第25話 刀と侍
「ありがとうございました、皆様
これで依頼達成となります」
ストラスへと到着した僕たちは、依頼主からの達成書をファーラさん(最もランクが高いチームの代表)が受け取った
これで冒険者ギルドに行けば依頼料を貰える
まだFランクのシーナちゃんの分は貰えないが、評価は付くのでランク上げには近づいたはずだ
「よし、じゃあギルドに向かおう」
「そうだな、山分けしたら飯でも食うか」
「…そう言えば、どうしてアキラたちはストラスに来たんだっけ?」
『トライエッジ』の皆さんの台詞に、僕は
「最大の理由は来たかったからですね
マジックアイテムも売ってるそうですし
できれば迷宮にも入ってみたいですから」
「そうなのか、だがシーナはFランクだろ?
まだ迷宮には入れないぞ」
「そうなんですか?」
マーガンさんが言うには
迷宮を管理する探索者ギルドは、元々冒険者ギルドから枝分かれした組織であり
冒険者ギルドのように依頼を受け付けたり、素材を買い取ったりもするのだが、当然ある程度の戦闘力も求められるため、Eランク以上でなければ許可が出ないそうだ
もっとも、今のシーナちゃんなら、トライデントディアーはもちろん、ブレードベアにも勝てるとは思うけど
「なるほど、ではシーナちゃんのランク上げが先決ですね」
「なあに、シーナならすぐに上がるだろ
素早いブラックウルフに矢を当てられるくらいだ
ベイクより才能は上なんじゃねーか?」
「…シーナのランクが上がったら、一緒に迷宮に入ろう
アイテムボックス持ちの癒し手であるアキラがいると、探索が楽になる」
「そうですね、是非お願いします」
そういう会話をしているうちに僕たちは冒険者ギルドに到着し、依頼料を受けとるとパーティを解散した
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「じゃあシーナちゃん
宿を決めてから武器屋とかをまわろうか」
「はい、わかりました」
シーナちゃんはにこにこしながら頷くと、僕の後ろに着いてくる
ストラスの町は、今までのどの町よりも大きく、人も多い
港町は人や物が集まり易いのだ
「御主人様、見たことない魚を売っています」
「汽水湖みたいだからね
魚の種類も豊富なんだろう」
「きすいこ? ですか? 」
ストラスの町の面している湖は潟湖であり、流れ込む川もあるし、満潮時には海水が逆流してくる
そのため、真水と海水が混じりあって独特の生態系をつくっている
普通、ラグーンに流れ込む川は流れが緩やかなので、泥が堆積することが多いが、その川は途中に滝があって滝壺に泥が沈殿するため、きれいな水が流れてくるらしい
「そうなのですね、さすが御主人様です」
「ラグーンにしては水がきれいだし、今日は魚料理でも食べようか?」
「はいっ!」
シーナちゃんは好き嫌いは無いと言っていた通り、魚料理も好きらしく、頭の上のウサミミもピンと立って嬉しそうに左右に揺れている
「じゃあ急いで宿を探そう」
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「…思ったよりいいのはないなあ」
僕たちは宿を決めた後、武器屋に来ている
宿は調理可能な素泊まり宿だったため、武具の買い物が終わると食材の買い物も待っている
そのため、『鑑定』を駆使しながらチェックしているが、これはというものがない
「御主人様、魔法の弓がありました」
「へえ、どれどれ…」
『剛力の弓
レアリティ レア
矢の威力とブレが大きくなる』
「…はずれだね」
一瞬当たりかとも思ったが、ブレが大きくなるのはマイナスでしかない
いわゆるハズレアというやつだろう
「お兄さん目利きだね
『武具鑑定』持ちかい?」
「え? あ、まあそんなところです」
店長さんが出て来たが、ダメ出しをしていたにもかかわらず、嫌な顔をしていない
自分の店の商品の詳細はわかっているのだろう
ちなみに『武具鑑定』とは『鑑定』のほぼ下位互換のスキルで、武具しか鑑定できない代わりにMP消費がない
「『装備をけちる冒険者は命を削る』と言いますからね
慎重にならざるを得ません」
「それならもっと早く…
開店直後に来ないとな」
店長さん曰く
迷宮の中は昼も夜もないとはいえ、宿などの都合上探索者たちは、朝出発して昼間迷宮に潜り、夕方辺りに出て戦利品を換金して宿に戻るという生活をしているそうだ
そして武器屋は、買い取った武具の利益を計算し、翌日値段をつけて販売するため、店頭に並ぶのは翌朝になり、いいものは朝のうちに売り切れてしまうらしい
ゲームと違って買い取ったものを、即販売ということはないのだ
「それは知りませんでした」
「おいおい、『武具鑑定』持ちが何言ってんだ?
基本だろうが
…と、そうだ、面白いやつがあるんだが、見て見ないか? 」
そう言って、店長さんは奥からとある武器を持って来た
それを見た瞬間、僕は驚愕した
「それは…刀じゃないですか!?」
そう、それは紛れもなく日本刀だったのだ
「ほう、やっぱりわかるのか
この辺じゃ使えるやつがいないからな、安くするから買ってみないか? 」
「…手に取ってみても? 」
店長さんの許可を得て、鞘から抜いて軽く振ってみる
技量は必要だろうが、重さもバランスもちょうどいい
だが、その瞬間、頭の中でお馴染みの効果音がなった
『戦士レベルが8を超えました
正々堂々とした一騎打ちを行いました
主に仕えました
刀を装備しました
仁義礼智忠信勇の徳のうち、過半数を満たしました
侍への転職条件を満たしました』
侍? この世界にも侍がいるらしい
次回タイトル予告
騎士から侍へ
今回の企画
おまけショート
(台本形式となります)
シーナ「御主人様、申し訳ありません
こんなパンしか売っていませんでした」
シーナちゃんは、落ち込んでウサミミが倒れている
明「大丈夫だよ
ちょっと乾燥してるけど
卵とミルクがあるし、砂糖はなかったけど、蜂蜜はあるから
明日はおいしい朝食が作れるよ」
シーナ「本当ですか!?」
シーナちゃんは機嫌を治して、ウサミミが嬉しそうに左右に揺れている
明「………ごめん、シーナちゃん
もう我慢できない!」
シーナ「えっ?
きゃあ!? 」
明「………」
ウサミミモフモフ中
シーナ「あ、あの…」
明「………」
ウサミミモフモフ中
シーナ「…ご、御主人様?」
10分後
明「…ふう、満足したよ
ありがとう、シーナちゃん」
シーナ「あ、あのう…」
去って行く明
シーナ「…弄ばれたー!?」