#11
権が「言葉の雨」を訪れた翌日、翔太を昼食に誘った。
「サークル見てきた」
「何のサークル?」
「文芸サークルだよ」
「言葉の雨」のチラシを翔太に渡す。
「へえ、なんでまた?」
「小説家になりたいんだよね、笑えるだろ」
健が照れ笑いを隠しながら言う。
「それで文芸サークルか。いや、笑わないよ。むしろ将来の目標があるってのはちょっと羨ましいよ」
翔太が「言葉の雨」のチラシを見ながらつぶやく。
「でもここでなくても良かったんじゃないか、まあダメとは言わないけどさ。他にも文芸サークルはたくさんあるわけだし。なかにはもう賞を取ってるOBの指導を受けられるってのもある」
「うん、でも、理由はわからないけど気に入ったんだよ。サークル名も部長の人柄も」
「そっか、俺はどうしようかなー本当はサークルとかどうでも良いんだけどね。良いところに就職さえできれば俺にとっては良いんだよね」
「就職って、もう考えてるんだ。まだ入学したばっかりなのに」
翔太はサークルのチラシの下にあるまた違うたぐいの書類を健に見せた。
「一回生からはじめる就活講座、か」
「良いところに就職して、そんで金持ちになって、美人の嫁をもらって的な。俺こそ笑われるかもしれないけど」
「うん、それは笑えるね」
「言ったな」
翔太が健を小突く。
「でも今の俺にとっての幸せってそんな感じなんだよね。もっと大切なことあるでしょって説教されそうだからあんまり大声では言えないけど」
「まあでもいいじゃん。それもひとつの考え方だよ、間違ってはいないよ」
「準備は早めにだ。この就職難の時代だ、急ぐにこしたことはない」
「まあ、ねえ」
「だから、これ来週なんだけどさ、一緒に行ってみないか」
「でもまだ就職なんて何も考えてないし」
「良いんだよ、おれも付き添いが欲しいだけだから。それに何でも経験だ、小説のネタになるかもしれないぞ」
「小説のネタねえ……」
翔太が「頼む」と両手で拝むジェスチャーをして、健はしぶしぶオッケーを出した。