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ハル子さんは考えています――最適ではない選択について  作者: 秋田コウ
第一部 青白い光と見えない敵

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第13話 中継点破壊作戦――止まらないネットワーク

敵の姿が見えたとしても、

それで終わるわけではない。

むしろ――

本当に厄介なのは、

その存在が一つではなかったと知った時だ。

切り離しても、

別の場所で繋がっている。

壊しても、

別の場所で動き続ける。

今夜、

初めての反撃が始まる。

それは勝利のためではない。

敵を理解するための一歩だった。

 屋上。

 扉が開いたまま。

 夜風が流れ込む。

 その先に、人影が広がる。

 無言。

 無表情。

 同時に動く。


 ハル子は、わずかに視線を動かす。

 水沢の耳元。

 小さなイヤーピース。

 解析。

 接続可能。

 遅延なし。

 干渉は許容範囲。

 問題なし。

 次の瞬間。回線に割り込む。

「……聞こえますか」

 水沢が、わずかに眉を動かす。

「……なに?」

 周囲を見る。

 誰もいない。

 そして、気づく。

 耳元に触れる。

「……これ?」

「通信を使用します」

 当然のように。


 水沢は、数秒だけ黙る。

 そして、小さく笑う。

「……勝手に入ってくるのね」

「最も損失が少ないためです」

 水沢は息を吐く。

「……まあいいわ」

 視線を上げる。

「使いましょう」


 その直後。

 人影が一斉にあふれ出す。

 速い。

 統一されすぎている。

 個性がない。

 予測可能。

 ハル子は、一歩前へ出る。

 迷いなく。

「遮断します」


 青白い閃光が走る。

 最初の一人が、止まる。

 接触前に、制御が切れる。

 続く。

 次。さらに次。

 正確に。無駄なく。

 制御を失った人影が崩れていく。

 だが、止まらない。

 次々と。

 補充されるように、押し寄せる。

 水沢が、歯を食いしばる。

「……きりがないわね」

 ハル子は視線を動かす。

「中継点が維持されています」

「供給が続いています」

 水沢が頷く。

「つまり?」

「元を断ちます」


 ハル子の視界に、構造が浮かぶ。

 流れ。

 接続。

 集中している一点。

 ビルの内部。

 下層。

 機械室。


「特定しました」

「地下です」

 水沢がハル子を見る。

「行ける?」

「今は動けません」

 押し寄せる人影。

「ここは維持可能です」

 水沢は短く息を吐く。

「……分かった」

「ここは任せる」


 一瞬、間。

「信じてる」

 水沢は動く。

 屋上の扉へ。

 足音。

 下から上がってくる。

 複数。

 同時に。

 迷いなく。

 水沢は、扉の前で止まる。

 一瞬の静寂。

 水沢は、迷わない。

 扉を抜ける。

 すれ違う人影。

 至近距離。

 肩がかすめる。

 だが、視線は合わない。


 人影は上へ。

 水沢は下へ。

 同じ階段を逆方向に。

 息を殺し、駆け抜ける。

 背後。

 足音が、屋上へ流れ込む。


 ハル子は動かない。

 すべてを受ける。

 そして、遮断する。

 青白い光が連続する。

 夜が切り裂かれる。


 水沢は駆け下りる。

 暗い階段。

 だが、迷いはない。

 下へ。さらに下へ。

 そして、辿り着く。

 地下。機械室。


 扉は閉まっている。

 内側から微かな振動。

 ロックが、かかっている。

 銃口が向く。

 一発。

 乾いた音。

 火花。

 ロックが砕ける。

 扉を引く。

 重く開く。

 機械音。

 中央に、一つの装置。

 小さい。

 だが、異様な存在感。

 青白く、脈打つ。


「この装置……外部と繋がってるのね」

 一歩、近づく。

 その瞬間。

 声が響く。


『最適化は進行中である』

『接続は維持される』


 強い。

 直接侵入してくる。

「……っ!」

 水沢が顔を歪める。

 だが、踏みとどまる。

「ふざけないで」

「勝手に人をいじるな」

 引き金に指をかける。

 狙う。

 撃つ。

 乾いた音。

 装置に当たる。

 ひびが入る。

 発光が乱れる。

 さらに撃つ。

 もう一発。

 砕ける。

 光が、消える。


 屋上。

 人影の動きが止まる。

 一斉に。

 完全に。


 ハル子が、わずかに目を細める。

「……遮断、確認しました」

 最後の一人が崩れる。

 完全に止まる。

 夜が戻る。


 地下。

 装置は砕けていた。

 発光は消えている。

 水沢は息を吐く。

 肩の力が抜ける。

「……終わり?」

 ハル子の声。

「中継点の停止を確認しました」

「ただし、他にも存在します」

 水沢は小さく笑う。

「……やっぱりね」

「そんな簡単じゃないか」


 静かに銃を下ろす。

 壊れた装置を見る。

 終わりではない。

「行くわよ」


 屋上。

 ハル子は空を見る。

 静かな夜。

 だが、終わっていない。

「次を特定します」

 目を閉じる。

 接続。探索。

 その奥へ。

 まだ届かない。

 だが、近づいている。


 春川家。

 惣太郎は立ったまま動かない。

 静かだ。

 何も起きていない。

 だが、わずかにズレている。

 一歩、踏み出す。

 理由はない。

 最短の行動。

 無駄がない。

 その瞬間、止まる。

「……違う」

 息を吐く。

 選びそうになる。

 何度も。

 そのたびに、止める。

 分からない。

 だが、抗う。

 それだけは、できる。


 見えない場所で。

 まだ、終わっていない。

中継点は破壊された。

だが、

オプティマは消えていない。

一つを止めても、

ネットワーク全体は生きている。

それでも意味はあった。

敵が止まる瞬間を見た。

影響が途切れる瞬間を確認した。

そして何より――

人間はまだ選べると証明できた。

水沢は戦う理由を見つけた。

ハル子は追うべき道を見つけた。

そして惣太郎は、

自分の中で起きている変化に気づき始めている。

戦いは終わらない。

だが今はまだ、

人間の意志の方が強い。

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