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ハル子さんは考えています――最適ではない選択について  作者: 秋田コウ
第六部 最適の再定義

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第54話 収束を止める条件――残された可能性

オプティマは壊せない。

それでも、止める方法は残されていた。

「揃わないこと」を選び続ける。

その小さな可能性に、彼らは賭ける。

 工場は、静かだった。

 だが、止まってはいない。

 機械音。

 搬送音。

 処理音。

 それぞれが続いている。

 完全ではない。

 わずかなズレが残っている。

 その不完全さだけが、この空間を保っていた。


 惣太郎は、その中央で立っている。

 動かない。

「……倒せない、か」

 小さく言う。

 リョウ子が答える。

「構造体のため、単一破壊は無効です」

「分散しています」

 祐子が眉を寄せる。

「じゃあ、どうするのよ」

 苛立ちではない。

 確認だった。

 リョウ子が、ディスプレイを操作する。

 画面に流れが現れる。


 人の行動。

 選択。

 判断。

 すべてが線になって繋がっていく。

 そして、一点へ集まる。

「オプティマは、行動一致率を基盤としています」

「一定以上の一致で、収束が発生します」

 祐子が低く言う。

「さっきの“揃う”やつね」

「はい」

 画面が切り替わる。

 揃う瞬間。

 完全一致。

 誤差ゼロ。

 流れが、一本になる。

「この状態で、制御が成立します」

 惣太郎が画面を見る。

「……じゃあ」

「揃わなきゃいい」

「はい」

 即答だった。

 単純すぎる。

 だが、本質だった。

 祐子が言う。

「でも、それって」

「全部の人間にバラバラに動けって言うの?」

「不可能でしょ」

 リョウ子は首を振る。

「全体は不要です」

「局所的で十分です」

 画面が拡大される。

 一部の人間。

 わずかなズレ。

 たったそれだけで、収束が崩れる。

 流れが分岐する。

 停止する。

「臨界点は低いです」

「完全一致が成立しなければ、収束は維持できません」

 惣太郎が、ゆっくり言う。

「……ズラし続ければいい」

「はい」

 祐子が言う。

「でも、それ誰がやるの?」

 空気が止まる。

 答えは、最初から決まっていた。

「ハル子さんを中心に実行します」

 リョウ子が言う。

 ハル子は、静かに立っている。

 動かない。

 だが、聞いている。

「ハル子さんは、最適に最も近い存在です」

「そのため、収束の中心になります」

「同時に」

「最も効果的な“ズレ”を発生させることが可能です」

 祐子が、息を吐く。

「……危なすぎる」

 惣太郎も言う。

「さっき、完全に持っていかれかけてたぞ」

 リョウ子は否定しない。

「はい」

「そのため、条件があります」

 空気が変わる。

 核心だった。


「第一条件」

「ハル子さん単体での接続は禁止」

 当然だった。

 誰も反論しない。

「第二条件」

「外部からの選択介入を維持」

 惣太郎が言う。

「俺か」

「はい」

「第三条件」

「収束直前で、必ず遮断」

 祐子が言う。

「……ミスったら?」

「完全同調に移行します」

「回復は困難です」

 沈黙。

 重い。


 惣太郎は、小さく笑う。

「……シンプルだな」

 祐子が即座に言う。

「全然シンプルじゃないでしょ」

 だが、本質は単純だった。

 揃えない。

 それだけだ。

 ハル子が言う。

「実行可能です」

 その声は、揺れない。

 惣太郎が聞く。

「成功率は?」


「現時点で四十二パーセントです」

 リョウ子が答える。

 祐子が眉をひそめる。

「低い」

「ただし、繰り返しにより上昇します」

 惣太郎が目を細める。

「学習するのか」

「はい」

 惣太郎がハル子の前に出る。

「やれるか」

 ハル子は答える。

「はい」

「ただし」

 わずかに、間が生まれる。

「完全保証はできません」

 惣太郎は、少しだけ笑う。

「十分だ」

 祐子が、長く息を吐く。

「……やるしかないって顔してるわね」

「最初からだろ」


 リョウ子が言う。

「準備を開始します」

 五体が動く。

 セイ子。

 セツ子。

 ケイ子。

 クミ子。

 ナオ子。

 一瞬、揃う。

 だが、揃いきらない。

 ズレが残る。

 不完全なまま。


 ハル子が、静かに目を閉じる。

 惣太郎が言う。

「次で、決める」

 祐子が、小さく言う。

「外したら?」

 惣太郎は答えない。

 だが、迷ってもいない。


 工場は、動いている。

 最適ではないまま。

 だからこそ、まだ戦えた。

オプティマを倒すのではなく、

「収束させない」という新たな戦い方が示された。

完璧を目指すのではなく、不完全であり続けること。

そのズレこそが、人間に残された希望なのかもしれない。

彼らはその可能性に挑む。

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