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第22話:決死の覚悟、ガミのワイバーン・ライド!

ミサキとフェンリルはDIYリフォームの床材となる『フロスト・マーブル』を求めて、極寒の深層『氷結回廊』へとやってきた。



——だが、探索は早々に暗礁に乗り上げた。



あろうことか、最強の神獣であるフェンリルが、いかにも怪しい宝箱のトラップに引っかかり、呪いのリボンでぐるぐる巻きにされてしまったのだった。解除条件は、ダンジョン内に散らばる



『3つの矛盾』を捧げること。



かくして、床材探しもそこそこに、不承不承ながら駄犬の尻拭い――もとい、封印解除のクエストに挑む羽目になったのであった。



【第1の矛盾:灼熱と極寒の境界層】



私たちは、右側がドロドロのマグマ、左側が氷河という、極端なバイオームの境界線に来ていた。



()()()()()ねぇ。あ、あれじゃない?」



マグマの滝のすぐそばに、赤熱しながらも溶けずに突き刺さっている氷柱があった。しかし、その周囲には燃え盛るスライムたちが群がっている。




『フレイム・スライムか。雑魚め。我が氷の息吹で……んぐぐ!』



フェンリルが口を開こうとするが、リボンで縛られているため「フゴフゴ」と言うだけだ。



「はいはい、邪魔」



アイテムボックスから消化器を取り出し、噴射する。——プシュウウウウ! スライムたちが怯んだ隙に、私は耐熱グローブで氷柱を一本へし折った。



「ゲット。次行くよ」





【第2の矛盾:木霊こだまの樹海層】



次は、全ての音が反響するうるさい森だ。



『アアアアアアアアアア!!』

『オオオオオオオオオオ!!』



目の前には、人の顔のような形をした巨大な岩があった。『歌うシャウト・ロック』。24時間絶叫し続ける騒音モンスターだ。うるさいわね……こいつの『沈黙』を手に入れろってことだけど、倒しても叫び続けるらしいし。



『ふん、我の咆哮で黙らせてやろうか?

     ……あ、口が開かないんだった』



……物理でいこう。私はアイテムボックスから、DIY用の袋を取り出した。『超速乾セメント(流動化剤入り)』 私は耳栓をして岩に近づくと、その大きく開かれた口の中に、練ったセメントを一気に流し込んだ。



岩:『アア…オ……ン……グ……ググ……』



数分後。口の中をコンクリートで完全に埋められた岩は、悲しげな目で沈黙した。



「はい、お静かに」



私はハンマーで岩の表面を少し砕き、『沈黙した岩の欠片』を手に入れた。





【第3の矛盾:アンデッドの舞踏会場】



最後は、薄暗い墓地エリアだ。優雅な音楽と共に、骸骨たちがカクカクとダンスを踊っている。『スケルトンの冷や汗』ねぇ。骨に汗腺はないんだけど。



『簡単なことだ、主よ。恐怖を与えよ』



「アンデッドに恐怖? やってみてよ」



私はフェンリルの口元のリボンを少しだけ緩めてやった。——その瞬間。フェンリルの瞳孔が縦に裂け、空気が凍りついた。



「――グルルルルルゥッ!!!!」



ただの唸り声ではない。生物としての格の違いを魂に刻み込む、捕食者の殺気。冥界の女王ヘルすらも道を開ける、神殺しの覇気だ。



カチャカチャカチャカチャ……!



ダンスをしていたスケルトンたちが、一斉に動きを止め、ガタガタと震え出した。恐怖のあまり、彼らの頭蓋骨の額から、じわりと青白い雫が滲み出る。存在しないはずの生理現象――概念的な『冷や汗』だ。



「へえ、やるじゃん。スポイトで回収っと」





【氷結回廊:宝箱の前】



私たちは元の場所に戻ってきた。「はい、3つの矛盾。捧げますよー」集めたアイテムをリボンの結び目に近づける。すると、リボンはシュルシュルとほどけ、光の粒子となって消滅した。



『——長かった! 我が自由だ!!』



フェンリルは——怒りの咆哮を上げた。



『よくも! よくもこの我を、亀甲縛りのような恥辱に! こんな箱、こうしてくれるわ!!』——ガボンッ! フェンリルの強烈な一撃が、宝箱を粉砕した。木っ端微塵になった箱の残骸。そして――床が抜け、その下から美しい青白い輝きが溢れ出した。



 あ。



宝箱の下の隠しスペースに、ぎっしりと敷き詰められた石材。透き通るような白に、氷のような青い脈が入った大理石。



「あった。『フロスト・マーブル』だ。なんだ、最初からこの箱の下にあったのね。灯台下暗し。ポチ、でかした!」



『……ふん。我が本気を出せば、お宝の発見など造作もないことよ』(本当はただ八つ当たりしただけだが、尻尾は嬉しそうに揺れていた)





【ウラヌス上空】



一方、ミサキが目的の石材を手に入れていたその頃。ガミは、人生最大のアトラクション……いや、死の恐怖と戦っていた。



「うわああああああ高いぃぃぃぃ!!!」



ガミの絶叫がこだましていた。彼は気絶した木島を必死に抱きかかえ、ワイバーンの背にしがみついていた。風圧。速度。そして圧倒的な高度感。VRではない、本物の「飛翔」。



「死ぬ 落ちたら即死 リスポーンなし!」



「るせぇ兄ちゃん 舌噛むぞ!も出口だ!」



——ズオオッ!




ワイバーンがウラヌスの開口部——アクアラインの橋脚下から飛び出した。一気に視界が開ける。目の前には、広大な東京湾。そして、遠くに見える富士山のシルエット。



 …………!



ガミは叫ぶのを忘れた。潮風が、頬を叩く。モニター越しではない、本物の光。



 ……なんこれ……画質、良すぎだろ……



ほんの一瞬。ほんの数秒だけ、ガミの心から恐怖が消えた。彼は、引きこもって以来初めて、「世界は美しい」と感じていた。



「ほら、そこのショッピングモールの駐車場に降ろすぞ!救急車は自分で呼べよ!」



「……あ、ああ! 頼む!」木島を駐車場のアスファルトにそっと降ろし、ガミは公衆電話から救急車を呼んだ(スマホは手が震えて操作できなかった)。サイレンの音が近づいてくるのを確認すると、彼は逃げるように再びワイバーンの背に飛び乗った。



「戻れ! ダンジョンへ戻るんだ!」



 ……今の俺には、刺激が強すぎる……



しかし、その表情は、出発前よりも少しだけ晴れやかだった。



(第22話 完/第23話へ続く)

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