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第十五話

 浮かし続けていた人差し指をついにぐっと組んだ部長さんの瞳は真剣のそれのままだった。

「二文で書き続けて、評価されることはないと思うの」

 こう、切り出した。

「好き勝手書いて、まとめて、読んで、はいお終い。それじゃ進歩なんてないのよ。酷評されてでも読んで貰って、それを糧に成長しなければならない。文芸部の基本方針はそれなのよ。もちろん、貴方が二文であることは重々承知だし、私だってそう。でもね、ツールがあっても使い方を知らなければ自由にはなれない。例えば……そう、ものさしを持ってても逆の手で押さえることを知らなければ直線は引けないわ」

 部長さんが淡々と述べるその言葉は分かる。日本語だって、知らなければ語彙は貧弱なままで自由に書けない。それは分かる。表現の方法が分からなければ、物語の作り方、書き方、プロットやキャラ作り――様々なツールの使い方を学べばそれだけ自由に書く幅が広がる。だが、それだけに疑問は大きくなる。

 もしこれが身軽な僕自身だけであったなら断りはしないだろう。問題は、そう。僕が二文にいて、僕だけに言われていることが問題なのだ。だから、もう一度同じ言葉で問う。

「どうして、僕なんですか?」

 なんとも言葉足らずな発言だろう。前後関係がわかって事情がわかって、さらに内面で考えたことまで分からなければ意味のない問いだ。

 だが、驚くことに部長さんは凛として答える。

「耶弥や健之、それに春や岩舟も一度はやったのよ。簡単でしょう?」

 それで僕に白羽の矢が立ったのか。実に簡潔、単純明快だ。それを理解するのに時間が掛かったのは、部長さんが僕の言葉の意味を全て汲み取ったことに驚いていたからだ。

「それで、僕なんですか? ――いえ、どうして二文に声を掛けているんですか?」

 僕の疑問は尽きない。一つ聞けば一つ返ってきて、一つ納得して一つ疑問が湧き出る。

「単純な好奇心よ。好き勝手書いている人がきっちりと書いた時、どんな評価がされるかってね」

 今度こそ悪戯な笑みを見た。どことなく試されているような台詞。そして、二文の誰しもがやったという事実。

 つまり、これを断れば二文の通過儀礼的なものを蹴ってしまうことに他ならない。二文でいるためには必要なこと、そう言われている様だった。

 ここまで言われて断ることは出来ない。

「わかりました、やります。……いえ、やらせて頂きます」

 僕の言葉で安心したのか、冬子さんはただ深く頷いた。

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