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第27話 家探しと両手に花?

念のため、家探しは「いえさがし」です

やさがしではありません

僕は、火に掛けたフライパンにバターを溶かし、昨夜のうちに溶き卵、ミルク、蜂蜜の特製卵液に浸けておいたパンを焼く


フレンチトーストの甘く香ばしい香りが部屋に漂い、シーナちゃんが大きく目を見開き、ウサミミも期待に揺れている


ひっくり返して両面にじっくりと火を通し、皿に乗せてシーナちゃんに渡した


「はい、どうぞ

熱いからナイフとフォークで食べてね」


「えっ? あの…

御主人様の分は?」


「僕の分は今からだよ

冷めると味が落ちるから、熱いうちに食べて」


僕はシーナちゃんに背を向け、再びフライパンにバターを溶かして自分の分を焼く


「…あれ?

食べてて良かったのに」


僕の分を完成させてテーブルにつくと、シーナちゃんは、食べずに僕を待っていてくれた


「では、いただきます」

「いただきます」


蜂蜜を使ったフレンチトーストは初めてだったが、なかなかおいしくできた


シーナちゃんも

「こんなおいしいものは

初めて食べました」

と、言って涙ぐんでいた

今から探す家は絶対キッチン付きにしよう




■□■□■□■□




「今から家を買いに行くけど、シーナちゃんは希望はある? 」


シーナちゃんはきょとんとしながら首をかしげる

どうやら、奴隷の希望を聞くなんてあり得ないと思っているらしい


「どういう家とか、部屋とか家具がいいとかない?

一緒に暮らすんだから、聞いておかないと」


「え…あ、ええっ

わ、私奴隷ですよ、希望なんてそんな…」


ようやく理解したようで、あわてて断ってきた


「できればストレスなく暮らして欲しいから

言って欲しいけど」


「あ…ではその…

できればでよいのですが…

人の多いところはちょっと…」


「そうだね、人が多いと落ち着かないし、値段も高いからね

なるべく町外れを探そうか」


「はい、ありがとうござ…

あら? 」


話の途中で、シーナちゃんのウサミミが、急に別方向を向いた


「御主人様、あちらの方から

その…知っている人の声がします」


「知ってる人? 」


「はい、ファーラさんの声がします」


改めて兎獣人の耳の良さに驚く

しかも少し困ったことになっているらしい




「ねえ、いいだろ?

お嬢ちゃん、付き合ってよ」


「…うるさい、燃やすわよ」


「お、いいねぇ

燃えるような恋かな?」


…シーナちゃんの言う通り、ファーラさんがいた

しかも、ナンパされているらしい


まあ、ナンパ男の彼はイケメンの部類だとは思うが、軽いタイプでファーラさんの好みではないだろう

…と、言うより口に出しては言えないが、いわゆるロ○コ○のようだ


「……」


僕の命知らずな思考を感じとったのか、ファーラさんがこちらを向く


「…あ、アキラ」


助かった、という顔をしたファーラさんが走って来て、僕の左腕に両手を絡めてきた

俗に言う、『恋人のふり』というやつだろう

ただ、身長差のせいで恋人同士というより、年の離れた兄妹のように見えるかもしれないが


「おいおい、なんだお前は

そのお嬢ちゃんは俺とデートするんだ

お前は引っ込んでろ」


「そうなんですか?」


「…違う

しつこいナンパ男

私の一番嫌いなタイプ」


心底嫌そうな顔でファーラさんが答える

僕の後ろでシーナちゃんも引いているようだ


「だそうですよ

諦めてもらえませんか? 」


「うるせえ!

なんなんだよてめえは

いきなり出てきやがって

その娘とどんな関係だよ」

「…一つ屋根の下で寝た仲? 」


ファーラさんのその言葉に激昂するナンパ男


確かに嘘ではないが(先日の護衛依頼の時に、部屋は違うが同じ家で寝た)

誤解させるような表現はやめてほしい


「てめえ、こんな小さなお嬢ちゃんを毒牙にかけやがったのか!

しかも奴隷まで連れやがって」


殴りかかるナンパ男の拳を、僕はかわし、受け流し、受け止める

強さは大したことはない

武器を使われても負けることはないだろう


当たらないことに更に激昂するナンパ男


「野郎っ

大人しく殴られろっ!」


「…あのうファーラさん

面倒事はごめんなのですが…」


僕はいい加減うんざりしたので

ナンパ男の右ストレートを左手で払いながら側面に回り、右腕の下から僕の右腕を通し、左腕をナンパ男の首に巻き付け、絞め上げる


柔道でいう、『片羽絞め』が決まって、ナンパ男の首が絞められた

しかも、柔道ではご法度だが、ナンパ男の地面についた左手の甲を軽く踏みつけて、両腕を完全に封じた上で首を絞めている


「完全に決まったので、逃げられませんよ

もう一度言いますが、諦めてもらえませんか?

でなければ…」


左腕と左足に軽く力を込めると、ナンパ男は必死で首を縦に振って肯定してきたので

解放してあげると、一目散に走り去っていった


「…助かった、ありがとうアキラ

あの馬鹿は私が魔法使いだと、何度言っても信じなかった

こんな場所で攻撃魔法を使うわけにもいかなかったし」


「…カードを見せればよかったのでは? 」


ファーラさんは、今気づいたという顔をした

意外と抜けているらしい


「…ところで、アキラたちは何をしているの? 」


「御主人様が家を買いに行くそうです」


話を逸らそうとしたファーラさんに、シーナちゃんが答える


「…家を? アキラが? 」

「あー、その…

先日臨時収入がありまして、まとまったお金が手に入ったんです

そもそもシーナちゃんもそのお金で買いましたし」


「…Dランク冒険者が家と奴隷を?

一体どうすればそんなに稼げるの? 」


「もちろん秘密ですよ

第一、もう二度とないでしょうから」


さすがに、お忍びの王族の命を救うなどということが、二度あるとは思えない


「…面白そうね

私も着いていっていい? 」


シーナちゃんも、期待に染まった目で僕を見てきた

人見知りするシーナちゃんにとって、知っている人が増えれば安心するのだろう


「わかりました、いいですよ

アドバイスをお願いしますね」


僕が、予定通りに不動産屋に向かって歩き出すと、シーナちゃんとファーラさんが、女子トークをしながらついてくる


両手に花かとも思ったが、どちらかと言えば雛を先導するカルガモの親の気分だった

次回タイトル予告

温泉付きの館



用語解説

マイナス効果


マジックアイテムについているデメリットの総称


具体例は作品中でも出てきた

ブレ上昇や射程減少の他


『切れ味減少』『特定属性被ダメージ増加』などがあり

『魔法射程減少』などの戦士系などにはデメリットにならない効果もマイナス効果と呼ぶ


当然マイナス効果無しのアイテムより安くなる


ちなみに、効果が2つまでのマジックアイテムのレアリティはレアで

3つ以上からスーパーレア、アーティファクト…となって行くが

マイナス効果は文字通りマイナスで計算するので


プラス効果3、マイナス効果2のマジックアイテムのレアリティはレアとなる

(計算上マイナスになっても、効果付きの時点でレアになる)


マイナス効果があるレアアイテムを、ハズレアと呼ぶこともある


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