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第十三話

 結局、試験的にやってみようということでその場は収まった。葛生先輩から言い渡されたテーマは「嘘」。四月馬鹿(エイプリルフール)にちなんでということだが、本当に大雑把過ぎる。しかもこう言ったのだ。

「テーマは『嘘』だけど、これを主題にしろってことじゃないよ。嘘というキーワードから想像して膨らませて、適当に書いちゃって。どの道私たちが書くものはノンフィクション以外は嘘の塊なんだから」

 ということだ。つまりはなんでもありと、会長自ら言いのけたのだ。とぼとぼと文芸部室へ続く階段を上りながらため息をつく。

 どうして僕が文芸部長へ言伝をしなければならないのだ、と。

 決まったことを伝えるのなら葛生先輩か間々田先輩がメールでもすればいいだけの話なのに。全く分からない。

 考え事をするには距離が短すぎた。結局なにも分からないまま部室の前に着いていた。小さく二回ノックするとすぐに扉が開いた。昨日と同じ眼鏡の男子に部長を呼んでもらう。連日のせいか訝るような表情を見せたがすぐに引っ込んで部長が出てきた。

「あら、大平下君。文芸部に入る気になったの?」

 眼鏡の奥はどことなく柔らかい。きっと分かってて言っているのだ。だから僕は微笑みながら答える。入りませんよ、と。手短に二文での件を伝えると、部長は聊か辟易したような表情を作った。

「はぁ……言わんとすることは分からなくはないんだけどね。自由そのものが制約に感じてきたのかな」

 ああ、なるほど。そういうことだったのか。ようやく一つ合点がいった。さすが文芸部長、眼鏡は伊達じゃないようだ。

「ま、話は分かったわ」

「そうですか、それじゃこの辺で――」

「あ、ちょっと待って」

 踵を返そうとしたところで呼び止められる。このパターンが多い気がしてきた。

「時間ある?」

 言われて頭の予定帳を開く。中身は未定で一杯だった。時間はいくらでも、と答えると嬉しそうな顔を浮かべて文芸部の扉を開いた。

「ま、見学でもして行って」

 がらりと大きく開かれた部室は先までいた社会科教室とは真逆であった。並べられた長机に各々が座り、パソコンを前にしてタイプをし続ける人、なにやら討論らしき事をしている人、只管原稿を読んでいる人……部活動と言う名に相違ない光景だった。

「こっちに」

 有無も言えず、誘われるがままに背中を追っていく。幾つか視線が突き刺さっているがその主を追うのは怖くて出来ない。猛獣の檻に放り込まれた生肉みたいな状況。正直胃が締め付けられる思いだ。

 連れられたのは机が二つ、向かい合うように設置された場所だった。対面で話し合うスペースなのだろう。勧められた椅子に腰を落ち着け、肩を竦めて小さくなった僕の前に部長さんはふわりと優雅に座る。この学校は誰しも決まるような仕草を持っているのだろうか。

「さて、大平下君」

 机に両肘を置いて手を緩く組む。人差し指が浮いているのは癖なのだろうか。そしてその奥にある瞳は先ほどの穏やかさがなくなっていた。

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