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第19話:【初見歓迎】ダンジョンで泡風呂入ってみた(ポロリはないよ)

【ミサキのログハウス】



湯気が立ち上るバスルーム。猫足バスタブには、なみなみと注がれたお湯と、たっぷりの泡。私はカメラに向かって、優雅に手を振った。



「はーい、というわけで。今日は新設したバスルームからお届けしてまーす。水着姿でごめんね〜」






一方、そのころ……隣人のガミは、薄暗い部屋で膝を抱えていた。



【コメント欄】

:1

:2

:③

:2

: わこ2

:枠乙

:今北枠乙

:ミサキちゃん始まった

:また来る枠乙

:ミサキはじまた

:バイバイ

(視聴者数:6人↘︎)



GAMI:……だれも、いない。



彼の目の前のモニターには『視聴者数:6人』の文字。かつて万単位のリスナーを抱えていたGAMIチャンネルは、見る影もなく過疎化していた。



GAMI:俺のリスナー、みんな隣の風呂に行っちまった……。しょうがない、ミサキさんの放送の同時視聴枠でも開くか……





《来場者数が30,000人を突破しました》

《ランキング入り: カテゴリ:総合で1位にランクインしました》


【コメント欄】

:うおおおおお風呂回きたああああ!

:画質良すぎワロタ

:⚫︎REC

:ガミ監視中

:自宅の風呂で水着きるなーー!

:ミサキちゃん肌きっれ!

:これどこのホテル? 内装がガチすぎる

:同接3万人超えてるのにヌルヌル動くぞ!?

:サーバー増強した?

(視聴者数:30,998人↗︎)



『ふふっ。いい湯加減。配信ツールもイイ調子!やっぱり、一日の終わりはこうでなくちゃね』





【立川広域防災基地・大規模災害対策本部内 危機管理センター立川運用室】



薄暗い執務室の片隅、業務の一環という名の元、京極は一人でミサキの配信を監視していた。



「この露出狂め!脱税した金で遊びやがって!」



スマホでちまちまと「脱税犯」「公序良俗違反」と打つ京極。彼の首筋には、汗と脂の不快な感触がへばりついていた。……なぜだ。なぜんだ・・・私は国家公務員I種だぞ。なぜ脱税逃亡犯が優雅にバスタブで、私はギャツビー 汗拭きシートなのだ……?



——圧倒的な「生活の質(QOL)」の敗北。



京極がギリリと割り箸をへし折った時、携帯が鳴った。(株)荒井注テクノロジーの営業部長、乙野からだ。



☎︎『あ、京極様! 先ほどの件ですが……!』



☎︎「どうなった。木島のバイクに取り付けたAirTagは」



☎︎『そ、それが……バレました』



☎︎「は?」



☎︎『……位置情報が、国道沿いの産業廃棄物処理場のトラックの上を移動してまして……どうやら捨てられたようで……』



京極は眉間を押さえた。そうだ、今のスマホはセキュリティが優秀すぎるのだ。ストーカー紛いの追跡は、OSレベルでブロックされる。



☎︎「探偵をからのレポートはどうだった? 奴が消えるポイントは特定できたのか?」



☎︎『は、はい、東京湾アクアライン……その木更津側です』



☎︎「やはり、ウラヌスか……」



真正面から堂々と入っているということは、そこが正規の入り口なのだろう。



☎︎「……車を回せ。私も行く」



☎︎『えっ、京極様もですか!? 今から!?』



☎︎「そうだ。今からだ」





【東京湾アクアライン連絡道】



「行くぞ。奴らはここを通ったはずだ」



二人は、ウラヌス、巨大な光の膜の中へと消えていく。



一歩、足を踏み入れる。



——と、その瞬間だった。



潮の香りが消えた。



「……おい、乙野。ライトをつけろ」



「は、はい!」



スマホのライトが照らし出したのは、森だった。鬱蒼と茂る、深く、冷たい森が、どこまでも続いていた。



「な、なんですかここ!? さっきまで海のど真ん中でしたよね!?」



「狼狽えるな乙野! これが特異点ダンジョン内部か……。しかし、妙だな」



京極は肌寒さに身を震わせた。あのガミとかいう配信者も千代乃も常春かの様子だったのに…… だがここは、冷蔵庫のように寒い。そして、重苦しい。



「進むぞ。この先に奴らがいる」



二人は森の奥へと進んだ。しかし。



「……おい、乙野。さっきこの木、見なかったか?」



「え? いえ、まさか。一本道ですよ?」



進んでも、進んでも、景色が変わらない。GPSを確認するが、『圏外』の表示。方向感覚が狂う。上下左右が曖昧になるような、奇妙な浮遊感。ビジネスシューズが泥に足を取られ、何度も転倒しかける。



「くそっ、どうなっている! 出口はどこだ!?」



ミサキたちが「ポカポカ陽気」の中でパスタを食べているその裏で、彼らは「拒絶された森」を這いずり回っていた。そして――。フッと視界が晴れたかと思うと、二人は硬い地面の上に立っていた。アスファルトだ。目の前には、見覚えのある「立入禁止」の看板と、フェンス。最初に入った、「入り口」だった。



……戻って、きた……?



京極は、泥の塊と化した革靴を見つめ、愕然とした。ただの迷子ではない。空間そのものが、外部からの侵入を拒絶している。まるで、「資格なき者」を弾き出す結界のように。





【ダンジョン:ミサキの拠点】



そんな追っ手の苦労など知る由もなく。ミサキは風呂上がりのバスローブ姿で、ベッドに寝転がっていた。彼女が眺めているのは雑誌『MODERN LIVINGモダンリビング』。



んー。やっぱ、家具がチグハグね。前の1Kから持ってきたパイプベッドとかカラーボックスじゃ、せっかくの新居が台無しだわ。



ページをめくると、海外のリゾートホテルの特集が目に留まった。テラコッタ風の、素焼きタイルの床。ひんやりとして、素足で歩くと気持ちよさそうだ。



これよ。この床にしたい。今の床材はただの杉板だし、水回りはやっぱりタイルよね。ミサキはスマホを取り出し、LINE通話を発信した。



☎︎「あ、もしもし木島くん? お疲れ。ちょっと頼みたいんだけど。(中略)あ、そうなの…まだ無理……ギックリ……うんわかった……お大事に」

 


……チッ。はぁ。……しょうがない。こっちで、作るか。



(第19話 完/第20話へ続く)

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