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第32話 試験合格と祝いの料理

いったい何が起こったのでしょうか?


評価やブクマ登録がうなぎ登りで

日刊ランキング12位?


正直混乱してます

翌朝、僕たちは2人でイーヴァへと飛ぶ

ランクアップ試験を受けるためだ


冒険者ギルドに入ると、そこには既にドレークさんとティアさんが待っていた


「おう、来たなアキラ」


「はい、今日はよろしくお願いします」


「シーナちゃんの試験には、私が付き添います

早速向かいましょう」


「はい、お願いします」


シーナちゃんの試験内容は、チャージボアを狩ることだ

今のシーナちゃんなら楽勝だろう

むしろ素早いホーンラビットの方が難しいかもしれない


そして僕の試験は、瓶入りの酒5本を、乗り物を使わずにイーヴァからストラスへと運ぶことだ


本来なら壊れ易い酒瓶を歩いて運び、戦闘などになったら瓶を守りながら行動する必要があるため、非常に難易度の高い試験である


しかし、僕には『ワープ』と『アイテムボックス』があるので、これ程楽な試験はないだろう


「…お前なら最短記録も作れるだろうが

一応怪しまれないように、1日くらい後に届けた方がいいぞ

それと、向こうのギルドマスターにこの手紙を渡しておけ」


僕の『ワープ』について書いてある手紙だそうだ


この試験では、本当に乗り物を使っていないかを確認するために、試験官が本来は同行する必要があるのだが

スキルで一瞬で移動可能な僕が、わざわざ乗り物を使うはずがないことを証明する手紙となるそうだ


「では、行ってきますね」


僕は、イーヴァを出てから『ワープ』で我が家に飛ぶ

そして、合格祝いの料理を作ることにする


万一シーナちゃんが失敗しても、アイテムボックスに仕舞っておけば再試験で合格した時に改めて出せばいい


あり得ないとは思うけど




■□■□■□■□




羽をむしり、頭と足を落とし、内臓を取りだしたグリーンバードに魚醤、蜂蜜、塩、酒、おろし生姜などで作ったタレで下味をつける


そして、皮を剥いて乱切りにしたジャガイモや人参を中に詰め、紐で縫い閉じて、蓮に似た植物タロスの葉で包み、水で練った小麦粉で全体を覆うようにくるむ


最後にその周りを泥でさらに包んでから、石窯の下、薪をくべるところに入れて火をつける


そう、中華料理の1つ、『富貴鶏』の応用料理だ

小麦粉でくるんだのは、泥の匂いがグリーンバードに移らないようにするためである


他にも、グリーンバードの骨や頭、足で取った出汁で作る野菜スープや

シーナちゃんの大好物のフレンチトーストの準備もしておく


きっと喜んでくれるだろう



■□■□■□■□



SIDE シーナ



「チャージボアは、この辺りでよく見るそうよ」


「わかりました」


昨日、わたしがグリーンバードを狩った場所の近くだ、チャージボアもいるらしい


「……」


わたしは、近くの木に登り、目を凝らして獲物を探す


御主人様に弓矢を買ってもらってから、何故か目がよくなり、遠くの獲物がよく見えるようになった


「……いました、チャージボアです」


「もう見つけたの?

じゃあ早速狩っちゃって」

「はい、わかりました」


わたしは、木の上から弓を構え、矢をつがえる

音を立てないように引き、狙いを定めて一気に放つ


「プギィィィイ! 」


矢は狙い通りにチャージボアの脇腹に突き刺さる

両方の肺を貫いたようで、苦しみに暴れた後、力尽きて倒れた


「お見事、一発で仕留めるなんて凄いわね

文句無しに合格よ」


「ありがとうございます」

「試験は合格だけど

冒険者の仕事は終わってないわよ」


「わかってます」


わたしはアイテムボックスを持っていないので

狩った獲物は、適切な処理をしなければならない


処理に失敗すると、売り値が激減することもよくあるのだ


わたしは、チャージボアの両後ろ足をロープで縛り、木に吊り下げる

そして、首の動脈と後ろ足の血管をナイフで切る


まだ心臓が止まっていなかったため、スムーズに血抜きができた


「血抜きも及第点ね

君といいアキラ君といい、最近の新人は凄いわね」


「新人ですか?

御主人様はいったい…」


「聞いてないの?

春先に住んでいた村が、ブレードベアに襲われたのが冒険者になったきっかけだったそうだから…

まだ半年も経ってないはずよ」


「どっ、どういうことですか? 」


ティアさんの話によると、御主人様の住んでいた村がブレードベアによって全滅し、たまたま留守だった御主人様だけが助かったらしい


「…そんなことが……」


「アキラ君がシーナちゃんを買ったのは、それが理由かもね

大事にされてるんでしょ? 」


「…はい」


御主人様もわたしと同じ天涯孤独の身

家族を失う悲しみは、わたしが一番よく知っている


わたしは必ず御主人様を守り、そしてわたしも死なない

そんな決意がわたしの中に生まれた


「…いい顔になったわね

一人前の冒険者の顔よ」


「はい! ありがとうございます! 」


それからわたしたちは、冒険者ギルドに帰り、合格の処理をやってもらった後

わたしは再びイーヴァの外に出る


御主人様との約束の場所に行き、約束の時間まで弓の練習をする

もちろん転移場所に背を向けて、万一にも移動して来た御主人様に当たらないようにしながらだ


「わたしは、もっともっと強くなります」


見ていてくださいね、御主人様




■□■□■□■□



SIDE 明


「では、僕とシーナちゃんの合格と、家を買ったことを祝って…乾杯」


「乾杯です」


僕とシーナちゃんの、2人だけのパーティーが始まった

この世界の飲酒は18歳からなので、まだその年齢に達していない僕たちは、お茶での乾杯だし

厳密には僕はまだ合格していないのだが、明日の朝ストラスのギルドに行けばいいだけなので、問題ないだろう


「あのう…御主人様?

あれはいったい……」


シーナちゃんが、床に置かれた泥の塊について聞いてくる

熱で固まり、まだ熱いので陽炎のように周りの空気が揺らいでいる


「やっぱり気になるよね

これは…」


僕は、予め用意していた木槌で、泥の塊をぶっ叩く

一発で罅が全体に入り、もう一発で崩れて、固まった小麦粉の生地が出てくる

それをさらに壊すと、タロスの葉に包まれたグリーンバードが現れ、同時にいい香りが溢れてくる


大皿に移し、タロスの葉を剥がすと、中から見るからにおいしそうなグリーンバードの蒸し焼きが出てきた


「お待たせ、富貴鳥だよ」

「ふうきどり? ですか? 」


僕は、シーナちゃんに説明する


昔、鶏を手に入れた乞食が、調理器具がなかったので泥で包んで蒸し焼きにしたところ、とてもおいしい料理ができたそうだ

そしてそれが金持ちの目に止まり、沢山の褒美を乞食が受け取ったことから

この料理は乞食鶏と呼ばれ、今では富貴鶏と呼ばれているのだ


「とても縁起のいい料理なんだよ」


僕は、富貴鳥を切り分けながら説明し、皿に盛る

中に詰めておいた野菜も、グリーンバードの旨味を吸っておいしくなっているだろう


「おいしいです、御主人様

やっぱり御主人様は凄いです」


富貴鳥を食べるシーナちゃんが感激している

やはり、自分が狩った獲物なので、おいしさも一入ひとしおなのだろう


もちろん野菜スープもデザート代わりのフレンチトーストも大好評で、楽しい晩餐となった


明日からは、モルドさんたちドワーフの職人たちが、温泉を作ってくれる

完成すれば我が家で温泉に浸かれるのだ


順風満帆な異世界生活に、僕のテンションも上がる


しかし、上手くいっているときこそピンチも潜んでいることに

この時の僕は気づいていなかった

次回タイトル予告

最大の危機


用語解説


松井 灯 (まつい あかり)


明の前世における実の姉で、女子大生

長めの黒髪をポニーテールにした一見清楚な和風美人


日本をこよなく愛し、空手、柔道、剣道はもちろん

合気道や薙刀、古武術まで習得していて、全てが有段者である


侍や日本の城も好きで、弟の明とよく会話していた

(明が侍に詳しかったのは、彼女が原因)




日本料理が好きで、日本で発展した他国の料理、カレーや洋食なども好きなのだが

家事ができず、躾を除いた家事のさしすせそ(裁縫、躾、炊事、洗濯、掃除)を

全て明に丸投げしていた


このことから、神様が性別を間違った姉弟と昔は言われていた


現在は、料理の勉強中だが、リアルで砂糖と塩を間違える腕前である

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