第44話 ボスの待つ部屋
「あれがドロップトレジャーですか」
迷宮内では、いつの間にか宝箱が出現することがあるという
出現条件は不明だが、モンスターとの戦闘後に出現することが多いらしい
そして中には特殊効果、すなわちスキル付きの武具もしばしば入っているそうだ
「…ラッキーね、ベイクお願い。念のためシーナも調べてみて」
「了解」
「わかりました」
一瞬なんのことかわからなかったが、ドロップトレジャーにはよく罠が仕掛けられているという話を思い出した
盗賊のスキル『ファインドトラップ』で調べろということだろう
ベイクさんが宝箱に近付き、何か調べた後に何も言わずにシーナちゃんと代わり、シーナちゃんも同じように調べだす
「…えっと、多分ですが…」
「ちょっと待って、一緒に言おう」
2人がタイミングを合わせて調べた結果を口に出す
「クロスボウボルト」
「矢が飛び出す罠だと思います」
2人の声がハモ…らずに違う言葉が出る
しかし言っている内容は同じのようだ
ちなみにクロスボウボルトとは、宝箱の中に小型の弩が仕掛けてあり、蓋を開けると矢が飛び出す仕組みになっている
当たり所が悪いと即死することもあるが、後ろから開けると問題ないため、もしかすると一番安全な罠かもしれない
「じゃあ開けるよ」
念のために全員が宝箱の後ろに回った後、ベイクさんが蓋を開ける
鑑定通りに矢が飛び出して壁にぶつかって火花が飛ぶ
「予想通り…っと」
軽口を叩きながらベイクさんが中身を取り出すと、僕たちに見せる
「…サークレット…ね
しかも魔力を感じる、レアアイテムっぽい」
「そうなんですか? 御主人様、お願いしますね」
シーナちゃんに促され、『鑑定』を使用する
『魔力回復のサークレット
レアリティ レア
防御 3
スロット① MP固定回復2 (1分間ごとにMPが10回復する)
② フィット
限界値 2』
「…装備すると魔力が回復する効果がありますね。それにフィットが付いてます」
「へぇ、そいつはすげえ…って、おいコラァ!?」
「…アキラ…あなた『武具鑑定』まで持ってるの?」
ドン引きのトライエッジの皆さん
「はい、御主人様は『武具鑑定』を持っておられます」
にっこり笑って自慢気に説明するシーナちゃん
そしてようやく落ち着いてきた3人
「…マーガン並みの攻撃力を持った癒し手で、アイテムボックスも持っていて、挙げ句の果てに鑑定スキルまで…」
「アタッカーでヒーラーでキャリーで鑑定屋って…
1人で何役こなすつもりなんだい?」
「どこに行っても引っ張りダコだろ、おい」
武具の買い取りにはルールがあり、攻撃力や防御力、その武具の需要、使い勝手で基本値が決まり、それに付いているスキルで最終的な値段が決まるそうだ
具体的にはプラススキル1つで買値が基本値の2割プラスされ、マイナススキル1つで基本値の1割マイナスされる
つまり、全く同じ能力の剣であっても、『魔法命中上昇』の付いた剣と『攻撃力上昇』と『魔法命中減少』の付いた剣があった場合、前者の方が店で高く売れるのである
しかし、剣と魔法を両方使う人は少ないので前者は需要がなく、店では後者の方が高く販売される
つまり、『鑑定』持ちがいると、良い武具を手元に残して安く買われるのを防ぐことができるし、パーティ内にいた場合は即装備することもできる
意外と重宝されるスキルなのだ
「…そういうことなら、このサークレットは私が使うわ、いいかしら? アキラ?」
「もちろんです、皆さんもいいですよね?」
当然異存はなかった
魔法を連発できる魔法使いがいれば、戦闘がかなり楽になるだろう
■□■□■□■□
以降の戦いはファーラさんが大活躍だった
アーミーアント(仲間を呼ぶ蟻)には炎の嵐が襲いかかり、毒針や酸入りの瓶ゲット
ヒュプノモス(羽根の模様で催眠術をかけてくる蛾)はエアハンマーで叩き落とし、マーガンさんの斧が止めを差して目薬ゲット
ミミックマンティス(壁の色をしていて見つけ難いカマキリ)はシーナちゃんが気付いたので、炎の矢一発で終わってブーメランシックル(投げると戻ってくる鎌)ゲット
ウィップテイル(尻尾が鞭のように長く、振り回して攻撃する蠍)は、やはり炎の嵐で丸焼きにして耐毒のアミュレットゲット
ファンネルマスター(巨大アリジゴク)には上からエアスラッシュで狙い打ちにして陽炎のマント(カゲロウの語呂合わせ?)ゲット
ちなみにファンネルとは『じょうご』のことで、巣がじょうごそっくりだからこの名前が付いたらしい
このような感じで瞬殺し、モンスターが複数出て来ても似たような結果になった
「凄いですね、やはり魔法使いがいると違いますね」
「ん、回復は大きい、実質使い放題」
「こんなテンションの高いファーラは初めて見たよ」
僕にはいつも通りに見えるのだが、ハイテンションらしい
「調子がいいから、このままボスまで行っとくか?」
「…賛成、癒し手のアキラがいる今なら、何が出て来ても対処できるはず」
「…僕たちは今日初めて迷宮に入ったんですが…」
「そういえばそうだったね、だけどオレたちは何度もボスを倒しているからね
アキラ君たちがいれば楽勝だと思うよ」
(うーん、いざとなるとワープもあるから大丈夫かな)
「そうですね、正直興味がありますし、行ってみましょう」
方針が決まったところで僕たちは地下10階を目指すことにする
相変わらずファーラさんが無双しながら進んで行き、地下9階の階段前まで危険もなくたどり着くことが出来た
「さてと、ボスフロアは今までとちょっと違う」
「…そう、部屋は3つしかない、安全部屋、ボスの部屋、そして次の階層に続く階段のある部屋」
「つまり、ボスを倒さないと次の階へ行けないってことですね」
トライエッジの3人が頷く
僕は気が引き締まり、地下10階へと続く階段を下りて行く
下りたすぐの場所にはいつも通りの安全部屋があり
真正面には…巨大な扉が僕たちを待っていた
次回タイトル予告
竜の如き虫
用語解説
ボスモンスター
迷宮の特定の階に出てくる大型のモンスター
ストラスの迷宮では10階毎に出てくるが、他の迷宮では6階毎だったり、2、4、8、16階だったりするように、何らかの法則がある
比較的浅い階では単体で出てくるが、深い階では2体で出たり、部下を連れていたりする
当然かなりの強敵であり、返り討ちに合う探索者も少なくない
ただし、複数のアイテムをドロップすることも多く、見返りは大きい
また、ダンジョンコアの直前にもボスモンスターが存在し、更に強さは上である




