1話
コンセプトから思い浮かんだ作品です。
全5話予定でさっくり読めます!
婚約破棄✖️ロボット✖️推理✖️ざまぁ
全部詰めたらこうなりました!
「ルクレツィア・フォン・クロイツ! 貴様のような卑劣な女との婚約は、今この場をもって破棄させてもらう!」
華やかな王宮のダンスホールに、王太子の甲高い声が響き渡った。
音楽が止まり、着飾った貴族たちの視線が一斉に私へと突き刺さる。
王太子の腕の中には、涙ぐんだ顔で彼にしなだれかかる可憐な男爵令嬢の姿があった。
……あー、やっぱり来ましたわね、このテンプレ展開。
「私が愛しているのはこのマリアだけだ! 貴様がマリアに嫉妬し、あろうことか私がお披露目するはずだった『新型・王室専用魔導機』の動力炉に細工をして、爆破テロを企てたことはすでに調査で判明している!」
ざわっ、と周囲がどよめく。
国家の象徴たる王室専用機を爆破したとなれば、ただの嫌がらせでは済まない。立派な国家反逆罪だ。
私は扇子で口元を隠し、悲劇の令嬢を完璧に演じながら「まぁ、なんて恐ろしい……」と肩を震わせてみせた。
だが、私の頭の中は信じられないほどの冷静さで、王太子の言葉にツッコミを入れていた。
(いやいや、殿下。あの新型機に搭載されているのは最新のツインバレル式・魔力圧縮炉ですわよ? 素人がちょっと細工したくらいで爆発するようなヤワな設計じゃありませんわ。爆破するには、第三バルブの安全装置を物理的に解除した上で、魔力液を意図的に逆流させる必要がありますの。そんなの、専門の特級技師か、よほどのバカがマニュアルを無視して限界突破させない限り不可能ですわ!)
そもそも、私はあの新型機の設計図を見た時から「装甲を削りすぎて機体バランスが最悪」だの「見た目重視で排熱効率がゴミ」だの、裏で散々ダメ出しをしていたのだ。
あんな欠陥機にわざわざ私が触るわけがない。油の匂いすらしない見掛け倒しの騎士型ロボットなんて、私の趣味じゃないのだ。
しかし、真実なんてどうでもいいらしい。
王太子はどうしても私を排除し、この男爵令嬢とくっつきたいのだろう。
「言い逃れはさせん! 貴様の身分を剥奪し、帝都の最下層……有毒ガスと鉄屑が吹き溜まる『第十三廃棄区画』への永久追放を命じる!」
その瞬間、私の心臓はドクンと大きく跳ねた。
(えっ……第十三廃棄区画!? 帝都中のあらゆる機械のスクラップが集まる、あの夢のような鉄屑のテーマパークに!?)
私は必死で口元の緩みを扇子で隠した。
危ない。うっかり満面の笑みで「ありがとうございます!」と叫んでしまうところだった。
「連れて行け!」
近衛兵たちに両腕を掴まれ、私は大声で泣き叫ぶ演技をしながら、足早にホールを引きずられていった。
ああ、早く行きたい。私の心はすでに、未知のスクラップたちとの出会いに向けて激しく羽ばたいていた。
ガチャン、と重い鉄格子が閉まる音がした。
「ここで一生、鉄屑と一緒に腐るんだな、悪役令嬢め」
兵士たちは吐き捨てるようにそう言うと、足早に昇降機で上層へと帰っていった。
彼らの気配が完全に消えたことを確認してから、私はゆっくりと立ち上がった。
そして、大きく深呼吸をする。
「すぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁっ!」
鼻腔をくすぐる、酸化した鉄の匂い。
地面に染み込んだ潤滑油の芳醇な香り。
かすかに聞こえる、遠くの廃棄炉の重低音。
「最高ですわ……っ!!」
私は両手を広げ、天を仰いだ。
窮屈なコルセット。息苦しい夜会。優雅な歩き方。
そんなものはもう、ここには必要ない。
私はドレスの邪魔なフリルを力任せに引きちぎり、動きやすいようにスカートの裾を太ももの位置で固く結んだ。
美しく結い上げられていた金髪もほどき、その辺に落ちていた工業用の太いゴムで無造作にポニーテールにする。
「さあて、まずは私の相棒探しから始めませんとね」
瓦礫の山をハイヒールで蹴り飛ばしながら、私は廃棄区画の奥へと足を踏み入れた。
周囲には、壊れた魔導機や使い物にならなくなった産業機械が山のように積まれている。
私にとっては、文字通り宝の山だ。
数時間ほど鼻歌交じりに鉄屑の山を漁っていた時、私の視界にとんでもないものが飛び込んできた。
「……嘘。これって……旧帝政時代の『重機動・炭鉱掘削用ゴーレム』じゃありませんの!?」
土砂と瓦礫に半ば埋もれるようにして鎮座していたのは、騎士型のようなスタイリッシュさの欠片もない、巨大な鉄の塊だった。
無骨なキャタピラ。
分厚すぎる無塗装の装甲。
右腕には巨大なドリル、左腕には全てを粉砕するクレーンアーム。
「はあぁ……なんて美しい……っ! この無駄のない質量! 実用性だけに特化したフォルム! これぞロマンですわ!」
私は興奮のあまり、サビだらけのその重機にスリスリと頬ずりをした。
残ったドレスの生地はすでに油と泥で真っ黒だが、そんなことはどうでもいい。
装甲の隙間から内部の機関部を覗き込む。
魔力伝導管は焼き切れ、関節部のシリンダーもいかれているが、肝心の主動力炉はまだ生きている。
直せる。私の腕なら、絶対に直せる。
「ふふふ……あんな貧弱な騎士型ロボットで私を陥れたこと、後悔させてやりますわ」
私はその辺りに転がっていた巨大なスパナを拾い上げ、肩に担いだ。
顔には、悪役令嬢と呼ばれるにふさわしい、最高に邪悪で楽しげな笑みが浮かんでいたと思う。
「待っていなさい、殿下。私が直したこの子で、貴方たちの嘘を物理的に、そして論理的に、完膚なきまでにブチ壊して差し上げますわ!」
こうして、油まみれの令嬢と鉄屑の相棒による、前代未聞の現場検証の幕が上がったのである。
前代未聞!!




