#2
「君たちの未来へつながる手助けを我々……」
延々続く学長のあいさつのなか、響子は改めて人の多さに静かに驚嘆していた。
拍手の音が鳴り響く。やっとあいさつが終わったようだった。
「長い長い、わかってはいるけどやっぱりつまんない話は聞いてらんないよ」
楓が大きな独り言のようにつぶやく。拍手が鳴りやんだとたん、ざわざわ聞き取れない声の集合体でうるさい。楓くらい声をはりあげないとまともに会話もできないくらいだ。
「そういえば、響子はどこから? 」
どこ、と聞かれたからどこ出身かを答えればいいと当たり前のことを響子は心の中で変換した。
「ふうん、そうなんだ、なんて高校? あ、高校聞いてもわかんないか」
自分の発した言葉が楓に届いていて響子はほっとした。あまりの声の大きさの違いに会話が成立しているのが不思議だった。
それと高校という響きに響子はなぜか緊張した。理由はわかっている。それをかき消すように逆に響子は楓に質問した。
「か、楓さんは……」
「楓でいいよ、カ・エ・デ」
「どうしてここを選んだの? 」
すると楓は表情をゆがめてどこか照れくさそうにした。
「あ、それは……ま、まあ文学が好きっていうか、えーと……」
明らかに不自然な楓の振る舞いに響子は何と言っていいか分からなかった。
「そ、そっちは? やっぱ文学が好きで? 」
響子は逆に質問返しされてしまった。
「もちろん、文学は好きだけど……なんていうか言葉が好きかな」
「言葉? 」
「うん、なんでもいいんだけど元気くれる言葉とか綺麗な言葉とかそういうのわくわくするんだよね」
響子は自分の口調がはつらつとしていることに驚き少し恥ずかしく感じた。
「言葉オタクか……やっぱ変ってるね、あんた、前より気に入った」
前ってまだ出会って数十分もたってないのにと響子は思った。
「私もあるよ、好きな言葉」
「え? 何?」
「言葉っていうか名言っていうのかな……ちょ、ちょっとどうしたの? 」
響子は必死に自分の鞄をあさってメモ帳とペンをとりだした。
「何? メモるの? 」
響子はコクンと頷いて楓をじっと見た。
「あんたは記者か」
楓は呆れたように笑った。
「私の好きな言葉はね、『人生において無駄なことは二つだけある、ひとつは過去を後悔すること、もうひとつは未来を不安に思うこと』そんでこれが私のポリシー」
楓の雰囲気をそのまま表したような言葉だと響子は思った、そしてしっかりメモった。
(そのとおりだ)
「あれ、楓、ここにいたのか、探したぞ」
背後からいきなり男の声がして二人は同時に振り返った。