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第16話 王族と陰謀

「あり得ないだろ

なんで姫様がこんなところに」


一瞬偽者かと思ったが、『鑑定』は嘘をつかないし、さっきの人も「殿下」と呼ばれていた。

しかも『鑑定』の結果

『本来は金髪だが、魔道具の効果で銀髪に変わっている』

という状態であることも判明した


そんな魔道具を持ち、そこまでして変装しているのだから、本物の姫に間違いないだろう


「グアアアッ!」


ブレードベアが接近する僕に気づき、威嚇してくる

僕は鋼の剣を抜いて構えることで、戦うつもりであることをブレードベアにアピールした


「…でかいな」


立ち上がったブレードベアは5メートル近くある

僕の身長の3倍近い


「うわっと!?」


爪の降り下ろしを軽く下がってかわしたが、完全には避けられずにジャケットの胸の辺りが軽く裂ける

ダメージはないものの思った以上のリーチがあるようだ


「だけど今のでリーチは把握したよ」


僕は軽く左に跳んで近づいてみると、案の定右爪を降り下ろしてきたので、さらに左に跳んで攻撃範囲の外に出ると、右前足にカウンター攻撃を食らわせる


さっきの相手と違い、切断こそ出来なかったが、鮮血が飛び、ダメージを与えられたことがわかる


「でかい奴は末端を狙うか懐に飛び込めってね」


普通の熊なら噛みつきもあるが、ブレードベアはなまじ爪が強力なだけに、攻撃パターンが左右の爪の降り下ろしか薙ぎ払いかの2種4パターンしかない


僕は闘牛士のように相手の攻撃をかわしながら反撃を繰り返し、ようやく右前足の切断に成功した


「そろそろ終わりかな」


ブレードベアの苦し紛れの左爪の薙ぎ払いをかわして相手の左に回り込み、全力の突きを左脇腹に決める


しかし、ここで予想だにしなかったことが起こった

突き刺した剣が、ブレードベアの筋肉に絡み取られ、奪われてしまったのだ


「し、しまったっ!?」


腰の鞘から2本のBBダガーを抜いて両手に持つが、あまりにもリーチが短い

相手もそれがわかっているのか、右前足を失い、内臓まで届いているはずの傷を受けていても、戦意を失っていない


「くそっ!?

短剣スキルも取っておくんだった」


僕が持っているスキルで、戦闘の役に立ちそうなのは

戦士L10、剣技L10、格闘L4くらいだ


当然今は剣技能を使えないので、戦士技能と格闘技能で戦うしかない

(スキル修得には集中が必要なので、移動中はともかく戦闘中は不可能)


「ガアッ!」

「くっ!?」


左爪の薙ぎ払いをなんとか避けるものの、あまりにもリーチが短すぎてカウンターが使えない

持久戦しかないのかと思い始めたとき、意外なことが起こった


「…あら?私は一体…?」

気絶していた姫様が目覚めたのだ

それに気を取られてブレードベアは思わず振り向いた


「きゃあああっ!?」


血塗れの巨大な熊が自分を見たのだ、恐怖に悲鳴を上げる姫だが、僕にとっては千載一遇のチャンスだった


「でかい奴は…懐に飛び込めってね!!」


クロスさせたダガーでブレードベアの左前足を封じながら『格闘技能』L2のキックを放つ、当然ただの蹴りではブレードベアの筋肉には通用しない


僕が狙ったのは……

左脇腹に刺さったままの鋼の剣の柄頭だ


釘を打つように鋼の剣がさらに深く突き刺さり、ブレードベアもようやく動きを止めた


念のため『鑑定』を使用してみると、HP0と表示されたため、死んだことがわかる


「あのう、終わりましたよ」


蹲り、頭を抱えて震える姫様に、僕は声をかける


「あなたの兄上から救出を頼まれた冒険者です

歩けますか?」


返り血で汚れた身体に『清浄』をかけて、さらに話を続ける


改めて見てみると、凄い美人だ

ミドルとハイティーンの間くらい、可愛さと美しさが同居したこの時だけの姿


背中まである輝くような銀髪(本当は金髪らしいが)

汚れた服の上からでもわかるスタイルのよさ、特に胸は確実にDカップはあるだろう


なによりも、泥だらけでも溢れ出ている気品に、僕の目は釘付けになってしまった


「お兄様に?

あ…すみません、腰が抜けてしまいました」


「そうですか、失礼します『清浄』『復活リザレクション』『メガヒール』『クールダウン』」


「えっ?ええっ!?」


立て続けに上級魔法を使った僕に、姫様が驚きの声を上げる


ちなみに復活リザレクションとは、蘇生魔法ではなく、欠損部位などを修復する魔法で、傷痕を残らなくすることもできる

もし、引きずられて行く過程で傷ついていたなら、この魔法で大丈夫のはずだ


「あ、立てるようになったみたいです」


「っ!?

失礼しました」


僕は後ろを向き、アイテムボックスからマントを取り出して手渡す


「え?あっ!?

きゃあっ!!」


引きずられた過程で服の至るところに穴が空き、『清浄』をかけたおかげで泥が落ちて、素肌や下着が見えてしまっていたのだ


「あ、ありがとうございます…

もういいですよ」


振り向くと、マントで全身を包んだ姫様がいた

僕用のマントなので足元近くまで覆っている


「ではお兄さんのところにまでお連れしますが…

急いだほうがいいですよね?」


「はい、もちろんです」


「ハイヒールで歩くのは大変でしょうし、時間もかかります

ですから…失礼します」


「えっ?きゃあ!?」


僕は姫様を抱え上げ、来た道を戻り始めた

リアルお姫様抱っこだ





■□■□■□■□





「!! アリシ…アリーシャ

無事だったか!?」


さっきの場所に戻ると、2人が僕らを待っていた

2人と言ってもアンガスさんはまだ目覚めていなかったが


「はい、お兄様

この方のおかげです」


「妹さんが気絶していたのが不幸中の幸いでした

ブレードベアはおそらく死んだものと思ってとどめをささなかったのでしょう」


「そうか、本当に感謝する

おっと言い忘れていたが、俺はルークという」


ちなみに彼にも鑑定を使ったが、それには

『ルーファス・クロード・プライムガルド』と出ていた

やはりこの国の第一王子に間違いない


お忍びらしく偽名を名乗っていて、姫様と同じ魔道具で、髪の色を変えているようだ

騙されたふりをするのが大人の対応だろう


「明です

イーヴァの冒険者です」


「アキラさんと仰るのですね

私はアリーシャと申します」


「綺麗な名前ですね」

(偽名になってないよそれ

Aliciaの読みを変えただけじゃん)


「ありがとうございます

お母様から着けていただいた名前ですの」


「アリーシャ、早く着替えろ

アンガスが目覚め次第出発するぞ

アキラ、すまないが…」


「護衛ですよね、ちょうどイーヴァまで帰るところでしたし、特別に只で引き受けますよ」


「いいのか?本当に感謝する」


僕はアンガスさんに『ヒール』をかける

『クールダウン』は、あくまでも精神安定の魔法であり、意識のない人に効果はない、むしろ無理に起こすと逆に錯乱することもある


「しかし、どうして旧街道なんか通っていたんですか?

しかも群れを作らないはずのブレードベアが6頭も襲ってくるなんて」


「義母上から近道だと言われてな

熊避けの香水も渡されていたから大丈夫だと思ったのだ」


「義母上…ですか」


日本語では同じ「ははうえ」だが、継母であることが理解できた

おそらくこの世界の言語では、明確に区別されているのだろう


「えっ?これは『熊寄せのフェロモン』ですよ!?」


ルーファス…ルークさんが渡した瓶を鑑定すると、こういう鑑定結果がでた


『熊寄せのフェロモン


ブレードベアを引き寄せ、興奮させる成分を溶かした水

主に、闘技場で使われる』


「なんだと!?あり得ん

なぜ義母上がそんなものを?」


明らかに暗殺目的である

僕が通りかからなければ確実にみんな死んでいただろう


(ん?継母が王子を暗殺?それって……)


僕の頭に浮かんだのは、某国民的RPGの5作目である


王子暗殺事件に巻き込まれた主人公は、シリーズ1とも言われる不幸な目に合うのだが、その動機はたしか……


「あのう…ルークさん

もしかして、お2人はお金持ち、もしくは高貴な身分ではありませんか?」


「…なぜそう思う?」


「そしてお2人には母親違いの

例えば弟はいませんか?」


「確かにいるが……

…まさか!?」


「はい、相続または継承ではないかと…」


思うところがあるのだろう

ルークさんは、なにやら独り言を呟いている


「まさか義母上が…

いや、あの時も…

だが、ディランは…

やはり、独断なのだろうか…」


「あのう、お兄様

着替え終わりましたけど」

アリーシャさんが馬車の中から出てきた

かなり動き易そうな格好で、靴も変えている


「ん?そうか

ならば贈答品だけでも選ぼう

馬車がこの様では我らの手で運ぶしかあるまい」


「アイテムボックスがあるので

ある程度なら運べますが」

僕はアイテムボックスから麻袋を取り出し、薬草を詰めながら言う


「なんだと!?アイテムボックスまで持っているのか」

「本当に凄いです

同い年くらいに見えますのに」


馬車の整理は2人にまかせ、僕は周りを警戒していると、ようやくアンガスさんが目覚めたようだ


「…ここはどこだ?

オレは生きているのか?」

「起きたか、アンガス

調子はどうだ?」


「!! 殿下っ!?

ご無事でしたか」


「ああ、覚えているか?

アキラ…さっきの冒険者がブレードベアを全て倒し

アリーシャまで救ってくれた」


ルークさんの後ろで微笑むアリーシャさんに、アンガスさんの目が大きく開く


「な、なんと…

アキラ殿、感謝する

お2人に万一のことがあれば

自分は死をもっても償えぬ大罪を犯すところだった」

「大げさだぞ

アンガス、起きたばかりなのに悪いが、荷物持ちを手伝ってくれ

一刻も早くイーヴァに着きたい」


「はい、わかりました」


僕ら4人は協力して荷物を手に持ったり、僕のアイテムボックスに入れたりして馬車の中身をほぼ空にした


「よし、準備ができた

アキラ、イーヴァまでの護衛を頼む」


「そのことですが、皆さん

僕のパーティに入ることに同意してもらえませんか?」


「パーティに?もちろんかまわないが」


僕の『ワープ』は、パーティメンバーにしか効果がない

そして『サークルヒール』などのように、パーティメンバーにかける魔法もあるので、みんな当然のように同意する


「そういえばブレードベアの素材は高く売れるんだっけ

ならば後で取りに来るために、ここにマーカーポイントを設置しておこう」


さっきの戦いでレベルが15になったので、1つ増えたワープ用のポイントをこの場所に設置しておく


「アキラ、同意したが?」

「わかりました、驚かないでくださいね」


僕は全員がパーティメンバーに入っていることを確認すると、『ワープ』の詠唱を始める


「2つの点よ、時間と空間を超えて1つになれ『ワープ』」


次の瞬間、僕ら4人の姿はこの場所から消えていた

次回タイトル予告

騎士と勇者



用語解説

獣人


ユピトアースに住む亜人の一種で、頭の上にある獣耳と腰にある尻尾、そして人族より優れた五感が特徴


獣耳と尻尾の形により、大きく5種類に別れ、種類ごとに五感の1つが非常に優れている


特に

嗅覚に優れた狼族

視覚に優れた猫族

聴覚に優れた兎族は、人間社会に溶け込んでいて、優秀な冒険者にもなっているため、獣人といえばこの3種を指すことも多い


残りは、味覚に優れ、怪力無双が特徴の熊族がいるが、人間の前にはあまり出ずに山奥で独自の集落を作っている


そして熊族以上に珍しいのが、触覚に優れた狐族である


触覚と言っても肌が敏感というわけでなく、風を感じるように魔力を肌で感じることができるので、獣人族では唯一優秀な魔法使いになることができる種族である


一応他にも存在するらしいが、突然変異に近いもので、滅多に見ることがない




余談ですが、作中に出てきた有名RPGですが

作者は金髪派でした

しかし周りはなぜか青派が多かったですね

ゲーム雑誌の統計では金髪派が7割だったはずなのですが

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