第11話 アワインからの旅立ち
「ここにしよう」
今、僕はDランクへの昇格試験の野営を行っている
野営で最も重要なことは、『休む場所の確保』なので、僕は良さそうな場所を探して歩き回ったところ、ようやく決まったのだ
残念ながら洞窟のような都合の良い場所は無かったが、丁度いい大きさの2本の樹が接近して生えている場所を見つけた
樹の上の方がなにかと安全だと考えた僕は、移動しながら手斧で伐採し、アイテムボックスに放り込んでいた、まだ小さい木を取り出し、枝を落として丸太にして再びアイテムボックスに収納し、樹の上で再度取り出してロープで結んで足場を作って行く
丸太を『目』の字の形になるように組み、さらに別の丸太を並べて床を作った後、柱も作って家というより直方体の箱といったほうがしっくり来る物の骨組みが完成した
此処で暮らすわけではなく、2泊だけの予定なので寝るスペースがあれば充分なのだ
さらにアイテムボックスから麻袋を取り出し、側面と上面に張って壁と屋根にする。
それから、バナナの葉のような大きめの葉っぱを探して来て屋根の上に敷く
これで万一雨が降っても中が濡れることはないだろう
最後に毛布と縄ばしごを取り出して床に敷き、入り口近くに結び付けることで、ようやく仮の住まいが完成した
大きさ的には、ホームレスが段ボールの中で寝るような感じだが、贅沢は言えないだろう
「よーし次は食料だ」
3時間ほどで家を完成させた僕は、食料を探して再び森の中に消えて行った
■□■□■□■□
1時間ほどで兎(ホーンラビットではなく普通の野兎)を1羽、自生していた山人参と山牛蒡、芹に似た葉野菜を見つけ、仮宿に帰って来ると早速調理を始めることにした
塩の持ち込みだけは認められていたので、血抜きした兎の塩焼きとスライスした野菜を焼いたものに、みじん切りにした芹をまぶしただけのシンプルなものだ
「……不味くはないけど
3食塩味だと飽きるだろうな…
贅沢な悩みだけど」
夕飯に備えて余った人参を枝に下げ、人参の頭としっぽを餌に兎用の罠を作っていると、急に頭の中に呼び出し音が鳴った
「おっと、そうだった
『カード』、『カード』」
実はギルドカードは出している間、GPSのようにカードの位置を調べることもできるそうだ
もちろん人工衛星があるわけではないため、近距離限定ではあるのだが
そしてこの機能を利用し、不正防止のためにランダムにギルド側が通信し、受信した冒険者はカードを出し入れすることで、自身の位置を報告する義務がある
まあ、僕は『ワープ』を使えばいくらでも不正ができるのだが、もちろんする気はない
弾力のある若木を曲げ、止め金代わりの木片で固定する
そして若木にロープで結んだ輪を、木片に餌の人参を付ける、もちろん一方からのみ食べられるように穴を掘って中に入れておく
これで兎が人参に食い付くと、木片が外れて若木が伸び、兎を首吊りの刑にするのだ
試験終了までの間、この罠に2匹の兎がかかった
と、このような感じで別にトラブルもなく、2泊3日の試験は終わった
逆に退屈しのぎのほうが大変だったり、寝るための家? が大きさ、材質的に棺桶に入っている気分だったほうが修羅場だったりしたが
■□■□■□■□
「アキラ君、お疲れ様でした」
試験を終えて、アワインに帰って来た僕をティナさんが出迎えてくれた
「本当に疲れましたよ
野営より話し相手がいないのが嫌でしたね」
「それだけなら十分ですよ、問題なかったってことですから
ともかくおめでとうございます、これでアキラ君もDランクですよ」
「ありがとうございます
今日はゆっくり休むことにします」
「では明日ギルドに来てください
指名依頼があります」
「指名依頼ですか?」
「はい、ジェイス様から
アキラ君がDランクになったら、イーヴァの町への運搬依頼をお願いするように言われています」
「そうですか、わかりました
それではまた明日」
そう言って僕は宿に向かった
まだ僕は知らなかったが、Dランク以上になると危険な相手が少ないアワインを離れ、実入りのいい場所を目指すのが一般的だそうだ
確かに今のままでは、暮らすことはできるが、財産を持てるほどではない
それにソロに限界を感じてきたこともある
野営の間も、仲間がいれば退屈はしなかっただろうし、楽にもなっただろう
アワインを離れて仲間を探してみるのもいいかも知れない
2日後、僕はアワインを出てイーヴァの町を目指して出発した
次回タイトル予告
再開と試合
用語解説
魔法金属
ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトなどの金属の総称
鉄や銅、金銀などの一般金属
ダマスカスやミーティアライト(隕石に含まれる希少金属)などの特殊金属などと違い、金属自体が魔力を吸収、放出できることが最大の特徴
つまり、魔法金属で作られたものはそれだけでマジックアイテムとなり、レア以上のレアリティが確定する
もちろん魔法金属以外でもマジックアイテムは作れるが、その技術は失われて久しく、古代の遺跡や迷宮、あるいはドラゴンなどの幻獣の宝物庫からでのみ発見される
中でも迷宮は多く存在しているので、現在流通しているマジックアイテムは、専ら迷宮から見つかったものである