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第八話

題名を考えるのは苦手です。

 何も考えていない。それでこれを書いた? それが葛生先輩の言う純粋さなのだろうか。

「やーの言う純粋さってのはね、簡単。考えるよりもタイプするってこと。自分が書いていて気持ち良くなるためだけに書くこと。つまりはオナニーと一緒だ」

 そう言われると何故かこの無機質な紙の束が異常に見えてくる。

「文芸部が読まれるためにあるのなら、ここの二文は書くためにある、という感じかな」

 そこまで言われてようやく分かった。だから僕のあの原稿が評価されたのか。だから今日の原稿はつまらないのか。

 一人納得始めた僕を見て間々田先輩は優しい笑みを嬉しそうに浮かべていた。葛生先輩なんかより余程人を惹きつける魅力があった。こう言っては失礼だろうが、どこか母性愛が感じられる、安心できる魅力だ。

「人は快楽を求めて動く。気持ち悪いことを率先してしようとは思わないからね。プロでもない、プロに憧れるでもない僕ややーはただ気持ちよくなりたくて二文に入った。君はどうする? ここで公開オナニーでもするか、それとも文芸部でアダルトビデオのようになるか、勿論一人で続けることも選べるさ。本当のオナニーのようにね」

 やたらと卑猥な単語を連発する人だ……だが分かりやすい。それだけに否定する材料がない。素直に口を開くしかなかった。

「やっと分かりました。これを書いてつまらなかったですから」

 先ほどまで葛生先輩が読んでいた僕の原稿を差し出す。間々田先輩は受け取らずに机にそれを優しく戻した。

「そう思うのならば僕が読まなくてもそういうことだよ。伝えるためのツールではなく、叩きつけるためのツールとして使うのなら僕が評価する必要はないよ」

「それも……そうですね」

 いちいち間々田先輩は分かりやすい。それが嫌味に感じないのは人柄か喋り方か。一見理不尽な物言いをされても素直に受け取ってしまいそうな、危険な魅力も含んでいた。

「さて、日も暮れたし、入会届けは明日でいいかな?」

「あ、はい。大丈夫です」

 明日の放課後、と約束を交わしてその日は終わりとなった。間々田先輩は膝枕で眠った葛生先輩を文字通り叩き起こしていた。起き上がった葛生先輩はやはりどこか腑抜けた様子で猫のように間々田先輩にじゃれ付いてはあしらわれていた。その顔は楽しそうだったのでいつものことなのだろう。お先に、と一足早く社会科教室を出ると目前の窓には殆ど日がなく、夜の帳が落ち始めていた。

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