第25話 無人で動き続ける工場――知らない稼働
幸之助は工場を残した。
止めるためではなく、
動かし続けるために。
誰もいないはずの場所で、
何が稼働し続けているのか。
そして、その工場は何を守ろうとしているのか。
その答えに、少しずつ近づいていく。
「……あの工場、見に行くか」
惣太郎がつぶやく。
祐子が顔を上げる。
「急にどうしたの?」
「分からない」
「でも、気になる」
朝。
空気は静かだ。
昨日の違和感が、まだ残っている。
「案内します」
リョウ子が言う。
それだけで十分だった。
門の前。
リョウ子が、鍵に触れる。
一瞬でロックが外れる。
そして、重い門がゆっくりと開く。
「入場可能です」
惣太郎は、立ち止まる。
門の向こうを見る。
リビングの窓の外から、ずっと見えていた。
動いているのも、知っていた。
だが、入ったことはない。
「どうしたの?」
祐子が言う。
「……いや」
一歩、踏み出す。
空気が、少し違う。
目の前に、建屋がある。
大きい。
静かだ。
だが、確かに動いている。
リョウ子が、建屋の前で止まる。
扉に触れる。
ロックが解除される。
扉がゆっくりと開く。
「こちらです」
中へ入る。
機械の音。
一定のリズム。
人の気配はない。
それでも、工場は動いている。
床。
壁。
機械。
“……整いすぎてる“
埃がない。
配置が揃っている。
動線が、無駄なく通っている。
“考えられすぎている”
リョウ子は止まらない。
最短で進む。
迷いがない。
知っている動き。
奥で何かが動く。
機械とは違う。
祐子の視線が止まる。
「……あれ」
一人。
立っている。
腕が動く。
正確に。
迷いなく。
別の場所。
もう一体。
部品を持ち上げる。
角度を合わせる。
誤差がない。
三。
四。
そして、五体。
気づけば。
工場の中に。
人影が、点在している。
すべてが、同じではない。
だが、揃っている。
「……なんだ、これ」
惣太郎は気づく。
人型ロボット。
五体。
ソラが先に出る。
止まる。
耳が立つ。
惣太郎が、機械に手を置く。
振動。
「……動いてる」
違う。
リョウ子が、言う。
「稼働状態は維持されています」
その時、ソラが低く唸る。
惣太郎が奥を見る。
何もない。
だが、何かがこの空間に触れている。
祐子が、言う。
「……来てるわね」
リョウ子がチェックする。
「異常は検出されていません」
「ただし」
「外部干渉の可能性があります」
その瞬間。
空気が、揃う。
音。
動き。
リズム。
一瞬だけ。
完全に一致する。
そして、すぐに戻る。
何もなかったかのように。
工場は動いている。
ずっと前から。
だが、それだけではない。
何かが、混ざり始めている。
見えないものが。
工場は動いていた。
人がいなくても。
誰も命令しなくても。
そこには幸之助が残した仕組みと、
ハル子たちが守り続けてきた時間がある。
だが、静かに動き続けるその場所にも、
見えない干渉は届き始めていた。




