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#12

 後日、再び「言葉の雨」に3人でやってきた。しかし部長は忙しそうである。

「ああ、ちょっと今執筆中の小説あるから適当に活動しといて」

「……」

「とりあえず活動内容決めないと何のために入ったかわからないよ、ってか私はこのサークルに入ってないけどね」

 いつも通り楓が沈黙を破る。

「そ、そもそもサークルって何やるところ、なの、かな」

 健がいるせいか響子の言動は少したどたどしい。

「まあ部活動よりは縛りがきつくない感じかな」

「な、なるほど。でも部活もしたことないからわからない」

「なにそれ。あ、そうだ。そこの青年はどうしてここに入ろうと思ったの」

 楓が健に尋ねる。

「俺、小説書きたくって文芸サークルに入ろうと思ったんだ」

「小説書くの!すごい!すごいね!」

 響子のいきなりのテンションの上がりっぷりに少し健はびっくりした。

「じゃあ健君の小説執筆を応援っていうのはどうかな?」

「応援って、応援!?」

「そう、応援」

 健が照れくさそうに言う。

「応援ってなんか恥ずかしいな、じゃあ協力してよ」

「協力?」

「たとえば資料集めとかアイデアとか、まあ自分の作品って感じではなくなっちゃうけど。実は今まで最後まで完成させたことがないんだよね」

「小説書くのって私には考えられないよ、読むのだって大変なのに」

 楓はそう言ってため息をつく。

「健君ならきっと書けるよ、協力する」

 そこで楓が気づいた。

「響子、ちゃんと喋れるようになってるじゃん」

「あ、そういえば」

 健も思い出したように気づいた。

「そ、そう、か、かな」

「また戻ってるよ、意識しなくてありのままの自分でいればいいのに」

「わ、わ、わかった」

 

 「小説書くの?」

 そう大声を上げたときの響子の表情を健は好意的に思った。ただただ一直線に自分を見るキラキラした瞳と表情、どうしてか健は羨ましかった。自分が以前夢中になったのはいつのことだったか。最近ではなかったのではないか。この大学に受かったときも大声を上げて喜ばなかった。嬉しかったけどほっとしたくらいで最近あんな表情したことなかった、幼い日、大好きだった児童文学のシリーズをわくわくしながら読んで、読み終えてまたわくわくする想像や夢を見た。実際現実はそんなわくわくするようなところじゃなくてきっとつまらないところなのだろうか。だから自分はあの日に戻るために物語を書きたいのだろうか、いつも書いていた稚拙な文章たちは現実と虚構の隙間を埋めるためのものだったのだろうか。


「……くの?」

「え?」

 健は我に帰った。

「どうしたの?ぼうっとしちゃって。どんな小説を書くの?」

 楓が健に話しかけていた。

「んと、ホラーかな。とびっきり怖いやつを」

 健は冗談っぽく言った。

「ホ、ホラーはやめにし、しない?もっと楽しいほうがいいよ」

「響子、さては怖いんだな」

 楓が意地悪そうにそう言う。

「だってだって」

「嘘だよ、決めてるわけじゃないんだけど、児童文学を書いてみたいんだ」

「じどうぶんがく?」

「子どもが読める楽しいお話を書きたいんだよ」


 健はなんとなく思っていた。

 現実がもう少しキラキラしたものになるかもしれないと。

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