共通していることだが、装飾品が纏っている魔力同士が反発するため、複数の装飾品を同時に装備すると効果を打ち消し合ってしまい、1人1つまでしか装備できない(なぜか装飾品以外の装備品とは併用できる)
また、似たような装飾品に呪符というものも存在するが、こちらは攻撃力や魔法攻撃力を上げたりするようなものが多い
守備的なものをアミュレットと呼び
攻撃的なものをタリスマンと呼ぶように分類される




