第07話:Sランク魔獣、唐揚げくんで餌付け
☎︎「ミサキさん! SOS! 緊急事態っす!」
☎︎「……今度は何? もうマヨネーズ無くなったの?」
☎︎「違うんす! この楽園、野菜と果物は最高なんですけど、ジャンクさがゼロなんすよ! 禁断症状で手が震えて……!」
☎︎「知らんがな」
☎︎「ローソンのからあげクン! レッドで! あとLチキ! コーラも! お願いします! 5万だします!」
☎︎「はぁ……。あのね、こっちは暇じゃないのよ。レンタカーの手配も面倒だし、検問抜けるのもリスクあるの。割に合わないわ、5万じゃ」
☎︎「じゃ、じゃあ倍! 10万!」
☎︎「あー、忙しいなー Uberのクエストも残ってるしなー 雨予報だしなー」
☎︎「20万! 20万払います! だからお願いします神様サキ様!」
☎︎「……しょうがないわね。今回だけよ」
◇
【ウラヌス内部・ガミの拠点】
(エンジン音:ブロロロロ……!)背の高い草むらを割り、一台の黄色いバイクが現れる。ホンダ・モンキー125。背中には黒いデリバリーバッグ。
「うおっ! バイク!? マジで来た!」
「はい、お待たせ」(シールドを上げ)
「ミサキさん!? レンタカーじゃないんすか!? しかもモンキー! かっけぇ!」
「毎回車借りるの面倒だからね。……買ったわ、経費で」
「行動力お化けだ……」
「ほら、ブツよ。揚げたてだからまだ温かいわ」(ミサキ、バッグからローソンの袋を取り出す。漂うスパイスと脂の香り)
「うおおおお! この匂い! レッドの刺激臭! Lチキの暴力的な脂の香り! 神! マジで神!」
「さっさと受け取んなさい。冷めるわよ」
——その時だった!
ガォォォォォォォッ!!
——フェンリル。北欧神話において、主神オーディンすらも噛み殺すと予言された『神喰らい』の巨狼。縛めを千切り、世界を終焉へと導く厄災の象徴である。その名に違わぬ絶望的な咆哮とともに、茂みを弾け飛ばして躍り出たのは、月明かりを乱反射する白銀の獣の姿がそこにあった。
「ひぃぃぃっ!! で、出たぁぁぁ! 『銀の殺戮者』だぁぁ!!」
「……は? 何よそれ。デカい犬ね」
「犬じゃないっすよ! このエリアのボス、フェンリルっす! Sランク指定の災害級モンスターっすよ! 終わった……俺たち食われる……!」
凶悪な牙を剥き出しにして唸る巨狼。だがその視線はガミの命ではなく、彼の手にある『からあげクン』の袋に完全に釘付けになっていた。
グルルルル……!(殺気と食欲)
「い、嫌だぁぁ!」
「……チッ。うるさいわね。おい、ガミ」
「は、はいぃ!?」
「あんた、今配信回してんの?」
「えっ、あ、はい! オート追尾モードで……パニックで切るの忘れてて……!」
「はぁ……まあいいわ。私の顔はメットで隠れてるし。そのまま回しときなさい」
「えっ? えっ?」
「おい、犬」(バイクを降りて仁王立ち。ガミの手からからあげクンの箱をひったくる)
!?(ミ ´•ㅅ•`ミ)
「お座り」
ガ……?(困惑して首を傾げる)
「聞こえないの? お・す・わ・り」
「ミ、ミサキさん!? 何言ってんすか! 通じるわけないでしょ相手は魔獣ですよ!?」
「これ、欲しいんでしょ? いい匂いするもんねぇ」
(ミ ´•ㅅ•`ミ)……クゥン。(その場にストンと座る)
……は?
「お手」
o(U・ω・)⊃ワンッ
「よし」
(パクッ! フェンリル、唐揚げを丸呑みにして、恍惚の表情を浮かべる)
ハフッ! ハフハフ! (•ᴥ•˶ᐡ)ഒ⁾⁾
「安上がりなボスね……。いい? これ食べたかったら、私の言うこと聞きなさい」
o(U・ω・)⊃ワンッ!(全力の肯定)
「よろしい。今日からあんたはポチよ」
「ポ、ポチ……!? Sランク魔獣がポチ……!?」
(ピロリン♪ ピロリン♪ ガミのスマホから通知音が連打される)
「ん? 何その音」
「あ、やべ……コメント欄が……バグってる……」
【コメント欄】
:え?
:は?
:今、フェンリル手懐けた?
:からあげクンで?
:嘘だろwww
:合成? これ合成?
:いやガミのリアクションはガチだぞ
:あの配達員何者www』
:ポチwwwネーミングセンスwww
:女王様降臨
:フェンリル(Sランク)→ポチ(ペット)
:からあげクン最強説
:ローソン株買ってくる
:スパチャ投げるから俺も餌付けされたい
(視聴者数:19,989人↗︎)
(画面が虹色のスーパーチャットで埋め尽くされる)
……ガミ。
は、はいっ!
「約束、覚えてる? 私を映すなって」
「ひっ……! い、いや不可抗力というか! フェンリル出たし! ミサキさんが凄すぎて視聴者が!」
「バッチリ全世界に流れたじゃない。どうしてくれんの?」
「す、すみません! アーカイブ消します! すぐ消します!」
「……まぁ、顔は見えてないからギリセーフだけど」
「へ? い、いいんすか?」
「よくはない。ペナルティよ。追加で10万。肖像権侵害と、ポチの餌代として請求するから」
「払いますぅぅぅ!!30万でも払いますぅぅ!」
「よし。……ポチ、行くわよ」(バイクに跨りエンジン始動。ポチが嬉しそうにバイクの横に並ぶ)
「えっ、連れてくの!?」
「この辺うろつかれたら商売の邪魔だからね。私の番犬にするわ。……じゃあね、次はポテチだったかしら?」
「はいぃぃ! お願いします姉さん! 一生ついていきます!!」
走り去る黄色いバイクと、それを追う銀色の巨獣。ガミは呆然とマヨネーズとLチキを握りしめて見送るのだった。
(第7話 完/第8話へ続く)




