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第十八話

 授業に集中できなかった。意味不明な言葉の羅列と記号、矢印で埋まったルーズリーフをくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に投げ捨てた。バイバイ、僕の半日。

 帰ってから落ち着いて考えようと荷物を纏めていると携帯が震えた。開くと、メールが二件。一件は気付かずにスルーしていたようだ。受信フォルダには宇都宮冬子が二件並んでいた。

 内容は簡素だ。あの二つの原稿を持って文芸部室に集合、とのこと。持っていないのならいいけど、という二件目は随分と控えめだ。鞄に入れっぱなしになっていた原稿は皺が寄っているがいいだろう。簡素な文面を作って返信をし、鞄を持ち特別教室棟へ向かった。

 ノックして返事が返ってくる前に部室に入る。呼ばれたのだから別にいいだろう。扉近くで僕を凝視してくる眼鏡の男子に声を掛ける。

「部長に呼ばれたんですけど、居ますか?」

「まだ来てないけど」

 そうですか、と返してすぐに部室から出た。部外者が待つのにあの空気は居心地が悪い。廊下の窓を開け放って空気を吸い込み、鞄を下ろして部長が来るのを待った。

「あれ、大平下君じゃない。黄昏ちゃってどうしたの?」

「あー、都賀先輩、どうも」

 声の主を振り返ると都賀先輩が居た。昨日とはうって変わって、三つ編みを解いている。そう言えば昨日は先生に結われたとか言っていたっけ。校則違反のギリギリアウトな長さの髪を揺らして隣に並んだ。

「あーって、随分と気の抜けた挨拶だね。私のこと嫌い?」

「そんなことありえませんって」

 小さく笑う。

「んじゃ、文芸部に何か用でも?」

「はい。昨日、部誌に寄稿するって約束して、今日呼び出されたんですよ」

「そうなんだ」

 窓の外へ両手を伸ばして伸びる都賀先輩。ふわりと吹いた風が長い髪を揺らした。

「私も去年やったなぁ。すっごい窮屈だったよ」

「どんな話を書いたんですか?」

「私? あはは、読まなくていいよ。去年の部長にボロボロに言われたくらいだしね。やれ構成が甘いだとか、やれ意図がいまいち伝わらないとか、本当にここまで言うかってくらい言われたよ」

 言葉の割にはどこか懐かしむような視線をグラウンドに投げていた。

「今年は冬子さんだし、もっと怖いかもね」

「怖い、ですか?」

 都賀先輩は意地悪な笑みを浮かべてきた。

「今は分からないと思うけど、冬子さんは冷静に突っ込んでくるから。感情で突っぱねてくる人より数倍怖いよ」

「はぁ、なるほど。――だとしたら、突っ込まれなければいいんですね」

「……大物だね」

 呆れたような声。でも楽しそうな顔。二文に行くね、と残して都賀先輩は行ってしまった。

 こういう手持ち無沙汰な時間が苦手だ。待ち合わせなら丁度の時間に行ってその時間をなくすくらい。携帯電話で時間を潰す事も出来るが、メールをするには時間が足りず、欲しい情報もない。ゲームするには電池が心もとない。

 昨日生み出した人間を遊ばせるにしても紙とペンで落ち着ける場所が欲しい。心ここに在らずといった状態で窓の外を見つめるのも苦手。結局何をしたかと言うと、自分の原稿を取り出して読んでいた。

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