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4話

さあ、推理(物理)お時間ですわっ!

 帝都の中心にそびえ立つ、白亜の帝国議事堂。

 その最も巨大で豪奢なメインホールには、数え切れないほどの貴族たちが集まり、シャンパングラスを傾けていた。


 今日は王太子殿下と、男爵令嬢マリアの正式な婚約発表の場である。


『――愛する帝国の民よ、そして貴族の同胞たちよ!』


 壇上に立つ王太子が、魔法拡声器を通して堂々と演説をぶっていた。

 その隣には、純白のドレスに身を包み、儚げに微笑むマリアの姿がある。


『我が国は先日、恐るべきテロの脅威に晒された! 国家の象徴たる新型・王室専用機が、あろうことか私の元婚約者、ルクレツィアの嫉妬と狂気によって爆破されたのだ!』


 おおぉ……と、ホールに同情と怒りのどよめきが広がる。


『だが、案ずることはない! 卑劣な罪人はすでに有毒ガスの底へ追放した! そして私とマリアは、この悲劇を乗り越え、真実の愛を誓い合う! これこそが、いかなる悪意にも屈しない帝国の輝かしき未来なのだ!』


 ワァァァァァッ! と割れんばかりの拍手喝采が巻き起こる。

 感動の涙を拭う令嬢たち。誇らしげに胸を張る王太子。

 完璧なハッピーエンドの光景。


 ――ズズンッ……!


 その時だった。

 床が、微かに揺れたのは。


 テーブルの上のシャンパングラスがカチャカチャと鳴り、貴族たちが「地震か?」と顔を見合わせる。


 ズズンッ……ズズンッ……!


 揺れは次第に大きくなり、それは明確な『足音』あるいは『駆動音』となって、議事堂の巨大な外壁の向こうから近づいてきた。


『な、なんだ? 何事だ!』


 王太子が眉をひそめ、近衛兵たちが慌てて剣に手をかけた。


 次の瞬間。


 ドゴォォォォォォォォンッ!!!!


 議事堂の分厚い大理石の壁が、けたたましい轟音と共に粉々に吹き飛んだ。


 悲鳴を上げて逃げ惑う貴族たち。

 もうもうと舞い上がる白い粉塵。

 その土煙の奥から、キャタピラの重低音を響かせて『それ』は現れた。


 サビと油にまみれた、巨大な鉄の塊。

 無骨なドリルと分厚い装甲を備えた、旧式の炭鉱掘削用ゴーレム。


 あまりにも場違いで、あまりにも凶悪なフォルムをした泥だらけの重機が、シャンデリアの輝く豪華絢爛なホールに鎮座したのだ。


『ひ、ヒィィィッ!? なんだあの汚い鉄屑は!』

『警備! 魔導機部隊を出せ!』


 パニックに陥るホール。

 私はコクピットの中で、優雅に脚を組みながら外部スピーカーのスイッチを入れた。

 そして、最高に澄んだ、淑女のお手本のような声で口を開く。


『ごきげんよう、愚かな皆様。少々入り口が狭かったものですから、壁をぶち破らせていただきましたわ』


 その声に、王太子の顔が驚愕に歪んだ。


『き、貴様……っ! ルクレツィアか!? なぜ生きている! それにその薄汚れた重機はなんだ!』


 私はスピーカーの音量をもう一段階上げた。


『薄汚れた重機とは失礼な。この子はわたくしの愛する相棒、ポチですわ! 本日は殿下とマリア様のご婚約の席と伺いまして、とびきりの引き出物(真実)をお持ちしましたの!』


 ウィィィン、と音を立てて、ポチの左腕の巨大なクレーンアームが動く。

 その武骨な鉄の爪が、まるでティーカップを摘むように繊細な動作で、一つの黒焦げになった金属部品を掲げてみせた。


『ご覧なさい! これこそが、あの爆発事故を引き起こした遠隔起爆装置の残骸ですわ!』


 私はコクピットの中で、手元のデータ端末を操作し、起爆装置の映像を議事堂の巨大モニターに強制ハッキングして映し出した。


『爆発の中心地、地下三メートルの配管設備から、わたくしのポチが自力で掘り起こしてまいりましたの。殿下は、わたくしが機体に直接爆弾を仕掛けたとおっしゃいましたわね?』


 私は鼻で笑った。


『論理的におかしいですわ! 機体の横に爆弾を仕掛けて、どうして地下に向かって三メートルものクレーターができますの? 爆発のベクトル(指向性)というものを中学校の物理からやり直してきなさいな!』


『な、何をデタラメを……っ!』


『デタラメではありませんわ。これは地下のパイプラインに大量の火薬を詰め込み、下から突き上げるように爆発させた……計画的な自作自演のテロですのよ!』


 ホールの空気が凍りついた。

 貴族たちの視線が、私と王太子の間を激しく行き交う。


『そして、もう一つ決定的な証拠がございますわ』


 私はモニターの映像を拡大し、黒焦げの起爆装置の裏側に刻印されたマークを大写しにした。

 二つの百合の花が交差した紋章。


『マリア様。貴女のご実家である男爵家の軍事商会の紋章が、なぜこんな危険物に刻まれておりますの?』


 隣に立っていたマリアが、ビクッと肩を震わせ、顔面を蒼白にした。


『ち、違います! それは偽造です! お姉様が私を陥れるために……っ!』


『偽造? 有毒ガスが充満し、最新鋭機ですら一歩も入れないあの灼熱の地下プラントで、わたくしが数日で偽造品を埋めたとでも? 計算が合いませんわね。マリア様のご実家の商会、最近随分と資金繰りが悪化していたそうですわね?』


 私は容赦なく、言葉の刃で追い詰めていく。


『軍の予算を横領し、それを隠蔽するために、わざと欠陥品の機体を納入して爆発させた。そして邪魔だったわたくしに罪を擦り付けた。……これが、貴方たちの美しすぎる嘘の、醜いロジック(構造)ですわ!』


 静まり返っていたホールに、どよめきが爆発した。

「まさか」「男爵家が横領を?」「テロの自作自演だと!?」と、貴族たちが一斉に王太子たちから距離を取り始める。


 完全に逃げ場を失った王太子は、顔を真っ赤にして激昂した。


『だ、黙れ黙れ黙れぇぇぇッ! 物理だの論理だの、知ったことか! 私は王太子だぞ! 私の言葉こそが真実であり、法なのだ!』


 ああ、ついに論理的思考を放棄しましたわね。

 知能の敗北宣言、誠にごちそうさまですわ。


『この悪魔め! 私の晴れ舞台をよくもぶち壊してくれたな! もういい、貴様などその汚い鉄屑もろとも、私が直々にチリに変えてやる!』


 王太子が懐から黄金に輝く起動キーを取り出し、高らかに掲げた。


『来いッ! 私の真の専用機、パーシヴァル・カスタム!』


 議事堂の天井ガラスが派手に砕け散り、空から一機の魔導機が舞い降りた。


『……っ!』


 私は思わず、コクピットの中で身を乗り出した。

 現れたのは、爆破された量産型とは比べ物にならないほど豪奢な機体だった。


 純白のベース装甲に、眩いばかりの純金の装飾。

 胸部には巨大な宝石(高純度の魔石)がはめ込まれ、背中には天使の羽を模した無駄なスラスターが六枚も展開している。

 手には、身の丈ほどもある巨大で装飾過多な光の剣。


(……な、なんて……!)


 私の脳内メカオタクが、かつてないほどの怒りと興奮で沸騰した。


(なんて馬鹿げた機体ですの! 金箔なんて貼ったら装甲の耐久性が落ちるだけですわ! 背中の羽スラスターも推進ベクトルがバラバラで制御不能の欠陥設計! あんなもの、ただの巨大な歩くシャンデリアじゃありませんの!)


 だが、同時に私の心臓は高鳴っていた。

 あんな見掛け倒しの最高級品を、私の油まみれのポチで、理詰めでボコボコにできるのだ。

 これ以上の極上のエンターテインメントが存在するだろうか。


『フハハハハ! 見よ、この圧倒的な美しさと力を! 貴様のようなスクラップの相手など、一秒で終わらせてやる!』


 王太子が機体に乗り込み、光の剣をポチに向けて構えた。


「上等ですわ、殿下」


 私は外部スピーカーを切り、コクピットの中で一人、獲物を前にした肉食獣のように舌を舐めずった。

 操縦桿を握りしめ、ポチの全エンジンに魔力を直結させる。


 ズゴォォォォォォォンッ!!


 ポチの巨大なドリルが、議事堂の空気を震わせて最高回転で咆哮を上げた。


「そのペラッペラの装甲とプライドごと、わたくしのロジックで粉微塵にすり潰して差し上げますわ!」


 美しき歩くシャンデリアと、泥に塗れた最強の鉄屑。

 物理法則と論理を懸けた、最後の公開処刑ざまぁの幕が切って落とされた。


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