第21話:昭和RPG、3つの矛盾を捧げよ!
【ダンジョン深層:氷結回廊】
吐く息が白く凍る。あたり一面、青白い氷の柱が林立する静寂の世界。私はワークマンの防寒スーツを着込み、スマホ片手に歩いていた。
スマホ音声:『……主よ。鼻が凍りそうだ。早く帰ってコタツに入りたいのだが』
「何言ってんの。あんた、ここ元ナワバリでしょ?ほら、粘土層はどっち?」
『ムッ……。待て。
この先から、極上の宝の匂いがするぞ』
フェンリルが鼻をひくつかせ、氷の壁の裏へと駆け出した。そこには、祭壇のように設えられた台座があり、豪華な装飾の宝箱が鎮座していた。
「あ、ちょっと待ってポチ。
それ、いかにも怪しい——」
忠告は遅かった。フェンリルが前足で蓋を開けた、——その時だった。
——バチンッ!! 箱の中から、ピンク色の細いリボンが飛び出し、生き物のようにフェンリルの鼻先と両前足をきつく縛り上げた。『ぬおっ!? な、なんだこれは! 解けぬ! 貴様、我に何をした!?』
そこには、口と足をピンクのリボンで可愛らしく拘束され、芋虫のようにもがく神獣の姿があった。
「……プッ。似合うじゃん。
どれどれ……鑑定」
【レプリカ・グレイプニル】
「北欧神話の魔法の紐ね。あんた、神話でも紐に縛られてなかった? 学習しないわねぇ」
『笑うな! 早く外せ! 威厳に関わる!』
私は宝箱の蓋の裏に書かれたプレートを読んだ。「えーっと、解除条件は……」
◼️この世にあらざる3つの矛盾を捧げよ
1.燃える氷柱
2.歌う岩の沈黙
3.スケルトンの冷や汗
「……めんどくさ。昭和のRPGかよ。まあいいわ。石材探しのついでに回るよ。ほら、行くよポチ」
『歩けん! 抱っこせよ!』
「甘えんな」
◇
【ガミの拠点】
一方その頃、ピクリとも動かない木島を前にして、ガミはパニくっていた。
GAMI:えええええ!? 困るっすよ! ここで倒れられたら! バ、バーサーカーは!? あいつ呼んでくださいよ!
木島:あいつ……今、引っ越しの繁忙期で……埼玉の現場に……。すんません……救急車……いや、せめて、地上の接骨院まで……。
木島がガクッと意識を失いかける。ここはダンジョンのど真ん中。救急車など来るわけがない。かといって、この巨体の男を、ガミが一人で運べるはずもない。
GAMI:つ、詰んだ……。ガミは頭を抱えた。見捨てるか? いや、彼は恩人だ。ピザを褒めてくれたし、ミサキさんの大事な『足』だ。しかし、地上へ行くには、この引きこもりの俺が、外へ出なければならない。
……無理だ。
太陽光を浴びたら俺は塵になって死ぬ。だが、木島の苦悶のうめき声が、ガミの良心を削る。ガミはポケットの中の「フリスク」を握りしめた。
GAMI:……くそっ! やるしかないのかよ! 彼は震える手でケースを開け、中身を放り投げた。ポンッ! 白い煙と共に、巨大な翼竜が現れる。
ワイバーン:あ?なん兄ちゃん。姐さんは?
GAMI:み、ミサキさんは留守だ……! か、代わりに俺が命令する! こいつを……この人を、地上の病院まで運んでくれ!
ワイバーン:あー、また腰やったのか。人間って脆いねぇ。いいけど、誰が支えるの? こいつ気絶してるし、背中に乗せたら落ちるぜ?
GAMI:うっ……。
ガミは唇を噛み締め、空を見上げた。ウラヌスの天井には、青空が描かれている。その向こうにある、本当の空。
GAMI:……俺が、乗る。
それは、重度の引きこもりである彼が、ついに覚悟を決めた瞬間だった。
(第21話 完/第22話へ続く)




