#10
「人いるじゃん」
楓がつぶやく。少し気まずかったが優しそうな人が顔を出したので三人は少し安心した。
「三人も入部希望、嬉しいなあ」
「い、いえ私は付き添いで」
楓が急いで訂正する。
「そうなんだ、でも君たち二人は入部希望なんだよね」
二人がこくんとうなずく。
「二人でも十分だよ、なんせ今年部員が入らなかったらサークル認可されなくなっちゃうから」
「え?」
響子と健が同時に驚きの声を上げる。
「一人先輩が卒業されてついに一人になってしまったからなあ。もうここまでかと思っていたんだが天は見放さなかったんだ。ありがたやありがたや」
急に自分語りに入ってしまう先輩をよそに中に入っても不安は継続したままだった。
「部員一人なんだ、ってその前も卒業した人と合わせて二人じゃん」
楓が小声でつぶやいてる。響子は「確かに」と相槌をうつ。
「最近はみんな大型の文芸サークルに入っていくからなあ、こんな賞とったOBいますとか宣伝してさ、蓋をあけりゃイベントサークルとなんも変わらんよ。時代かなあ」
そういいながら部長らしき先輩は三人を中に案内する。
「うわあ、すごい」
響子が感嘆の声をあげる。部屋じゅうに本、本、本。単行本に文庫本、雑誌にマンガまである。小さな図書室のようになっているが整理はされていない。
「さすが文芸サークル、すごい量だね」
楓は簡単よりあきれた声を出す。健は声を発さずその本たちを眺めている、目は輝いている。
「すごいでしょ、全部先輩からの積み重ねの本たち。このサークル廃部寸前だけど歴史は長いからね。今じゃ自分の代で買い足さなくてもたいがいのものは揃ってるよ、さすがに新刊まではないけどね。あ、そうだ、自己紹介が遅れたね。僕は部長兼唯一の部員の綾瀬だ。よろしく」
響子たちも慌てて自己紹介する。
遅れて一応楓もあいさつする。
「活動内容は自由。文学研究もよし、もちろんで自分で小説やら評論を書くのもよし、書かなくてもよし。ああ、ただ学園祭の同人誌作成があるからそれにはなにかしら寄稿してもらうけどね。去年は僕一人だから丸々一冊小説を書いて出したけどね、ま、全然売れなかったけどね」
笑いながら部長はそう言った。
「こ、言葉の雨っていうのは、な、何か意味があるのですか?」
おそらく一番聞きたかったところなのだろう、勇気を出して声を発した響子に楓はそう思った。
「うーん、実際細かいところは僕も知らないんだ。創設時からこの名前だからね。でもいいと思わない?僕は好きだな『言葉の雨』実に文学的じゃないか」
「はい、私もそう思います」
おそらく説明を始めてたらメモを取っていたんだろうなと楓は思った。
「あ、すまない。今日はこの後野暮用があってね、ここにいられないんだ。どうする?活動するかい?」
活動するかいと言われてもと三人は思った。
「いえ、でしたらまた後日来ます」
健が代表して言った。
「そうかい、それでは今日は解散。部員が一気に三人も増えて嬉しいよ」
いや私は、と言いかけて楓はやめた。後日改めて否定しよう。