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第五話

実は自分の覚書でもあったりします。

 次の日、放課後になると僕は出来上がった原稿を手に文芸部のドアを叩いた。顔を出した眼鏡を掛けた男子に言って部長を呼び出してもらう。

「あら、貴方は――」

 言い終わるよりも先に原稿で冷たい視線を遮る。

「――これは?」

 受け取りながら聞いてくる彼女にただ「読んでください」とだけ返す。僕を数秒見て、彼女は静かに読み始めた。A4用紙十八枚分の量はすんなりとは読み終えられないだろう。昨日とは違い、まだまだ日の高い外の様子を窓から眺めてその時が来るのを待った。

「読み終わったわ」

 その声で窓から離れ、改めて向かい合う。グラウンドから活気のある声が物静かさを色濃くした。

「貴方、名前は?」

「大平下、伊織です」

「そう――」

 一度眼鏡のズレを正して口を開く。

「――大平下君、文芸部に入る?」

「いいえ」

 即答に意表を突かれたのか、それとも拒否されたことに驚いたのか、彼女は目を見開いた。

「じゃあ、どうして持ってきたの?」

 心底不思議そうな顔をされた。かなり人のいる文芸部、入部制限があるくらいだから、持って来ると言うことは入部したいと同義だ。だけど、僕はそれを裏切る。

「読んで貰うために書いたからです」

「読んで貰うためって、それは普通よ」

「ええ、普通ですね。想像で人生を持たせて、想像通りのレールを歩ませて、想像通りに読んでもらう。それはとても普通です。先の展望まで見通して、言葉の取捨選択をして、伝えたいことを忍ばせて理解されるように神経をすり減らして描く」

 僕の零す一つ一つにどこか不満げな表情が見える。

「書いていて、こんなにつまらないことがあるなんて知りませんでした。これが評価されるなら、僕は文芸部には入りません」

 全ていい終わって黙って見つめる。彼女は目を瞑ってため息を吐いた後言った。

「全く……分かったわ。どうせ貴方は二文に行くのでしょう?」

 力強く頷く。

「類は友を呼ぶとはよく言ったものね。その原稿、耶弥に見せてみなさい。きっとつまらないと言うわ」

 それだけ言うと部長は部室に戻った。別れの言葉がないまま、僕も何となく社会科教室へと歩みを進めた。

お気軽に以下略

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