第22話 再会そしてストラスへ
「あら、アキラ君いらっしゃい
え? その娘は…
ああ、早速奴隷を買ったのね」
ティアさんが、目ざとくシーナちゃんと、彼女が着けている首輪を見つけて声をかけてくる
奴隷は、首輪を見えるように着けなければ違法なのだ
「はい、彼女…シーナちゃんの登録をお願いします」
「それはかまわないけど…
その娘に冒険者が務まるかしら?」
僕の背中にくっついたままのシーナちゃんを見て、ティアさんが心配そうに言う
「はい、彼女には弓を使ったサポートアタッカーになってもらうつもりですから
むしろ臆病なくらいでいいんです」
「なるほどねぇ、じゃあ登録するわね
あなたも早く強くなって、アキラ君の助けになってあげてね」
「!? はいっ! 頑張りますっ!」
急にやる気になったシーナちゃんをティアさんにまかせ、僕は依頼書の確認と、『パーティナイズ』の検証をすることにした
「おっ、これは…」
ちょうどストラスまでの護衛依頼があったが、出発は2日後だったので、まず薬草採取の依頼を受けてスキルポイントと経験値を稼ぎながら出発を待つことにする
そして、椅子に座って『パーティナイズ』を上げることにしたが、さすがは上級スキルで、6まで上げるのが精一杯だった
7に上げると、スキルパサーが修得できるので、まずポイントをあと8稼ぐのが最優先である
僕は依頼書を手に取り、ティアさんのところに向かった
「どうですか、カードはできましたか?」
「はい、できましたよ」
ティアさんの言葉に合わせてシーナちゃんは、僕にカードを見せるとすぐに消す
ちゃんとカード管理を理解しているようだ
「ではティアさん、この依頼をお願いします」
「はい、薬草採取と護衛依頼ね、護衛の方はFランクのシーナちゃんには依頼料が入らないけど、いいかしら?」
「はい、ストラスへ行くのが目的ですから
じゃあシーナちゃん、行こうか」
ティアさんとの会話を終え、僕らは宿を目指す
お約束ならば空き部屋がなく、シーナちゃんと同じ部屋で寝ることになったのだろうが、現実はそんなことはなく、ちゃんと2部屋借りることができた
ちなみにシーナちゃんは、僕と離れることを嫌がったが、『位置把握』で互いの場所がわかり、『テレトーク』で違う部屋にいても会話ができることでなんとか説得できた
まだ納得できない顔をしていたが、「夫婦でもない男女が同じ部屋で寝てはいけない」と『命令』したことで、ようやく退いてくれた
ただ、ついでに様付けや、丁寧語の禁止も命令してみたが、これは聞いてくれなかった
どうやら、周りから奴隷の躾がなっていないと判断され、主人である僕の不都合になるからのようだ
僕の命令<僕の迷惑にならない行為、らしい
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翌朝、僕たちは湿地帯を目指して出発した
シーナちゃんのタレントスキルには、『肉体技能の素質』はあったが、『成長速度』も『頭脳技能の素質』もなかったため、僕が『スキルパサー』を覚えるまで、なるべく経験値を稼がないようにしたい
ならば、薬草採取はうってつけだ
「シーナちゃんは、この辺で薬草を探してくれるかな
僕から離れすぎないようにね」
「わかりました、御主人様」
僕はアイテムボックスを使った裏技で、薬草を効率よく採取する
2人がかりなので、この前よりもハイペースで収穫できた、
僕がアイテムボックス持ちであることに、シーナちゃんは驚いていたので、さらに驚かせることにする
「そろそろ集まったかな?
シーナちゃん、今からアワインに行って装備を買おうか」
「えっ? 今からですか?」
「そうだよ
2つの点よ、時間と空間を超えて1つとなれ『ワープ』」
僕らは、ワープでアワインの町の門から少し離れた場所に移動する
採取の後に移動したのは
アワイン→イーヴァ→湿地帯→イーヴァと移動するより
湿地帯→アワイン→イーヴァと移動する方が、時間とMPの節約になるからだ
ちなみにシーナちゃんは放心状態だった
驚き疲れたらしい
「おう、アキラじゃねーか久しぶりだな
その娘はお前の奴隷か?」
「はい、この娘の装備を買いに来ました」
「オレーグの親父のところか、わかった通れ」
久しぶりに会った門番の人に挨拶し、アワインに入る
オレーグさんとは、僕の装備を作ってくれたドワーフのことで、うるさい場所が嫌いなので、わざわざアワインで暮らしているそうだ
オレーグさんの店で、シーナちゃん用の弓と矢、矢筒、胸当て、籠手を買い
アイテムボックスの中に入れておいたブレードベアを買い取ってもらうと、今度はイーヴァへと飛ぶ
我ながら忙しいと思うが、仕方ない
しかし、イーヴァの門の前で、予想もしていなかった人たちと会うことになった
「あ…アキラ」
「本当だ、アキラ君じゃないか」
「お前もイーヴァにいたのか、久しぶりだな」
チーム『トライエッジ』の3人だった
マーガンさんは、トライデントディアーの死体を担いでいる
「お久しぶりです、ファーラさんベイクさんマーガンさん、依頼の帰りですか?」
「…久しぶり
そう、トライデントディアーの肉の納品」
「その通り、重くてかなわねえぜ
お前はなんだ?」
「僕も依頼の帰りですよ
薬草を採取して来ました」
「はあ? 薬草採取?
どこに持ってんだよ」
マーガンさんの疑問に、僕はアイテムボックスから薬草を1束取り出す
「ここにありますが」
「お前アイテムボックス持ちだったのかよ!
羨ましいぜ」
「ところでアキラ君?
さっきから気になってたんだけど、その娘は誰?」
ベイクさんの質問に、シーナちゃんが僕の後ろに隠れる
「この娘はシーナちゃんといって、一応僕の奴隷です
人見知りする娘なので気を悪くしないでください」
「人見知りするんだね
弓使いみたいだから、教えられると思ったんだけど
残念だよ」
「…1つ聞きたい
明日出発のストラスへの護衛依頼
…剣士と弓使いと聞いた、もしかして…」
「はい、僕らですよ」
「そうなのか?
その依頼は俺たちも受けてんだよ」
「そうなんだよ、よろしくアキラ君、シーナちゃん」
手を差し出して来たベイクさんと僕が
ファーラさんとシーナちゃんが握手をする
明日からのストラスへの旅、楽しくなりそうだ
次回タイトル予告
ストラスへの旅路
用語解説
迷宮
地下迷宮とも言う、ユピトアース各地に点在する謎の空間
地上に入り口があり、地下へと続いていて、階段で次の階層へと移動する
基本的に下へ行くほど危険になる
中には魔物が生息していて、たまに地上にも出てくる
その魔物は、魔力によって造られた存在で、倒すと死体が消滅し、核とドロップアイテムを残すのが特徴
迷宮の最大の特徴は、迷宮そのものが『成長する』ことであり、最下層には『ダンジョンコア』という謎の宝石のようなものがあり
これを取ると、迷宮は下層から順にゆっくりと消えて行き
取らないと、最下層の下にさらに別の階層ができ、コアがそこに移動する
ドロップアイテムには希少なものも多く、迷宮の小部屋にはマジックアイテムが落ちていることもあるため、一攫千金のチャンスだが、危険も大きいため、迷宮はギルドによって厳しく管理されている