第06話:ウラヌスの中
【東京湾アクアライン連絡道】
GAMIの配信で見た通り、そこには人の気配はなかった。私は減速することなく、ETCレーンを強行突破した。
ポコン!
という乾いた鈍い音が車内に響くが、安心補償パックには入ってらから・・・気にしない・・・闇夜の東京湾の真っ只中へ車を進めると、やがて視界は一面青白く染まる。
——ウラヌス。
海風が凍てつくような寒さを運んでくる。私は暖房を最強にしているのに、まだ指先がかじかんでいた。
(突っ込むわよ)
私は奥歯を噛み締め、光の壁へと車体を滑り込ませた。衝撃に備えて身構える。だが——窓を開けてみる。むせ返るような草いきれと、花の香りを含んだ、生温かい春の風だった。
「何これ……ポカポカじゃない」
私は呆気にとられた。体が軽い。呼吸が楽だ。ナビが「目的地周辺です」と告げる。
☎︎「あ! もしもし!
着きましたけど、どの辺すか?」
☎︎『えっ?
……あれ? 白い車の女の人……?』
☎︎「あの聞いて欲しんだけど——
今から車を降りるけど、
カメラ。絶対に私に向けないで」
☎︎『あ、はい!
了解っす! 配信は止めます』
「え……女の人……?
さっきの電話の声、
——おっさんでしたよね?」
「あぁ、ごめん、あれはボイチェン。
で、こちらが、ご要望のお品」
「う、うおおおおおおおっ!!
神!! マジで来た!!」
GAMIはその場に崩れ落ちるように座り込むと、震える手でマヨネーズのキャップを開けた。そして、足元に転がっていた巨大な赤い実――ダンジョントマト――を拾い上げ、躊躇なくマヨネーズを絞り出した。
「んんんーーっ!!
うめぇぇぇぇ!!
これだよこれ!
これぞ文明の味!」
「ご満足の様で、何よりです」
「あ、すみません!
つい……はい、
これ! 残りの代金です!」
《PayPay♪》
「でわ、ご利用ありがとうございました」
「あ、あのっ! また頼んでいいすか!?」
「……いいけど、今回の5万はお試し料金で、これからは『指名料』と『危険手当』、頂いくけど?」
「は、はい!
全然OKっす!
お安いもんで!」
「じゃぁ、LINEのビジネスアカウントに頂戴。……それと、私のことは絶対に映さないでね、声もよ」
「了解です!」
「あ、あの!」
「……何? まだ何か?」
「名前!お名前、伺っても宜しいすか?」
私は少しだけ考えて……「ミサキ」と答えた。「あなたは?」
「え? ガミっす。」
「それは知ってる。そうでなくて」
「あぁ、坂上って言います。宜しくです」
「まんまなのね」
「どうも」
——ミサキね……私はミサキ。源氏名ってやつかしら。私はハンドルを切り、来た道を戻り始めた。あの寒くて、時間の狂った、理不尽な現実世界へと。
(第6話 完/第7話へ続く)




