第34話 憤怒の封印
残酷な描写、殺人もあります
また、途中にわかりにくい文がありますが、誤植ではありません
最近忙しくて返信できてませんが、必ず書きます
僕たちの前には、武装した山賊が10人もいる
しかもシーナちゃんは、麻痺毒で動けない状態だ
「まずいな…」
このままシーナちゃんを守りながら戦うのは不可能だろう
ならば、と、僕は小声で『ワープ』の詠唱を始める
「……1つとなれ、ワー…!? 」
詠唱が完成する直前、急に後ろに現れた気配に、僕は身をかわそうとするが、間に合わず頭に打撃を受けてしまった
「ぐっ!? 」
(そんな、『気配察知』に掛からなかったぞ…
そうか、『ハイドボディ』か)
うかつだった
おそらくは盗賊のスキル、『ハイドボディ』と『サイレントアクション』の会わせ技だろう
もしかしたら『サプライズアタック』もあったのかもしれない
本来『ハイドボディ』は『気配察知』を誤魔化せないのだが、相手のレベルが僕よりも上なのだろう
攻撃される瞬間まで察知できなかった
「さすがはお頭、見事な不意打ちですな」
「どんな奴も後ろは無防備だからな」
山賊たちの嘲笑が響く
僕は立ち上がろうとするが、頭を殴られたせいで平衡感覚が狂い、立とうとしても倒れてしまう
「ん? なんだこの剣は」
山賊の頭が僕の同田貫を奪う
「曲剣か?
いや、違うな…だがマジックアイテムなのは間違いないな
ありがとよ小僧、奴隷だけじゃなくて剣までくれるなんてよ」
「頭、奴隷娘が持ってたこの弓もマジックアイテムみたいですぜ」
「今日は大儲けですな」
僕は、回復魔法を使おうとするが、やはり頭部への打撃は深刻で、使うことができない
「ぐっ、か、返せっ」
「うるせえよ」
頭は僕の顎を蹴り上げ、さらにさっき僕を殴った棍棒で、僕の右膝を殴りつける
一撃で膝の骨は砕け、あまりの激痛に僕は声すら出ない
「とどめだ、死ね」
僕を殺そうと、頭を狙った攻撃を繰り出してくる
なんとか両腕で防ぐが、今度は両腕の骨まで砕けてしまった
「ぐあっ!? 」
「耐えたか、まあいい
プレゼントの礼だ、殺さないでおいてやるよ」
「頭ぁ、そんな状態じゃ、ほっとけば死にますよ
この辺にはブレードベアがいるんすから」
「そりゃそうだ」
再び山賊たちの嘲笑が響く
「よし、引き上げるぞ
その娘は縛っておけよ」
山賊たちは、シーナちゃんの手足を縛り、担ぎ上げる
そして笑いながら歩き去って行く
「……」
その姿が、シーナちゃんと初めて会った時のことを思い出させる
あの時も奴隷商人は、シーナちゃんを物扱いしていた
僕の心の中を凄まじい怒りが満たす
しかし、同時に頭の中が冴えて行く
(シーナちゃんを助けないと…
こんな状況になったのは僕の油断のせいだ)
痛みに耐えながら回復魔法の詠唱を始める
ようやく、魔法が使える状態まで回復したようだ
「聖なる生命の力よ、失われた身体を甦らせよ『復活』」
砕けた骨が逆再生するように戻っていくのがわかる
身体の欠損をも治せる魔法だ、複雑骨折も簡単に治る
「あいつらは、人を人と思わない連中だ
ならば…倒すしかない
もう…油断はしない」
僕は、アイテムボックスから鋼の剣を取り出し、山賊たちを追いかける
怒りを理性で抑え込み、最善の手段を探し、シーナちゃんを助けるという願いが僕を動かす
頭の中に
(『憤怒』に…れた…自…で…しました
セブ…シン…封印の1つを…)
というような声が響くが、気にする余裕はない
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「こんな若い娘…
もしかして処女ですかねえ? 」
「馬鹿か、若い男の奴隷だぞ
そんなわけねえだろうが」
「ま、楽しんだ後は売っぱらうから、順番を決めておけよ
壊れないように朝昼晩に1人ずつだ
わかってるとは思うが、一番は俺だからな」
頭の言葉に歓声が上がる
「今夜は頭の貸し切りとして…
全員終わるのはちょうど10日か、楽しみだなあ」
「1人3回までは楽しんでいいぞ
それが終わったらいつもの商人に売っぱらうから、そう伝えておけy…があっ!? 」
頭が言い終わる前に、口から血まみれの何かが飛び出す
そして再び口の中に消えると、頭は声も無く倒れる
山賊たちの驚きの声が上がった
それもそのはずで、先ほど重傷に追い込んだはずの僕が、血の付いた剣を持って立っていたのだ
「不意打ちの…お返しだよっ」
背後から山賊の頭の延髄に、鋼の剣を突き刺したのだ
当然即死である
怒りが心を満たしている影響か、思ったよりもショックを受けていないが
『人を殺した』という現実が、僕の精神に負荷を与えたようで、自分よりレベルの高い相手を倒したことと相まって、一気にレベルが2つ上がった
「はっ!! 」
さらに呆けていた山賊を、もう1人袈裟懸けにしたところで
ようやく山賊たちも我に返ったようだ
「てめえ! 」
「そこまでだ、小僧
こいつが見えないか?
武器を捨てろ」
山賊の1人が、シーナちゃんを地面に下ろし、剣先を突き立てる
「…人質は無事でないと意味がない」
「そうでもないさ
抵抗すれば、指を1本ずつ切り落とす
次は耳、その次は目だ」
さすがに人質の使い方を熟知している
しかし、1つミスをした
先ほどまでは担ぎ上げていたシーナちゃんを、今は地面に横たえている
一見違いはないように見える、というより状況は悪くなったようにも見えるが、僕にとっては決定的に違う
「…わかった、捨てればいいんだな? 」
「ご、ごひゅひんはま(御主人様)、らめれす(駄目です)
わらひはろうなっへも(わたしはどうなっても)…」
「シーナちゃん、大丈夫だから」
麻痺した身体で必死にうったえてくるシーナちゃんを安心させるように微笑む
僕は、『あること』をしておいた足元に鋼の剣を置き、さらにアイテムボックスから弓と矢筒を取り出し、鋼の剣の横に置く
「…これでいいな? 」
「アイテムボックス持ちだと?
…いいだろう、じゃあ武器から離れろ」
僕は、言われた通りに横に歩き、そこから離れる
一見大ピンチに見えるだろうが、これで勝利への布石は完成した
さあ、反撃だ
次回タイトル予告
山賊たちの終焉
用語解説
ヒールグラス
薬の材料となる草
日当たりの悪い山の中に生えている
土壌に特殊な菌が含まれていなければ育たないため、栽培は難しい
葉に回復作用が、根に解毒作用があり、加工することで薬効は強化される
薬の素材としても、また触媒としても優秀で、需要は多いのだが、傷みやすいために自生場所から離れたところでは高値で取り引きされる
もちろんこの場合、アイテムボックスは必須となる
高さは最大でも30㎝ほど
葉の色は濃い緑色で、春に白い花をつける
食べることもできるが、苦味が強いため、食材には向かない(パンに練り込んで食べる人もいる)