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第04話:狂った星図

東京湾を挟んだ対岸、千葉県木更津市。アクアラインへと続く連絡道、その入り口ゲート付近の草むらに、一人の男が潜んでいた。



IRL配信者、GAMIだ。



彼が用意したのは、なんてことない電動アシスト自転車。目の前には「立入禁止」の黄色いテープと、赤色灯を回した警察車両の列があるはずだった。——しかし……コメント欄の流れが、一変した。



【コメント欄】

:は?

:誰もいないじゃん

:今のパトカー無人?

:テレビだと自衛隊が銃構えてたぞ

:フェイクニュースだったのかよ

:逃げたんじゃね?

:不気味すぎる

(視聴者数:9,921人 ↗)



「見ろよこれ! これが現実だ!」GAMIは興奮と恐怖が入り混じった声で叫んだ。「テレビじゃ厳戒態勢とか言ってたけどよ、実際はスカスカだ! 警察も、ビビって逃げ出しちまったんだよ! 」



「しかし……さ、さみぃ!」



恐怖を振り払うように、彼は大げさに身震いした。アクアラインを進むと、海上の風は容赦がない。体感温度は氷点下。おまけに日が沈むのが異常に早く、周囲は急速に闇に包まれつつあった。



「日が落ちるの早すぎんだろ……てか、ところでこれ、バッテリー持つか?」


『残量:68%』

 


背後の無人の検問所が、まるで「入ったら出られない」結界の入り口のように思える。ガタガタと震えながら、ガミは闇の奥に浮かぶ光のドーム——ウラヌスを目指して、一本道を漕ぎ出した。東京湾アクアライン、海ほたるPA付近。GAMIは、死を覚悟して光の膜の中へと飛び込んだ。



「うおおおおおっ! ……あ?」



身構えていた衝撃はなかった。代わりに彼を包み込んだのは、柔らかな春の陽気だった。



「……マジかよ」



GAMIはゆっくりと目を開けた。さっきまで震えていたのに、ドームの内部は、まるで楽園のように穏やかだった。



気温は20度前後。



湿度も完璧。目の前に広がっていたのは、無機質なアスファルト……ではなかった。そこは見たこともない紫色の蔦。巨大なシダ植物。



「すげぇ……ここはダンジョンだよな?」



「空気うめぇんだけど! てか、腹減ったなぁ」ふと、甘酸っぱい香りが鼻をくすぐった。香りの元を辿ると、背丈ほどの高さの緑の茂みに、真っ赤な実が鈴なりになっているのが見えた。



「——トマト?? これ……食えんのかな」



GAMIは恐る恐るその巨大トマトをもぎ取った。「——んんっ!?」目を見開く。「うっま! これヤバい! マジで美味いぞこれ!」



《来場者数が10,000人を突破しました》



【コメント欄】

:飯テロやめろ

:ダンジョン飯きたああああ

:毒ないの?

:スパチャ投げるから俺にも食わせろ!

(視聴者数:10,007人 ↗)


《¥10,000 スーパーチャット!》

《¥50,000 スーパーチャット!》



GAMIは笑いが止まらなかった。外の世界では時間が狂い、人々がパニックになっているというのに、ここではトマト食ってるだけで金が降ってくる。



「……美味(ウマ)いけどよ」



彼は画面に向かって、視聴者に語りかけた。「これ、マヨネーズかけたら、最強じゃね?」スパチャの残高を見る。



数10万円分の日本円がある。



だが、この楽園には、金で買えるものは何一つなかった。コンビニもなければ、自販機もない。あるのは、無限のトマトと、使い道のないデジタルな数字(お金)だけ。



「……マヨネーズ一本に5万払ってもいい。誰か、持ってきてくんねぇかなぁ」



GAMIの切実な呟きが、配信を通じて世界中に拡散されていった。



(第4話 完/第5話へ続く)

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