第8話 試験とトラブル
僕は目の前の小動物に恐怖していた
弱いと言われる獣
しかしそんな前評判を覆す強さが2匹にはある
「なんでこんなことに…」
僕は先ほどまでのうかれた気分に喝を入れると、改めて敵の獣に目を向けた
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話は昨日に遡る
「ティナさん、山人参採って来ました
ついでにホーンラビットとチャージボアも」
僕はチャージボアを狩った後、出てきたホーンラビットもついでに狩っておいた
そして改めて人参を収穫し、ギルドに運んで来たのだ
ちなみに獲物はレベルが上がった(猪と兎でレベル5になった)ことでアイテムボックスに全て収納できたので、人参を依頼にあった20本運ぶだけでよかった
もっとも低レベルの僕がアイテムボックスを修得しているのは珍しいみたいなので、ギルド入り口そばで人目が無いことを確認した上で獲物を取り出したのだが
「あら、本当に狩って来たのね
じゃあ山人参は依頼主の『旅人の憩いの場』(この町の宿屋)に持って行ってね
ホーンラビットは10G
チャージボアは200Gで買い取るけど、いいかしら?」
「はい、いいですよ」
「チャージボアの納品はFランク依頼に相当するので、アキラ君はEランクへの昇格条件を満たしたわよ
試験、受けてみる?
受験料として50G掛かるけど」
「是非お願いします」
僕がそういうと、ティナさんは数枚のカードを取り出し
「じゃあこの中から1枚選んでね」
「はい、じゃあこれを」
「あら、当たりよ
ホーンラビットの討伐ね」
『トライエッジ』の皆さんに聞いていた通り、Eランクへの昇格試験は
「クジで決めた獲物を試験官の前で討伐する」だった
その中でも最弱と言われるのがホーンラビットらしい
さっき出会ったホーンラビットは、確かに素早かったものの、兎のくせに人間を恐れずに向かって来たので、あっさり返り討ちにしたのだ
「では明日9時にギルドに来てください
試験官として私が同行します」
「わかりました、山人参の依頼書はその時に渡しますね」
そして僕はギルドを後にし、宿屋に人参を納品して達成書をもらい、そのままその宿屋に泊まった
ちなみに現在の僕の能力はこんな感じだ
アキラ 人間(転生者)
17歳 レベル5
戦士 癒し手
HP250→575
MP240→312
Str(筋力)50→80
Dex(器用)50→75
Agi(敏捷)50→70
Int(知力)50→50
Per(知覚)50→70
Min(精神)50→65
Luk(幸運)20→20
スキル
戦士技能L6
癒し手技能L6
剣技L5 格闘術L4
生活魔法L10 探知L5
魔物知識L5
HP上昇L5
Agi上昇L5
Per上昇L5
成長度上昇L10
肉体系技能の素質L10
頭脳系技能の素質L10
ギフトスキル
ワープ 鑑定
クラスチェンジ
装備
鋼の剣
BBジャケット
ミスリルの腕輪
予備武器 BBナイフ×2
余談だがパラメーターの左が基本値で、右がスキル補正やクラス補正を加えた数値だ
これに加えてスキルポイントが61ポイントも余っている
これなら明日の試験は楽勝だろう
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翌朝、僕らは
山人参を採った場所から更に奥に入ったところに向かっていた
「このあたりによくホーンラビットが出るそうです
発見したら試験開始です
準備はいいですか?」
「いつでもいいですよ
」
そう言うと、僕は探知レベル3のスキル『気配探査』を使う、これはレベル5の『気配察知』とは違ってアクティブスキルだが、効果範囲が広く、より詳しい探知ができる
(いた、20メートル圏内に2匹)
「ティナさん、いました
ホーンラビットです」
「もう見つけたんですか?
では試験開始です」
僕は小走りでホーンラビットに接近しながら、鋼の剣を抜く
気配を掴んだ場所に行くと、探知通りにそこにいた
「もらったっ」
しかし僕が剣を叩きつけようとした瞬間、パッシブスキルの『気配察知』に横から襲いかかる何かの反応があった
「!?くっ」
思わず足を止めた僕の目の前を、別のホーンラビットが通過して行く
「危なかった…
今のは一体…?」
「まさか、番?
そんな、この時期に」
「番?」
ティナさんの呟きに、僕は尋ねてみる
「ホーンラビットは弱い獣ですが、初夏の僅かな期間に番になるんです
その時は絶妙のコンビネーションで一気にDランク相当の強さになるので
ソロではトライデントディアーより戦い辛いとされています
試験は中止しましょう」
「そういうわけにはいきません
縄張りに侵入した僕らにかなり怒っています
下手に逃げたら後ろから刺されますよ」
僕は改めて剣を構え直すと
「来い、ホーンラビッツ」
その言葉に反応するように1匹が左前から、もう1匹が右後ろから突撃してきた
「くっ、速い」
2匹まとめてかわすと、どうしても体制が崩れて『カウンター』を狙う余裕がない
ならばと木を背にすると、1匹が前でフェイントをかけて注意を引き、もう1匹が木を回り込むようにして僕の足を狙ってくる
『気配察知』がなかったら、とっくにホーンラビットの角で串刺しにされていただろう
「アキラ君、やっぱり止めましょう
試験は今回だけじゃないのよ
こんな完璧なコンビネーションにFランクの君じゃ…」
「『完璧なコンビネーション』?
そうかっ!?
ティナさん、ありがとうございます」
ティナさんの言葉にようやく勝機が見えた
「うおおっ!」
僕は剣を1匹に向けて突撃した
その行為にホーンラビットは左右にステップを踏み、僕から見て左に大きく跳んだ
「今だっ!」
それを見た瞬間、僕は右に回転しながら『気配探査』を使う
案の定僕の右後ろからもう1匹が突撃してきたのを、僕は剣で迎撃し、あっさりと切り殺した
「完璧なコンビネーションが仇になったね」
コンビネーションが完璧過ぎて、前のホーンラビットの動きを見れば、後ろのホーンラビットの動きもわかったのだ
残り1匹になったホーンラビットは、僕の敵ではなかった
「凄いわ!番のホーンラビットを1人で狩るなんて
合格よ!アキラ君はこれからEランクよ!」
1人で興奮しているティナさんを傍目に
僕は疲れて腰を下ろした
次回タイトル予告 鹿とヤマアラシ
用語解説
ホーンラビット
その名の通り、角の生えた白い兎
全長は角を入れて40〜50センチくらい
動きは速いが、かなり目立つため、対処しやすい獣
本来は弱いが、番になるとコンビネーションプレイで恐ろしい攻撃をしてくる
(普通の兎は発情期間が長いが、ホーンラビットは初夏の僅かな期間のみ番になる)
肉はそこそこ美味く、よく煮込みにして食べられ
毛皮は防具にはならないがコートなどに使用される
ちなみに、番のホーンラビットは強さが跳ね上がるため、夫婦や恋人が縁起ものとして角の欠片をアクセサリーにすることがよくある




