第40話 探索者ギルドのテンプレ
来週仕事で東京へ行くことになっていて、忙しい作者です
書き忘れていましたが、前回登場したロマリーは、奴隷2号です
迷宮…地下に存在する謎の空間
迷宮…宝を餌に人を誘き寄せ、人を喰らうもの
迷宮…魔物と罠の巣窟にして夢と栄光へと続く道
迷宮…それは1つの生物、人を餌とし、魔物を生み出す
エルフ姉妹とのトラブルの翌日、僕たちは探索者ギルドに来ている
理由は2つあり、1つは迷宮に入ってのレベル上げと金稼ぎ
そしてもう1つは、『トライエッジ』の3人を探すためだ
ファーラさんたちを我が家へ招こうと思ったものの、どこに住んでいるのか知らないので、迷宮に入っているという話から探索者ギルドで待つことにしたのだ
「次の方…あら?
初めての人ですね
冒険者ギルドのカードはお持ちですか? 」
「はい、ありますよ」
僕とシーナちゃんは、受け付けの人にカードを渡す
「…えっ?
Cランク? まだ若そうなのに…
奴隷の人はEランクですね
問題ありません
迷宮の説明は必要ですか? 」
「はい、お願いします」
受け付けのお姉さんは、迷宮の説明をしてくれる
「まず、迷宮前には必ず番人がいます
その番人に入る時と出る時にカードを提示する義務があります
理由はわかりますか? 」
「現在誰が迷宮内にいるかを把握するためですか? 」
「はい、そうです
あと、犯罪防止の意味もあります」
「犯罪防止? ああ、なるほど」
仮にAというパーティが迷宮にいる時に、他のパーティがよく全滅していたら、AがいわゆるPKを行っている可能性が高いということになる
「あと、迷宮内の魔物を倒すと、死体が消えてコアとアイテムをドロップします
コアは窓口で買い取りますが、売る義務はありません
アイテムの方は、道具屋等で買い取ってくれますが、依頼として必要なアイテムの納品書が出してあることがあります
確認しておくことをおすすめします」
コアは、魔道具のエネルギー源になるので、需要が多いらしい
依頼書は、冒険者ギルドのように壁に貼ってある
「ちなみにここの迷宮では
1階では魔物は1匹のみ
5階までは1〜3匹
6階以降は一気に増えるといいます
調子に乗って降り過ぎると危険ですので、気をつけてください
また、10階、20階と10の倍数階にはボスモンスターがいますので、これにも注意が必要です」
(ボスモンスターね…
つくづくゲームだな)
ボスモンスターの部屋は特殊で、何故か6人までしか入れないらしい
また、倒すと数分で再出現するそうだ
「…と、このような感じですね
質問はありますか? 」
「ボス部屋の向こうに階段があって、ボスを倒さないと次の階層に行けないんですよね? 」
「はい、そうなります
まあ、ボスを倒す実力がないのに下を目指すのは危険ですが」
「あとは…
そうですね、迷宮内で他のパーティと戦闘になったらどうなりますか? 」
「申し訳ありませんが
迷宮内での生死は自己責任となります
返り討ちにした場合、相手が犯罪者だったらカードに『悪漢』を倒したと記録されて問題はないのですが
それ以外だとどちらに非があるのか判断できません
罪にこそ問われませんが、他の探索者などからの評判は落ちますので、逃げて後に報告していただくのが良いでしょう」
「わかりました、ありがとうございます」
「低層ならば2人でも良いでしょうが、下に行くほど魔物が強くなりますので、できれば4人以上での行動をおすすめします
あと、地図はどうなさいますか?」
「地図? 」
迷宮で死なれるのは困るので、罠の場所も書かれた地図を販売しているそうだ
ちなみに裏面にはその階層で出てくる魔物も書かれているらしい
「それは便利そうですね
おいくらですか?」
「1〜2階が50Gずつ
3〜4階が100Gずつというように2階ごとに50ずつ増えていきます
ただし、5枚以上を買われる場合は1割引きとなります」
「じゃあ、とりあえず6階までで」
僕は、ちょうど持っていた540Gを渡す
何故か受け付けのお姉さんは驚いた顔になる
「…え、ちょうどですね
計算早いんですね」
…普通だと思うが、よく見ると隣でシーナちゃんが混乱している
後で知ったが、四則演算がそれも暗算でできる人は少ないらしい
「いろいろありがとうございました
じゃあシーナちゃん、予習しておこうか
シーナちゃん? 」
いまだに指折りで計算している
…1割引きは指では計算できないと思うけど
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「1階のモンスターは…
Gキャタピラー(巨大芋虫)にボールワーム(巨大ダンゴ虫)、ポイズンバタフライ…
虫系が多いのかな?
あれ? ダンゴ虫って虫だっけ? 」
ポイズンバタフライは大型の蝶で鱗粉に麻痺毒がある
しかも血を吸うモンスターらしい
「ボールワームはシーナちゃんとの相性が悪そうだな
逆に蝶との相性は良さそうだ」
「そうですね、1階にはあまり動きの速い魔物はいないようです
わたしでもなんとかなると思います」
「もう少し待って
ファーラさんたちが来ないようだったら、試しに1階を回って見ようか」
「はい、わかりまし…」
「なんだぁ、なんでこんなところにガキがいやがる」
後ろから聞こえた大声に思わず振り返ると、3人組みの探索者がいた
声の調子とセリフの内容から、歓迎されていないのは明白だ
「おい、ガキ
迷宮探索は遊びじゃねぇんだ、中で人が死んだら迷宮が活性化する
迷惑なんだよ、とっとと帰りな」
(うわー絡まれちゃったよ
なんというテンプレ)
「まあ、そう言うなよバート
誰だって最初はガキだし初心者なんだよ」
僕より少し小さい男を、鎧で身を固めた大男がたしなめる
見た目よりは善人のようだ
「俺はDランク冒険者にしてここの常連のゴイラだ
教えてやる、男はまず筋肉をつけることだ
そうすれば俺のように、いい装備で身を固めて自分と味方を守れるようになる」
そう言うと彼は、名前は知らないがボディビルダーがやるようなポーズをとる
見た目と装備、セリフから彼はタンク役のようだ
まあ、この世界には『戦車』が存在しないので、タンクではなく、ディフェンダーと呼ぶのが一般的だが
いずれにせよ僕にはできない役割だ
「ありがたいアドバイスですが、僕には…」
「だろう?
じゃあアドバイス料を貰おうか」
3人ともいやらしい顔で笑っている
最初から恐喝するつもりだったのだろう
善人だと思った僕が馬鹿だった
「意味のないアドバイスを勝手に押し付けて
お金の要求ですか?
お断りします」
「金が無いんだったら、その奴隷でもいいぜ
可愛がってやるよ」
そのセリフにシーナちゃんが僕の後ろに隠れる
この前の山賊を思い出したようだ
「あなた方に渡すものはありません
ましてシーナちゃんは絶対に渡せません」
「先輩に逆らうってのか?
立ちな、教育してやるよ」
この間に『鑑定』を使ってみると、彼のレベルは17と僕よりも低い
パラメーターも、Str(筋力)以外は軒並み僕よりも低いが、油断はできない
『鑑定』では持っているスキルまではわからないからだ
「…ギルド内での争いは禁止されていたはずですが」
「争いじゃねえ、教育だ
わかってるとは思うが、武器を抜くのはご法度だぜ」
そう言うと、ゴイラは盾とメイスを味方に渡す
しかし、鎧と兜はそのままだ
「…そういうことかっ」
防具は武器ではないという屁理屈だろう
武器無しの僕では、重装備のゴリラもといゴイラに録なダメージを与えられないと思っているのだ
「先輩に逆らった自分を恨みな! 」
僕に殴りかかってくるゴリラ、じゃなくてゴイラの拳を後ろに跳んでかわすと、思わず同田貫を抜きかけるが、思い直してベルトから鞘ごと外し、シーナちゃんに投げ渡す
「シーナちゃん、持ってて」
「ガキィ!!」
今度は蹴りを繰り出すゴリラだが、やはり後ろに跳んで避ける
(パワーはありそうだし、当たったら痛そうだ
しかしスピードはないし、なによりテレフォンだ
負けることはないな)
「はっ!!」
ゴリラの大振りのパンチを横に跳んで避け、無防備の脇腹に蹴りを繰り出す
「ほう、やるじゃねえか
しかし非力だ、痛くも痒くもねえよ」
格闘スキルの、それも『カウンター』付きの蹴りを受けても平気のようだ
「頑丈だな、素手じゃダメージが入らないみたいだ」
「その通りだ、てめえに勝ち目は無いんだよ」
ならば『武器』を使うしかない
僕は動きを止め、ゴリラを睨み付ける
「ようやく諦めたか
ま、骨の1本は覚悟しな」
勝利を確信したのか、ゴリラが助走をつけて殴りかかってくる
僕はその腕を両手で受け止めながら後ろに倒れ、足でゴリラを跳ね上げるように後ろへ投げ飛ばす
柔道の巴投げだ
どんなに頑丈な鎧を身に着けていても、投げの衝撃は防げない
しかし、予想していないことが起こってしまった
本来なら背中から落ち、受け身をとれば最小限のダメージで済むはずだったが
ゴリラは柔道初心者がうっかりやってしまうように、思わず手をついてしまったのだ
勢いがつき、鎧を含めた自分の全体重を支えきれず、片腕が骨折してしまったようだ
「ぐあああっ」
激痛のあまり、転げ回るゴリラ
勝負あったとみていいだろう
「ちょっと、ゴイラさん
なに自滅してるんですか」
バートとかいった男がゴリラに話しかける
巴投げを知らない人には、自滅に見えるらしい
「…おいおい、なんの騒ぎだよ」
聞き覚えのある声が入口から聞こえ、僕と取り巻き2人の声が重なる
「マーガンさん」
「「マーガンの旦那」」
ようやく待ち人が来たようだ
次回タイトル予告
迷宮の中へ
用語解説
タンク
① 貯水槽
② 戦車
③ 味方を守ることに特化した戦士を表すゲーム用語
本来の意味は①のみだったが
かつて戦車を開発中だったイギリス軍が、スパイ対策としてW(水)C(運搬車)という暗号で呼んでいたのだが、トイレと頭文字が同じだったため、貯水槽を示すタンクと呼ぶようになり、後に正式名称となった
そして、ゲームで重装備に身を固めた戦士を戦車に例えてタンクと呼ぶようになる
ユピトアースでは、戦車が存在しないため、件の戦士をタンクと呼ぶことはなく
呼んでしまうと
「何を貯めるんだ? 」と聞き返されるのが落ちである
しかしボクシング用語であるテレフォンパンチは、この世界でも通用する
なぜなら、ギルドカード等には通信機能があり、『あらかじめ知らせる』ことが日常的に起こっているからである
(テレフォンパンチではなく、通信パンチというように翻訳される)
タンクの話しに戻すと
味方を守る戦士は、ボス戦では有効だが、基本的に移動に難があるため
普段は移動しやすい軽装備でレベルを上げ、ボス戦には重装備で挑むのが一般的である
この作品ではマーガンやゴイラがタンク役であり、ゴイラも本来は意外と優秀である