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第十二話

 都賀先輩の言葉にさらりと言葉が返ってくる。

「そこはちゃんと考えているよ。根本は変えたくないってやーも言ってたし」

「だったらいいですけど」

「簡単に言えばかなり大雑把なテーマを決めて、そこから自由にやってもらう感じになるかな。自由でいることにほんの些細な制約をつけてもらうだけ」

「大雑把の度合いによりますよ」

「だろうね。僕からしても無闇にそういう拘束はしたくないから、まあ試験的に一回やってみようか、って感じでさ。大平下君はどう?」

 ここでいきなり話を振られた。新入に聞くのはどうかと思うけど答えざるを得ない。

「僕は……そうですね。本当に大雑把であれば何も困ることはないと思いますよ」

「そっか、それじゃ大平下君も春と同意見だね」

 間々田先輩は考え込むような仕草を見せる。妙に決まっていて、性格を現しているようだった。しかしそれも一瞬。すぐにぽつりと声が漏れてきた。

「はぁ、僕も同意見で結局やーの言うテーマ次第か」

 と言うことは、間々田先輩も乗り気ではなかったということらしい。言い出したのは葛生先輩だったのだ。あの安心しきり腑抜けた顔で寝ている葛生先輩がそんなことを……と寝顔をじっと見つめるのも憚れるのですぐに視線を間々田先輩に戻す。

「慶介は多分賛成派だろうな。それで反対派は冬子かな。やっぱりやーのテーマ次第か」

 あれ、部長さん――宇都宮先輩は反対派なのか。文芸部の部長という職業柄賛成かと思っていたのだけど。

「けど、なんでいきなり会長はそんなことを」

 都賀さんの漏らした一言が切欠なのか、葛生先輩ががばっと起き上がった。

「うん、春ちゃん達の意見は最もかな。今まで自由自由でやってきたけど、それって考えることを破棄してるのと一緒なの。考えなしに適当にだらだらと書いて提出して『はい、おしまい』だなんてそれは自由じゃないよ。私は考えて自由にやって欲しいの。もっと想像を膨らませて欲しい。そうでないと死ぬんだよ。ちっとも面白くない。自由を感じるためには制約は絶対的に必要なものだからね。だから敢えて私はそうするんだ。考えなしの作業よりもよっぽど楽しいし、愛着も出る、それに書いた人の想像力の深さも分かる。タケのよく言う、まあ如何わしい言い方だけど、公開オナニーの場で後始末のカスを見せられても異分子になるだけだからね。精神被虐嗜好の同類項なんだから、しっかりとやることはやってもらいたい。それとも、何がオカズなのか知られたくないのかな?」

 捲くし立てる言葉。とてもさっきまで猫のように寝ていた人の言葉とは思えない。女性の言うこととも思えないが、それはどうでもいいこととしよう。

「今までティッシュの見せ合いをしていたわけだけど、多分各々書いているうちに何かした思うことがあって書いていたと思うよ。今度はそれをひけらかすだけ、それだけだよ。それとも、ここまで言われてもやっぱり濡らした下着は履き替えて拭いたティッシュだけを見せに来る?」

 多分全員絶句していたと思う。言いたいことは分からなくもない。ただ例えが下品すぎる。そのせいで分かりにくくしている。どこかに良い例えがないものか。

「つまり、会長は『一滴の水』よりも『砂漠に一滴の水』の方が面白いと」

 ああ、それでいい。さすが都賀先輩。古めかしい三つ編みが輝いて見える。

「そう取って貰って構わないよ」

「はぁ……そこまで言われてさよならなんて出来ませんよ。ちなみに私は明確な反対派じゃないのでその言葉は冬子さんにお願いします」

「あっれー、さっき起きたから春ちゃんが反対だと思ってた」

 今まで感じたどの空気よりも微妙な雰囲気が辺りを包んだ。

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