第30話 ドワーフの職人たち
家を手に入れた翌朝、僕はシーナちゃんとイーヴァに飛び、冒険者ギルドに入る
シーナちゃんのランクアップのために、雑用依頼を受けるためだ
ストラスでなくイーヴァなのは、ここには顔見知りのティアさんがいるので、多少のわがままが通るというのが理由だ
「あら、アキラ君とシーナちゃんじゃない
もう帰って来たの? 」
「はい、早速ですが
シーナちゃんに合った依頼はありませんか? 」
「ああ、ランクアップのためね
そうねえ…グリーンバードの納品なんてどうかしら?
危険は少ないし、弓使いなら狩り易いしね」
グリーンバードとは雉に似た鳥であり、肉は美味いのだが、臆病で短距離だが飛べるために、罠や飛び道具で狩る鳥だ
今のシーナちゃんならいい獲物で、『ホークアイ』もあるから見つけることも簡単だろう
「この依頼は3件あるわ
1件は2羽納品だから、4羽狩れば条件が満たせるわよ」
「なるほど、シーナちゃんもそれでいい? 」
「はい! わたし頑張ります」
やる気満々のようなので、ティアさんに依頼書を渡す
「はい、承りました
アキラ君はどうするの?
また薬草採取の依頼があるけど」
「あ、すいません
僕はちょっと用事がありまして」
そう言って僕はギルドを、そしてイーヴァを後にしてストラスへ飛ぶ
そしてストラスの門をくぐり、昨日の不動産屋を目指す
そこならリフォームが得意な職人とコネがあるだろう
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「…なるほどな、その湯の湧く井戸を風呂に改造して欲しいと? 」
「はい、お願いします」
不動産屋から紹介してもらった工房には、ドワーフの職人たちが待機していた
「そりゃあもちろん構わねえがな
実際に見てみないと見積りも出せねえ、案内してくれるか?
念のため言っとくが、断る場合もキャンセル料として50G貰うぞ」
「はい、構いませんよ
では早速向かいましょう」
我ながらせっかちだとは思うが、日本人としては1分1秒でも早く温泉に浸かりたい
だから僕は、我が家までの移動時間30分も惜しみ、ドワーフの職人さん(モルドさんというそうだ)に、パーティ登録をしてもらい、『ワープ』で一気に移動した
軽率だったかもしれないが、職人には守秘義務もあるので大丈夫だろう
…モルドさんは顎が外れそうなほど驚いていたが
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「…なるほどな、湯の温度は…ならば…熱がこもりそうだな…」
僕の家の温泉を見るなり、モルドさんはぶつぶつと独り言を呟く
「どうでしょうか? 」
「ん? ああ、この館は風呂を作れる設計になってない
傷みが早くなるし、何よりも熱がこもっちまう
今の季節は地獄だぞ」
「そうなんですか…」
「だから外に小屋を建てて、その中に作るといい
値段は少し高くなるが、その方が良いものができる
見積りは…計算するから待ってろ」
僕は、内心ガッツポーズをする
さすがはプロ、最善の手が見えているようだ
温泉も、むしろ小屋の方が開放感があっていいだろう
「結構大仕事になるな
ここからこの辺りまで小屋を建てる
で、ここに湯の温度を調節する槽を作り、実際の風呂はここだ
あとは汚れを沈殿させる槽を作ればいいだろう」
モルドさんは外に出て、指差しながら説明する
思った以上に良いものができそうだ
「では、ここに脱衣場を作ってください
できれば家の中から、直接来れるようにして欲しいのですが」
「いいだろう
見積りは、材料費が3千から4千くらい
人件費は魔法使いを1人雇うとして、6千ちょっとくらいか
合わせて1万Gでどうだ? 」
「はい、それでお願いします」
ファーラさんのおかげで、資金は予定よりかなり余裕がある
魔法も使って建てるのならば、意外と早くできるのかもしれない
「商談成立だな
じゃあ、今日は設計図を作って、明日は資材作り、明後日から建て始めるとして、合計で1週間だな」
「そんなに早くできるんですか?
ありがたいです」
ちなみに、この世界の1週間は6日である
「お前のスキルでここまで運んでもらえれば
もっと早いかもしれんがな」
「もちろん構いませんよ
ただし、一度に僕を入れて最大6人までしか運べませんが」
「それで構わねえよ、じゃあストラスまで運んでくれ
俺らドワーフは足が短いからな、移動は面倒でしょうがないぜ」
「わかりました、では行きますよ
…ワープ」
僕らはストラスへ飛び、工房へ戻ると、カードの預金が1万G以上あることをチェックしてもらい、半分の5千Gを前金として払う
「よし、1週間後を楽しみにしておけ
っと、ついでだから職人を紹介してやる
ボドカ、ブラデン、ちょっと来い」
その言葉に、2人のドワーフがやって来る
既に出来上がっているようで、酒の匂いがする
「この旦那が雇い主だ
挨拶しておけ」
無言で頭を下げる2人のドワーフ
3人を『鑑定』してみると、Str(筋力)、Dex(器用)が異常に高い
頼りになりそうだ
「明です
よろしくお願いします」
挨拶を済ませると、明後日の9時に迎えにくる約束を交わし、シーナちゃんを迎えに行くために町の外に出る
しかし、イーヴァで思ってもみなかったことを、ギルドマスターのドレークさんから伝えられたのだ
次回タイトル予告
2人のランクアップ試験
用語解説
盗賊
パーティのサポートをするクラス
盗賊と名はついているが、盗みはせず、真っ当な職業
戦闘では牽制役となることが多く、迷宮内では罠感知と縁の下の力持ちポジションであり、癒し手よりも重要視されることも多い
ちなみに、盗みをする盗賊は、悪漢と呼ばれる
自動修得スキル サイレントムーブ (音を立てずに移動できる)
L1 ファインドトラップ(罠を感知する)
L2 リムーブトラップ(罠を解除する)
L3 ハイドボディ(身を隠すことができる)
L4 ドッジフォーム(攻撃がかわしやすくなる。ただし、こちらの命中も下がる)
L5 アイテムピッチ(アイテムを投げるスキル)
L6 レフティー(利き腕ではない腕でも利き腕同様の動きができる)
L7サイレントアクション(音を立てずに行動できる)
L8 サプライズアタック(相手に気付かれていない状態での攻撃時、攻撃力、命中、クリティカル率上昇)
L9 クリティカル率上昇
L10 ベノムアタック(攻撃に、自身で調合した毒を纏わせる。薬草学等と併用することで、より強力で多彩な攻撃ができる)