第31話 2人のランクアップ試験
僕は、『ワープ』でイーヴァに飛び、冒険者ギルドでシーナちゃんを待つ
今の時間は、ちょうど仕事を終えた冒険者たちが窓口に殺到し、ティアさんたち受付は忙しいみたいだ
シーナちゃんの状況を知りたかったのだが、これでは聞くこともできない
『パーティナイズ』の『位置把握』によると、こちらに向かって来ているようなので、危険は無かったと思うのだが
「ん? アキラじゃないか」
僕を呼ぶ声に振り返ると、ギルドマスターのドレークさんがいた
「兎娘を待ってるのか?
心配はいらんぞ、昼過ぎにはグリーンバードを3羽も納品していたからな
あと1羽で達成だったはずだからじきに来るだろう」
「そうなのですか
それは良かったです」
「…すまないが、兎娘が来たら一緒に俺の部屋に来てくれ
どうせしばらくかかるだろ? 」
ドレークさんは、受付を見ながら提案する
確かにあれでは時間がかかりすぎるだろう
「わかりました、お伺いさせていただきます」
建物の奥に向かって去って行くドレークさん
そして、その5分ほど後にシーナちゃんが入ってきた
「あ、御主人様
お待たせしましたか? 」
「いや、今来たばかりだよ
…あれ? 納品はしてないの? 」
シーナちゃんは、1羽のグリーンバードを持っている
先に納品を済ませておいた方が時間の節約になるのだが
「いえ、納品は済ませました
これは…その…」
シーナちゃんは、おずおずと僕にグリーンバードを差し出してきた
「…もしかして、僕にくれるの? 」
「はい、いつもお世話になってますから」
「ありがとう、今日…はさすがに無理だから
明日一緒に食べようか」
「はい」
笑顔で頷くシーナちゃん
そして、ドレークさんに呼ばれていることをシーナちゃんに伝え、僕らはドレークさんの部屋へと向かった
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「おう、来たかアキラ
まあ、座れ」
ドレークさんは、ソファーに僕たちを座らせると、自分はテーブルを挟んだ対面に座った
「話しってのは、ランクアップ試験についてだ」
「なるほど、シーナちゃんは条件を満たしましたから
明日にでも試験を受けられますね」
「そっちじゃねえ
お前の方だ」
「えっ? 」
予想だにしなかった言葉に思わず呆けた声が出てしまった
「僕ですか?
しかし、僕はDランクになったばかりで実績が足りないはずですが」
「いや、実績はある
カードを見てみろ」
言われるままにカードを出し、依頼の履歴をチェックしてみる
「…何もないと思いますが…」
「大ありだ
まず、失敗がゼロだ
そして評価だが、Cが2つ、それ以外は全てAかBだ
新人としては異常な実績なんだよ
しかも、さっきストラスに飛んで確認したが
初の護衛依頼で状況を的確に判断し、狼を何匹も退治し、回復魔法まで使ったそうじゃないか
こんな優秀な奴に向けての前倒し試験というのがあるんだよ」
前倒し試験とは、ギルドマスターの推薦による、特例でランクアップ試験を受けられる制度で、優秀だと認められた者にのみ許されるそうだ
もともとランクアップ試験は、低ランクの者が無謀な依頼を受けないようにするものなので、優秀かつ慎重な者に限られるらしい
ちなみに、前倒し試験は受験料がいらないそうだ
「お前の都合がいいなら
明日にでもその兎娘と同時に試験をしてもいいぞ」
「わかりました
僕も早くランクを上げたいですし、試験を受けてみます
シーナちゃんもそれでいい? 」
シーナちゃんも了承したので、明日は試験となる
モルドさんとの約束は明後日からなので、時間的にも都合がいい
「で、俺が推薦した理由だがな
…アキラ、お前、俺と同じ『テレポート』使いだろ? 」
「な、なんのことでしょうか? 」
「とぼけなくてもいい
俺はアワインのギルドマスターでもある
冒険者の出入りはチェックしてるんだよ
お前たちがストラスへの護衛依頼を受けた前日
何故かアワインにいたよな?
しかもその少し前にはイーヴァで確認されてる
だから調べてみたら、ストライヴァ家の客人を助けた時の状況などを、いくら計算しても時間が会わないんだよ
移動系のスキルを持っていない限りな
アキラ、お前には移動系スキルがある
それも、俺よりも遥かに汎用性の高いやつがな」
……ぐうの音も出ない正論である
そこまで調べられているなら言い訳はできないだろう
「…仰る通りです
確かに僕には『ワープ』というスキルがあります
ただ、汎用性が高いというのは誤りですが」
僕は、ドレークさんに『ワープ』について話す
パーティメンバー全て、最大6人まで同時に運べるという長所
そして、MP消費が激しく、運ぶ人数が増えれば増えるほど消費はさらに激しくなること
おまけに登録した場所にしか移動できないという短所も
「……なるほどな、それだけのスキルだから
なんらかのデメリットもあるとは思っていたが、それでも予想以上に凄いスキルだ
で、今はアワインには行けないんだな? 」
「はい、マーカーポイントには限りがありますから」
「前倒し試験は、お前みたいな奴を守るのが目的なんだ
高ランク冒険者ならば、お偉いさんなんかに使われることも少ないからな」
「なるほど、ありがとうございます」
「さてと、そろそろ受付も空いただろう
もう行っていいぞ」
僕たちは、ドレークさんに頭を下げ、部屋を後にした
そして受付で、シーナちゃんに明日の試験のクジを引いてもらい
『ワープ』で僕たちの家に帰った
明日は、試験である
皮算用かもしれないが、グリーンバードでお祝いの料理を作っておこう
次回タイトル予告
試験合格と祝いの料理
用語解説
グリーンバード
雉に似た鳥で体長は50センチ〜1メートル
雄は光を反射して輝くエメラルドグリーンの羽毛を持ち、長い尾羽が特徴
雌は濃い緑色だが、光を反射せず、保護色になっている
とても臆病で、人を見かけるとすぐに飛んで逃げるため、罠で捕らえるのが一般的
肉も卵もとても味が良く、雄の羽は飾りになるので、危険なく狩れる獲物のわりに高く売れる動物である




