表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/56

第28話 温泉付きの館

「…アキラが料理上手なのは知っていたけど、そんなにおいしかったの? 」


「はいっ! 今朝も乾燥してパサパサになったパンを、とてもおいしく調理なさってました」


「…あり得ない

乾燥したパンをおいしく食べる方法なんて、スープに浸すくらいしかないはず

それを…」



「………」


不動産屋に家を買いに来た僕たちだったが、後ろから聞こえる女子の会話に二の句が継げない

目の前の不動産屋の人、ヘンリー氏も苦笑している


「…後ろはほっときましょう

確認ですが…」


「はい、居住区や商店街から離れた、静かで落ち着ける場所で、なるべく広めのキッチン付きの物件ですね

ご予算のほどは? 」


「10万Gくらいで

賃貸でも構いませんよ」


僕のその言葉に、ヘンリー氏は目を見開く


やはり、まだ17歳の僕が日本円で1千万円をポンと出すことは珍しいのだろう


「その条件でしたら……

3件ほどございますね

今からご案内しますが、よろしいですか? 」


僕は、当然了承すると

後ろで会話を続けていた2人に声を掛ける


「行きますよ、2人とも」

「あ、はい、わかりました、御主人様」

「…わかった、行く」



まだ午前中なので、3件ならば今日中に回り切れるだろう




■□■□■□■□



「ここが、もと食堂だったところで、立地が悪かったのが理由で閉店した物件になります

ご要望通りに広めのキッチンがついていますし

夜は静かになると思います」


「広すぎ…ですね」

「外に意外と人がいました」

「…それ以前に近くに鍛冶の工房があった

夜は静かかも知れないけど、昼はうるさいはず

冒険者は時間が不規則だから、止めておいた方がいい」


ファーラさんの言葉に合わせるように、外から鉄を槌で叩く音が響きだした

確かにこれでは、昼間に眠ることは難しいだろう


3件ともこの調子で

比較的安いものの、キッチンがゴミ捨て場の隣で臭いがしたり、欠陥住宅ぽくてすぐに壊れそうな家と、録な物件がなかった


「申し訳ありませんが

今回は縁がなかったということで」


「まあ、お待ちください

実は少し離れていますが、とっておきがあるのです」

「……とっておき、ですか? 」


なるほど、営業テクにある

『あらかじめ高い品を見せておき、後で質は落ちるが安い品を勧める

わざと質の悪い品を見せ、後で本命を見せる』

というやつの後者だろう


「とっておきがあるなら

もっと早く言って欲しかったですね」


僕は、敢えて不快な顔をする

相手が営業テクを使うのなら、こちらも対抗するのが買い物のコツである


「これは失礼しました

ですが、本当にお勧めですよ

昼食の後で向かいましょう」


…有無を言わさず、食事も一緒にとることになった


ちなみに、ヘンリー氏の分も僕が払った

ファーラさんが言うには、わずかでもお金を出しておくことで、後に勧められたものを断り易くなるそうだ

…ファーラさんの分もなぜか僕が払ったが





■□■□■□■□




「…離れた場所とは聞きましたが」


「…町の外とは思わなかった」


「…静かなのは間違いないと思いますけど」


その物件はストラスの町の外、30分ほど歩いた場所にあるらしい

舗装こそされていないが、広めの道で意外と歩き易い

「さて、気になっていると思いますから

件の物件についてご説明したいと思いますが…」


ヘンリー氏は僕らに説明をしたいらしい

確かに30分ただ歩くのは退屈だから、説明してもらうことにしたが…

その説明は予想だにしないものだった


「皆様はストラスの町についてどこまでご存知でしょうか?

ストライヴァ家の本拠地と現在はなっていますが

ほんの50年ほど前は違っていたのです」


ヘンリー氏が言うには、ストライヴァ家のもともとの本拠地はイーヴァの町だったそうで

ストラスはただの漁師町であり、漁で生計を立てていたのだが、実は漁だけでなく農業も行っていたらしい


その畑がこの辺りにかつてはあったが、ストラスの発展とともに徐々に縮小していき、現在は残っていないそうだ


そして畑を荒らす獣から農民を守るために、修行を兼ねた部下たちと滞在していた別邸が件の物件だそうだ


そしてストライヴァ家が本拠を移転した際に、ストラス中心部に新しく本邸を建て、別邸は破棄された

それをヘンリー氏の店が買い取り、リフォームして

あの『ストライヴァ家』が住んでいた家として売り出そうとしたのだが、予想に反して誰も買おうとしなかった、というのが現状だ


「そりゃあこんなに離れたところならば、買う人はいないでしょうね」


「お恥ずかしい限りです

…と、見えて来ましたよ」

「わあ、大きいです」

「…思った以上の家ね」


その館は、貴族の元別邸だけあってかなりの広さがあった

石造りの2階建てで、部屋も多そうだ


「早速中をご案内しましょう」


ヘンリー氏に案内され、僕たちは館の中に入って行った





■□■□■□■□




1階には、使用人の部屋だったと思われるところが、キッチンの隣に2部屋あり、玄関のそばに部下の部屋だったらしいところが1部屋あった


そして要望通りの広めのキッチンがあり、隣にやはり広めの食事用の部屋、さらに隣に応接室がある


後は倉庫やトイレといった普通のスペースがあり

2階にはベッド付きの個室が10部屋もあった


しかも、定期的に掃除をしているようで部屋全てが意外なほどきれいだ


すると、ヘンリー氏が窓から外を指差し


「あれが貯水槽となります

雨水を貯めることができますので、水の心配はいりませんよ」


この世界は空気がきれいなので、普通に雨水を飲むことができる

もちろん貯め置いた水は煮沸するか『浄化』の魔法をかける必要があるが


「…ちょっと待って

たしか外に井戸があったはず

何故雨水を使う必要があるの? 」


ファーラさんの疑問に、ヘンリー氏が絵にかいたように挙動不審になる


「それが、その…

その井戸水は飲めないのです

飲んだ者が腹を壊したりするので…

しかも毒ではないらしく、『浄化』も効かず、温度も高く火傷の危険もあり…」


(温度も高く? まさか…温泉? )

「…すいませんが、その井戸を見せてもらえませんか? 」


内心興奮していたが、必死に抑え込んでヘンリー氏に頼む


温泉が出るのならば、是が非でも買おうと思うのが、世界一の風呂好きである、日本人の習性である

次回タイトル予告

家購入と更なるリフォーム


用語解説

松井 明


この作品の主人公

日本の高校に通う、普通の高校生だったが、不幸な事故死をしたせいで、ユピトアースに転生する


ちなみに容姿は変わっていないが、1度肉体を分解、再構成されているため、背中の傷が消えている


本来ならば、容姿、年齢を変えることもできたが、まだ未成年だったこともあり、神がそのままの姿で転生させた


容姿、運動神経、成績は全て平均近くと、自他ともに認める普通の高校生だったが

女子力皆無の姉『あかり』の影響で、家事、特に料理が異常に上手い


実は料理技能と気配りができる性格から、前世ではそこそこもてていたのだが

自分を普通だと思っていたことと、幼なじみの『萬羽まんば紗那さな』と公認カップル扱いだったため、もてることに気づいていなかった

ちなみに明と紗那2人とも互いに告白せず、友達以上までは進展しなかった


転生後はスキルポイントを操作する力と前世知識を合わせて、異世界生活を満喫中である


ちなみに覚醒はかなり後だが、まさにチートと呼ぶにふさわしいユニークスキルを持っていて

あまりに凶悪なので、至高神ユピトスから封印されていたりする

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ