第37話 温泉の完成
「はっ!! 」
僕の同田貫が丸太を両断する
本当なら鉈でやるべきなのだろうが、薪割りとトレーニングを兼ねているので、敢えて刀で行っている
同田貫には『不破』の効果付きなので、丸太を斬っても刃こぼれ1つない
「御主人様、そろそろ…」
近くで弓の練習をしていたシーナちゃんが声をかけてくる
「と、こんな時間か
ありがとうシーナちゃん」
僕は『ワープ』でストラスに飛び、モルドさんたちを連れて帰って来る
そしてシーナちゃんを連れて今度はイーヴァに飛び、ヒールグラスの採取をするのが最近の日課だ
いい加減迷宮に入ってみたいのだが、心配性のシーナちゃんに、せめて1週間は危険のない仕事をするように釘を刺されている
まあ、予定では今日完成になっているので、明日からは送迎の必要はなくなる
(モルドさんたちには、イーヴァ製のエールでも買っていくかな)
「あら、いらっしゃいアキラ君
今日はグリーンバードとチャージボアの納品依頼が来てるわよ」
ティアさんといつも通りの挨拶を交わし、状況を聞く
ヒールグラス採取を指名依頼から通常依頼に変えてもらったので、雑用依頼もついでに受けることもできる
「アキラ君はもうCランクなのに、雑用も受けてくれるから
本当にありがたいわ」
「気にしないでください
採取のついでですから」
本当はもう1つ、スキルポイント稼ぎも理由なのだ
ポイント稼ぎは雑用依頼を短時間でこなすのが一番手っ取り早い
もうこの前のようなことはごめんなので、少しでも強くなりたいのだ
「あ、そうだ
この前の山賊退治の報酬がようやく決まったそうよ
後でマスターのところに顔を出しておいてね」
「わかりました、ありがとうございます」
さあ、今日も仕事が始まる
■□■□■□■□
「おう、来たかアキラ
待たせてしまって悪かったな」
ヒールグラスを採取してアイテムボックスに放り込み、シーナちゃんの弓矢で雉と猪を仕止めて血抜きをして納品するという
いつも通りの仕事を終わらせてドレークさんと会う
「いえ、仕方ないですよ
奴隷の女性がいたんですよね? 」
報酬の計算が遅れた理由
それはアジトの地下に部屋があり、その中に首輪を着けた女性がいたからだ
「そうだ、やっと所属していた奴隷商会と連絡がついた
拐われて1月経つから生きているとは思っていなかったらしい」
(…ん? )
「それならよかったです」
ふと違和感を感じたが、気にせずに話を続ける
「で、報酬についてだが
アジト発見と頭のドーンを含めた10人を倒したこと
アジト内にあった物の売却金の分配を合わせて
12400Gになる」
そう言うと、ドレークさんは1枚の紙を渡してくる
どうやら明細書のようだ
「窓口に行けば報酬を貰えるはずだ
今回は本当に助かった
イーヴァギルドのマスターとして礼を言う」
「いえ、こちらこそありがとうございます
僕たちだけではアジトを落とせませんでしたから
それでは失礼します」
僕らは、ドレークさんに一礼してから部屋をあとにする
(しかし今度は日本円で124万円か…
金銭感覚がおかしくなりそうだよ)
僕たちは、ティアさんから報酬を受け取り、預金する
いざというときのために、シーナちゃんのカードにも2000Gを預金しておいた後
商店街に行き、タオルや手桶を買い、さらに酒屋でお土産のエールとワインも買っておく
これからワープで帰ればちょうどいい時間だろう
■□■□■□■□
「お、帰ったか旦那
遂に完成したぜ」
家に帰った僕たちをモルドさんたちが迎えてくれる
「完成しましたか、楽しみです」
「おう、期待してくれ
早速説明しよう」
ドワーフにしてはせっかちだが、完成祝いの酒盛りを予定していて、終わったら酒場に直行するらしい
「まず、屋根を見てくれ
あそこの梯子で登れるようになっている」
屋根には、蝶番で開く板の窓が複数設置されている
中に湿気がこもるので、換気と温度調節のために開け閉めできるそうだ
そして引き戸になったドアから中に入ると、左右の壁に棚のある小部屋がある
脱衣室だ。ここで服を脱いでから奥の浴室に向かう
そして肝心の浴室は、10人くらいが余裕で体を洗える石床の場所と、同じくらいの面積の湯船がある
それとは別に2つの湯槽があり
1つには源泉、もう1つには冷ました温泉水が入っていて、湯船に流し入れることで温度調節ができるようになっている
また、排水は外に複数の沈殿槽があり、汚れを沈殿させた後、屋敷の周りの掘代わりの水路に流せるようになっていた
「素晴らしいですね
想像以上ですよ」
「そう言ってくれると俺らも嬉しいぜ
じゃあいつも通りストラスに送ってくれ
依頼料を払ってくれれば、晴れて依頼達成だ」
一刻も早く酒場に行きたそうなモルドさんたちを連れて、『ワープ』でストラスに飛ぶ
門をくぐるやいなや酒場に直行するモルドさんたちを尻目に
工務店に行って依頼料を支払い、差し入れとしてイーヴァの店で買った酒を置いて行く
「遂に完成したね
ファーラさんたちを招いて完成祝いのパーティーをしようか」
「はい、いいですね
楽しみです」
その前に完成した温泉を、帰ってからたっぷり楽しむことにしよう
次回タイトル予告
チェトナの里のエルフ
用語解説
ギルドマスター
冒険者ギルドや商業ギルドなどのトップのこと
支部ごとにマスターがいて
1月に1度集まって情報交換をしている
ギルドマスター、特に冒険者ギルドのギルドマスターは、下手な貴族より影響力があるため、多くの義務と特権がある
冒険者ギルドのマスターになるには
最低Aランク以上、複数の推薦人が必要で、実力と信頼が揃わなければならない
また、明言されてはいないが、暗黙の条件としてユニークスキルに目覚めている必要もある
(実際はギフトスキルの人もいる)
また、もう1つの暗黙のルールとして、二つ名が与えられる
ちなみにナディアのユニークスキルは、『エリアサーチ』というスキルで
範囲内の存在を知覚できるというアクティブスキル
一見地味だが、『ハイドボディ』や『インビジブル(不可視)』でも隠れられないため、効果は大きい
彼女の矢からは、決して逃れられないところから
災厄に例えて『災厄の魔女』と呼ばれていたが、ギルドマスターに就任してから
『災厄の女帝』と呼ばれるようになった




