第16話:バーサーカーがホームステイ
【リフォーム中のミサキのログハウス】
ミサキ:ふぅ……内装解体だけで一日仕事ね。そろそろ今日は終わりにするかな。
チェーンソーを持った5体のスケルトンたちの内装解体作業は終わり、ミサキは片付け仕事を行なっていた。
GAMI:ちわーっす。引っ越し祝いっす。石窯ピザっす。トマトとバジルはそこの畑で採れたやつで、チーズは……まあ、ミノタウロスの乳から作った自家製っす。
ミサキ:へえ! アンタ、意外と家庭的なのね。
差し出されたピザを一切れ齧る。……美味い。濃厚なチーズの旨味と、フレッシュなトマトの酸味。労働の後の体に染み渡る。
ミサキ:やるじゃん。あんたのピザ、マジ美味いよ。
GAMI:へへっ。で、相談なんすけど。……今後も、コンビニの買い出し、頼めます?
ミサキ:え? 私、リフォームに専念したいんだけど。自分で行けない?フェンリル貸すけと。
GAMI:無理っす。あんなS級モンスター自分には乗りこなせませんし、それにガチの引きこもりなんで。
『対人恐怖』のデバフ持ってるんすよ。
その代わり、当面の食料は自分が供給します。ピザでもパンでも野菜でも。ミサキさん、リフォームしながら畑仕事とか無理でしょ?
ミサキ:……う。
(図星だった。食料自給率ゼロのミサキにとって、ガミの提案は無視できなかった)……しょうがないなぁ。ついでで良ければね。
GAMI:交渉成立っすね!じゃ、自分は戻って配信あるんで。
◇
ピザを平らげたミサキは、腕組みをして唸っていた。ついでって言ったけどさぁ……木島くんは私の依頼で手一杯だし……パシリの人手が足りないのよね……
ミサキ:ポチ!
ポチ(フェンリル):ガウッ!(尻尾フリフリ)
ミサキ:……だめね。買い物できそうに見えないわ。話しできないし。却下。——次、ワイバーン!(バサァッ、と翼竜が舞い降りる)
ワイバーン:あのー、姐さん。この前、自衛隊のF-2にロックオンされたの覚えてます?あの警告音、トラウマなんすけど。
ミサキ:あー、そうだった。自衛隊とか刺激したくないし……ゴブリンやオークじゃ、コンビニに入った瞬間に防犯ボールを投げつけられるのがオチだし……ねえ。お前ら以外に、もっとこう……人間っぽくて、言葉が通じるやついないの?
ワイバーン:あー、人間っぽい見た目のやつならいますよ。紹介します?
ミサキ:いるなら早く言いなさいよ! 呼んで!
◇
数分後。召喚陣から現れたのは、身長2メートル超の筋骨隆々たる大男だった。腰布一枚の半裸だが、見た目は完全に人間だ。
ミサキ:お、いいじゃん! 服着せれば誤魔化せそう。ねえ、日本語喋れる?
バーサーカー:■■■■■ーーーーッ!!(咆哮)男は白目を剥いて絶叫した。鼓膜が破れるかと思った。
ミサキ:……ダメか。知能指数(IQ)が筋肉に吸われてるわ。バーサーカー(狂戦士)。見た目は人間だが、中身は暴走機関車だ。これじゃあ買い物なんて無理だ。
——と、その時だった。
「ちわーっす! お届け物でーす!」粉塵の向こうから、やけに爽やかな声が響いた。振り返ると、そこには見慣れた蛍光イエローのジャケット。ワークマン『イージス』を纏った男——木島が、自身の体よりも巨大な段ボールを背負って立っていた。
「ハァ、ハァ……! ご、ご注文の……サウナストーンと、あと壁紙セットです……!」
◇
【立川広域防災基地・大規模災害対策本部内 危機管理センター立川執務室】
【コメント欄】
:ウーバーまた来たwww
:体力バケモンかよ
:その荷物、一人で持ったんか?
:笑顔が眩しい
:ミサキちゃんに尽くしてるなー
:ミサキのしもべキタコレ
:ツバメくんなん?
:これが若さか
:これがプロの運び屋か……
:ガミの配信よりこっちのが面白いわ
(視聴者数:21,875人↗︎)
薄暗い部屋の片隅、業務の一環(という名目)でミサキの配信を一人、監視する男がいた。
京極:(……なんだ、この男は)
画面の中で、木島が汗を拭いながら、ミサキと談笑している。その笑顔には、裏表がない。そして何より、圧倒的な「若さ」と「体力」があった。京極は自分の腹部を無意識にさする。最近、ジムに行く暇もなく、
少しメタボがはみ出た——腹。
徹夜続きでカサついた肌。画面の中の木島が放つ「生命力」が、京極のコンプレックスを容赦なく刺激する。
京極:(あんな……あんな肉体労働だけの猿が……)
京極はギリリ、と奥歯を噛み締めた。
京極:(千代乃……君は、あんな底辺の男が好みなのか? 私の方が、地位も、年収も上だぞ……!)
◇
【ダンジョン:ミサキの拠点】
私は、水をガブ飲みする木島くんと、その横で「ウガー!」と叫び続けているバーサーカーを交互に見た。木島くん。体力よし、人柄よし。ただし金はない。
バーサーカー。体力よし、見た目よし。ただし知能がない。……これ、パズルのピースがハマるんじゃない?
ミサキ:ねえ、木島くん。君さ、教育とか興味ない?
木島:え? 教育っすか? いや、俺バカなんで、勉強とかはちょっと……
ミサキ:いや、勉強じゃなくて。こいつ——バーサーカーに、日本語と『現代社会の常識』を教えてほしいの。あと、東京の地理とか、電車の乗り方とか。
木島:えええ!?(木島がのけぞる)
(バーサーカーは、木島を見て「グルル……」と威嚇している)
木島:いや無理っすよ! こいつ、めっちゃ唸ってますけど!? 絶対噛みつきますって!
ミサキ:大丈夫よ。首輪つけとくから。でね、言葉を覚えるなら、やっぱ留学が効率良いと思うのね。君の家に連れて帰って、しばらく面倒見てくれない?
ホームステイってことで。
木島:はあ!? 俺の家、1DKのボロアパートっすよ!? こんな筋肉ダルマ置くスペースないっすよ! 絶対無理っす!
ミサキ:……そう。残念ねぇ。報酬、1日1万5000円出そうと思ったんだけどなぁ。
木島:えっ。(木島の動きが止まった)
ミサキ:食費別。危険手当込み。日払い可。どうかなー?
木島:(即答)……ハイ、喜んで!! ベッドも貸します! 俺が床で寝ます!!
ミサキ:交渉成立ね。それじゃ、今日の配信はここまで! 次回は『バーサーカー、初めてのホームステイ』をお楽しみに!
「——配信終了」
◇
数分後。木島は、恐る恐るバーサーカーの手を引いて、ダンジョンの出口へと向かっていた。
木島:よ、よろしくな……バーさん……。
バーサーカー:■■■……。
意外にも、バーサーカーは大人しく木島についていく。どうやら「ボス(ミサキ)の命令」だけは理解しているらしい。
ミサキ:これで物流ルートも安泰ね。頼んだわよ、木島先生。
(第16話 完/第17話へ続く)




