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#5

 まだ肌寒い四月の温度は建物の中に入ると緩和された。主に一般教養の授業が行われる大講義室が二階にありその下には学生の憩いのスペースである食堂がある。

 翔太は楓を誘ってここにやってきた。

「あのこ、結構可愛いじゃん。今度誘ってみようかな」

「やめて、本気でやめて!あのこ、あんたのこと怖がってるんだから」

 翔太は小さく笑う。一角に空いている4人掛けテーブルを見つけて二人向かい合って腰かける。

「初対面で嫌われちゃったか。でも楓にしては珍しい友達だな」

「なんかね、ふわふわしてていかにも『私不安です』って感じの子だからほっとけなくて」

「そっか世話好きがでてしまったわけだ」

 楓はまあねとうなずく。

「……でどうすんだよ、4年は長いぞ。お前俺についてきたんだろ」

 楓は取り乱す。

「そ、そんなんじゃない。じ、自分でここがいいなと思って受験したんだから」

「ま、いいけどさ」

「・・・…せっかく食堂来たんだからさ、なんか食べていこうよ」

「そうだな」

 食券を買って待っている間、翔太は楓に話しかけていたがそれを半分聞いて半分違うことを考えていた。

 楓は翔太がここを受験すると知って自らも受験すると決めた。正直勉強全般が好きではなかったし義務教育をとっくに終えているのにどうしてまだ勉強しないといけないのかと思っていた。大学へ行くという選択肢はほぼ楓の中ではなかった。

 翔太もおそらくそうだろうと思っていた。

 高校二年の夏、翔太からこの大学のこの学部を目指してると聞いた。いかにも勉強には縁遠い二人に大げさに言えば溝ができたような気がした。通っていた高校のレベルは中の下くらいで就職組が半数近くはいたし特に決めていたわけではないがきっとそうなるだろうと楓は考えていた。しかも翔太の受ける大学がそこそこ偏差値が高く、いわば高校内のトップクラスの生徒が選びそうなところだった。翔太と離れてしまうことに楓は恐怖を感じていた。小学校からずっと一緒でいて当たり前の存在がいなくなる。そんなこと誰だって星の数ほどある。出会いと別れを繰り返して人は成長するなんてもう何百回も聞いた気がする。でも楓はダメだった。離れたくない、そんなバカみたいな理由で受験することに決めた。両親は最初不思議な顔をしたが思っていたほど反対しなかった。いや両親からしてみればそれは「普通」のことだったのかもしれないしどこの大学とか学部とか細かいことも聞かれなかった。そして無謀ともいえる受験勉強が始まった。翔太はずっとあんな感じで逆に心配していたがやればできるタイプだったみたいで本当に頑張らなければいけなかったのは楓の方だった。

「でも、おまえ頑張ったな」

「え」

 楓の意識が現実に戻される。

「受験だよ、俺、おまえ無理だと思ってたもん」

「ひどいな、まあ私も無理だと思ってたけど」

 目の前でがつがつカレーライスを食らっている翔太を見て楓は入学できて良かったと心から思った。

「でも」とまだうまくつかめない心のもやもやがあることも感じていた。

 それをかき消すようにナポリタンを豪快にすすった。

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