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第二話

私の青春でもあります。

この頃は軽くヒキってたなぁ。

 葛生耶弥、と第二文芸部の部長は名乗った。特別美人というわけではない、可愛いというわけでもない、強いて言えば田舎に居そうな健康的でちょっとお洒落をしてみたような、そんな人だ。

「簡単な話、文芸部で落とされた人や進んで入った変わり者を収容している所なのね」

 完全に夕日が沈んだのだろう。渡り廊下は蛍光灯の明かりしかなかったが、それでも葛生先輩はどこか人を惹き付けるものがあった。不穏当な単語がありはしたが、何故か突っ込むことも出来ずに聞き入っていた。

「文芸部の入部説明会で話は聞いたと思うけど、今の文芸部は部室の収容人数に対して多すぎる人数を抱えているから前々年度から入部制限を掛けているのよ」

 ああ、それは五日前に聞いた。確か顧問の現代文教師は在学時代に文壇デビューしたとか、卒業生に数人商業で活躍している人がいるせいで無駄に人気になった。それで人数過多となって今では入部制限を掛けていて、入部条件は作品を書いてそれを提出し、それで審査される。提出したのは月曜日――二日前のことだ。

「弾かれた大多数はそのまま諦めるんだけど、諦めきれない人が居る」

「それが第二文芸部、ですか」

「ええ。正式には同好会だから第二文芸同好会、になるけどね。顧問なんかお爺ちゃん先生で名前だけ借りただけみたいだし」

「はぁ」

 なんとも気の抜けた返事しか出来ない。さっき文芸部に弾かれて気落ちしていて、傷跡も抉られているのだから仕方ないのかもしれない。

「もし君にその気があるのなら、来てみない? 第二文芸部――通称二文に」

 感傷があったのかもしれない。文芸部に未練があったのもあるだろう。僕は素直に頷いていた。

「大平下伊織君、でいいのかな」

「え、あぁ、どこで僕の名前を?」

「それ」

 三度原稿を指差した。見れば表紙に名前を印刷してある。ああ、そういうところは抜け目がないのか。

「それじゃ部室に案内するね」

 僕を抜いて歩き始めた葛生先輩の後を追いかける。

「同好会に部室があるんですか?」

 尋ねると短い髪を靡かせて、にこりと笑った。一欠けらの不信感も与えない笑みだった。

「ないよ」

「え、じゃあ部室って」

「私たちには与えられてないの。けど、お爺ちゃん先生に授業以外で使わない社会科教室を使わせて貰っているの。お爺ちゃん、地理と現代社会の先生だしね」

 なるほど、だから再び特別教室棟へと進んでいるのか。同じ道が蛍光灯のせいで先ほどとは違って見える。追いかける背中が頼もしく見えるせいか、俯き加減だった頭も前を向いて歩いていた。

 道中、図書室の前を通りかかるとまだ人が数人残っていた。中には機嫌が悪そうな表情をした人もいて、同類なのかと納得した。僕に落選通達を出した文芸部の部長は相変わらずの冷たい視線で原稿を見ては言葉を短く投げていた。

 と、葛生先輩が立ち止まって声を上げた。

「とーこ! この子貰っていくから!」

 声に反応したのか、先ほどまで感情のなさそうな瞳がイラついた表情と共に葛生先輩を睨んだ。

「耶弥……勝手になさい」

「そのつもり!」

 冷ややかな文芸部部長の声とは裏腹に葛生先輩は元気一杯と言った声で返していた。二人の応酬はそれだけで、再び歩き始めた先輩の後を無言で着いていった。図書室近くの階段を一階まで下りて、特別教室棟の中ほどで先輩は立ち止まってドアの上を指差す。黙ってその先を追うと、プレートに社会科教室と書かれてあった。

「ここが私たちの部室ね。一年じゃ殆ど使わない教室だけど、二年から地理か日本史で分かれた時に使うかもしれないから覚えておいて損はないかな」

 言ってドアを開き中に踏み入った先輩の背中に隠れるように僕も中に入っていった。

 葛生先輩の第一声はこうだ。

「あれ、今日は誰もいないや」

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