第23話 ストラスへの旅路
「おはようございます、御主人様
そろそろ時間ですよ」
「…ん? ああ、わかったよ
ありがとう、シーナちゃん」
部屋の外からシーナちゃんが、声をかけて僕を起こしてくれた
今日は護衛依頼でのストラスへの出発日だ
昨日は忙しかったため、いつもより遅い時間まで寝てしまった
なにしろ、まず薬草採取に湿地帯に行き、次にアワインに飛んでシーナちゃんの装備を買い、すぐにイーヴァにワープ
そして教会に行って薬草を納品したが、ポイントが足りなくて、最終手段を使ってポイントゲットし、『パーティナイズ』のレベルを上げて、さらにシーナちゃんのスキルレベルを上げたのだ
まあ、忙しかったが、そのおかげでいくつかわかったこともある
1つはパーティで依頼を受けた場合に入手するポイントの法則である
僕たちは、2人で依頼の3倍の量の薬草を採取し、納品した
薬草の需要は多いため、3回分の依頼達成となり、A評価1つB評価2つの評価を受けた
湿地帯での薬草採取はEランク依頼なので、10ポイントのスキルポイントを稼げたが、僕に6ポイント、シーナちゃんに4ポイント振り分けられていた
おそらく、人数によって割られて分配され、余りは貢献度に応じて渡されるのだろう
そして2ポイント足りなかったので、ストラスへの旅の安全祈願や、エルミア様にお世話になったことなどといった名目で20000Gのお布施をし、ついでに教会に祈ってきたのだ
これでようやく『スキルパサー』を修得でき、まず『消費ポイント−3』をシーナちゃんにも使えるようにして『肉体系技能の素質』のレベルを10にし、さらに『弓術』を10『盗賊技能』を9『DEX(器用)』を5まで上げた
また、お布施=神に気に入られる行為だったらしく、シーナちゃんは『ゲイ・ボルグ』と『スパイラルボルテックス』というギフトスキルを修得可能になっていた
どちらもシーナちゃん向きのスキルではないので、ランダムで決まるのだろう
さらに教会で祈ったことにより、僕は『侍祭』へのクラスチェンジ条件も満たしていた
『癒し手と回復魔法のレベルを上げる』、『神の声を聞く』に加えて『教会で祈る』ことが条件だったのだ
これだけいろいろなことがあって僕は疲れてしまい、昨夜は早めに就寝したのだ
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「おっ、来たなアキラ」
「アキラ君、シーナちゃんおはよう」
起きて朝食を取り、宿をチェックアウトして待ち合わせ場所に向かうと、そこには『トライエッジ』の3人と、初めて見る戦士1人が既に来ていた
彼もおそらくこの依頼を受けた冒険者なのだろう
「お待たせしましたか?
すみません」
「あー気にすんな
依頼主もまだ来てねーのに、早く来ても意味ねーよ」
マーガンさんの言葉に改めて確認すると、馬車の用意はしてあるが、依頼主の姿は見えない
まだ少し早かったらしい
「…そうでもない
私たちはこれからパーティを組む、ならば自己紹介くらいはしておくべき」
「確かにそうだね
名前と職業、あと明かしてもいいスキルくらいは今のうちに確認しておこうか」
ファーラさんとベイクさんの言葉に全員が納得し、自己紹介が始まる
「ファーラ…チーム『トライエッジ』のリーダー…
火魔法と風魔法を使う…」
「オレはベイク
『トライエッジ』の牽制役、メインは弓で場合によっては短剣も使ってる
職業は盗賊だよ」
「俺はマーガンだ、見ての通りの戦士で斧を使う
力仕事ならまかせろ」
「…見ての通りの脳筋」
「うるせえよ」
『トライエッジ』の自己紹介が終わり、戦士の人が続く
「ボクはジョージ
槍を使う戦士です
最近やっとDランクに上がりました」
僕より少し年上に見える、そこそこ優秀な戦士だろう
「次は僕ですね
僕は明、剣を使う戦士で、一応回復魔法も使えます」
「えっ?」
「マジか…って、なんでお前が驚くんだよ」
マーガンさんが驚いたシーナちゃんに突っ込みを入れる
その大声に、僕の後ろに隠れるシーナちゃん
「まだパーティを組んで間もないので、伝え忘れていたんです」
「…アイテムボックスも持っていたはず」
「それにこんなに早くDランクに上がってたのも…」
「お前実は凄いのか?」
「御主人様は凄いです」
みんな驚いている
やはり僕くらいの年齢で、こんなに多彩なスキルを持っているのは珍しいようだ
ちなみにシーナちゃんは弓使いで、Fランクだけどレベル上げのために参加したことを、僕が告げるとみんな納得していた
「おや、みなさんお揃いのようですね
準備はよろしいですか?」
そこにようやく依頼主がやって来て
ストラスへの旅路がスタートした
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2台の馬車が街道を進む
前の馬車の御者の横にジョージさんが座り、屋根の上にシーナちゃんが、荷台の後ろに僕が座っている
後ろの馬車も似たようなもので、御者の横にファーラさん、屋根の上にベイクさん、荷台の後ろにマーガンさんがいる
これは、弓使いには屋根の上で周りを監視し、敵が現れたら弓で先制する役割があり
前後の戦士はすぐに降りて戦える位置に
魔法を使う僕らは、先制された場合に備えてなるべく安全な場所にいる配置になっている
ファーラさんからの提案だったが、合理的で誰にも異論はなかったので、このフォーメーションで移動している
「…退屈だなぁ」
正直やることがない
もちろん左右に気を配ってはいるが、上の2人も含めた全員が見張っているので万一にも見逃さないだろう
油断が大敵なのはわかっているが、本当に退屈である
「…私たちは休むのも仕事
ただし寝てはダメ、万一に備えて魔法をいつでも使えるようにしておいて」
「最善を目指し、最悪に備えろ、ですよね?」
「…そう、何も起こらないのがベストだけど、起こってから慌てるようではいけない」
退屈そうにしている僕を見かねて、ファーラさんが話しかけてくる
「ありがとうございます
気が引き締まりました」
僕は発想を変え、もし僕が敵の立場だったらどうするかを考え、それの対処法を考えてたりしていると、いつの間にか時間も過ぎ、今日の野営地に着いた
野営地といっても屋根つきの小屋があり、そこで一晩過ごすことができる
ちなみに食事は各自で取る決まりだったので、朝買っておいたパンと焼いたハムとチーズをアイテムボックスから取り出して、手早くホットサンドを作り、さらに温かいスープを出すと、みんな羨ましそうに見ていた(アイテムボックス内では時間がたたないため、温かい状態で保存できる)
食後、夜の見張りの順番を決めることになり
ファーラさんシーナちゃん組
マーガンさんジョージさん組
そして僕とベイクさん組に決まり、順番もこの順番になった
いざという時は遠慮なく蹴り起こせとのことだ
明日はいよいよストラスへ着く
交代の時間まで、僕はストラスのことを考えながら眠りについた
次回タイトル予告
湖畔の港町ストラス
用語解説
弓術
盗賊で修得可能な弓を使った技術
L1弓使用時命中上昇
L2ラピッドショット(高速で矢をつがえて打ち出すスキル)
L3アローダーツ(弓を使わず、矢を投げるスキル。威力射程は下がるが、近接時も使用可能)
L4弓使用時、クリティカル率上昇
L5ダブルショット(矢を2本同時につがえて射出するスキル)
L6ホークアイ(目が良くなり、遠距離でも命中が下がらない)
L7スパイラルアロー(矢の威力と貫通力が上昇する一撃を放つ)
L8インターセプト(敵の遠距離攻撃を迎撃する)
L9トリプルアロー(矢を3本同時につがえて射出する)
L10シャイニングアロー(HP、MP両方を消費し、輝く矢を放つ)