第15話:修繕令嬢・ダンジョンでDIYリフォームチャンネル
「それじゃ、約束通り300万円ね。3、十、百、千、万、十万、百万、送信と」
《ペイペイ♪》
「へへっ、毎度あり。確かに」
「で、鍵は?」
「一応ありますよ。かけたことないですけど、どうぞ。一応中身は空っぽにして、ゴブリンに掃除させときました。で、これが配信機材一式なんすけど、使うならサービスしますが…」
「配信かぁ。あんた、それで稼いでたんだもんね。私もやってみるかな」
「了解っす。使い方は基本、『配信開始』『配信終了』と言うだけっす、音声入力です」
「え、すごいじゃんこれ! どうやってんの? ラズパイにマイク直結してエッジで処理してるわけ? あんたIoTもいけるクチ? ……あ、でも待って。モデルの再学習はどうすんの? まさか私の声、いちから録り直さなきゃいけない感じ?」
「あー、ちょっと何言ってるかわかんないっす。それ、『魔導マイク』ってアイテムの効果なんで。スキル発動したらドロップしたっす。あと、これ、初心者用『アイテムボックス』っす。これもきっと役に立つと思いますよ。じゃ、自分はそろそろお邪魔します」
「うん。ありがとう。お疲れっ!」
「ご健闘を祈ります。これからは同業者っすね!」
◇
「さてと。とりあえず、やってみるか」ガミが去ったあと、私はマイクに向かって呟いた。
「——配信開始」
【コメント欄】
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(視聴者数:0人)
「……ま、そうよね」アカウントを作ったばかりだし、誰も私のことなんて知らない。しかしガミの配信って、アンチが大半だったとはいえ、視聴者が万の単位って……あの男、意外と凄かったのかも。
「よし、やるか」
まずは壁紙。それに床材。しかし、当然ながらダンジョンには売っていない。Am͜a͉zonで注文するとして……問題は誰がココまで配達するかよね。地上からここまで運んでくれる「足」が必要だな。心当たりは、ワークマンのイージスを着る「木島くん」。奴なら無理な注文も聞いてくれるはず。
なぜなら、アイツは…… いや、絶対そう♡
[発信]指をかけようとして——ふと、視界の端に浮いているドローンが気になった。あ、そうだ。こういう時は切らなきゃね。
「——配信終了」ランプが消え、カメラが着地する。ふう、と息を吐き、私は木島くんにLINE通話をした。
☎︎「もしもし、木島ん? うん。久しぶり。で、ちょっと頼みがあるんだけど――(中略)――そういうわけで、また連絡するね」
これで——パシリは確保と。
「——配信開始! と、いうわけで、このダサいな内装解体からはじめるよー」
私はアイテムボックスから、ガミが置いていった『死霊の呼子』を取り出した。これでガミ、骨出してたよね。記憶を頼りに、軽く吹いてみる。ピョロ〜♪ 間の抜けた音が鳴る。
「うわ、出た。ほんとに出た」
床からカタカタと白い骨が湧き出し、あっという間に5体のスケルトンが組み上がった。よし、労働力確保。
「出勤ね。タイムカードなし。休憩もなし」
足元の段ボールを蹴り倒し、中身をぶちまける。電動チェーンソーと大型ハンマーだ。
「はい、これ持って。あそこの壁、全部撤去。――作業開始!」
手を叩くと、スケルトンたちは一斉にチェーンソーを起動した。ギャギャギャギャギャギャン!!
爆音。粉塵。
スケルトンたちが無慈悲に壁を切り裂いていく。その光景は、リフォームというよりは破壊活動だった。
《来場者数が2,000人を突破しました》
《注目の番組としてトップページに掲載されました》
《ランキング入り: カテゴリ:リフォームで1位にランクインしました》
【コメント欄】
:初見
:しょけん
:な、なんぞココ!?
:今北産業
:ファッ!?
:骨wwwwwww
:躊躇なさすぎワロタ
:【急募】スケルトンの正しい使い方
:DIY
:これCG?
:↑なわけあるか、ガミのリスナーなめんな
:仕事早ええええええええ!!
(視聴者数:2,871人↗︎ ↗︎)
◇
【立川広域防災基地・大規模災害対策本部内 危機管理センター立川運用室】
薄暗い会議室の中、男たちがタブレットを囲んでいた。
部下A・猿渡(56):京極さん、これ、SNSでトレンド急上昇の配信なんですが……『修繕令嬢・ダンジョンでDIYリフォームチャンネル』。これ、高田千代乃ですよね……GAMIチャンネルに時折現れる運び屋で、イージス開発ベンダーのカウンターSEだった子……
京極(35):……
部下B・雉岡(42):……これは……魔法、なんでしょうか……?
京極:……落ち着け。よく見ろ。あれは魔法などではない。……そう、最新の超音波誘導デバイスだ。
部下B:ちょ、超音波、ですか?
京極:そうだ。彼女が吹いたあの笛……あれは特殊な周波数を発するコントローラーだ。そしてあの骸骨は、テクスチャを被せた自律型ロボットだ!
部下B:はあ、コントローラー、ですか……
京極:そうだ。あの動きを見ろ。完全にプログラムされた挙動だ。……あの技術、非常に興味深いな。京極は眼鏡のブリッジを押し上げ、さも重要案件を見つけたかのように声を低くした。
京極:あの自律駆動技術……我が内閣府の『イージス・システム』に組み込むべきだ。あれがあれば、現在停止している自動マッピング機能も劇的に改善するはずだ。……おい、この技術の徴用を検討しろ。我が国益のために、管理下に置く必要がある。
〜京極の言葉に、部下Bは「なるほど!」とメモを取りかける。〜しかし、その横で冷ややかな視線を送る男がいた。
部下A:京極さん。それ、本気で言ってます?
京極:なっ……なんだ、その言い草は
部下A:まず、管轄違いです。ロボット技術の徴用なんて、経産省か防衛装備庁の領分でしょう。ウチみたいな『数字まとめて報告するだけ』の部署が手を出せる案件じゃありません。
京極:だ、だが! あの技術徴用は必ずや我が国益に繋がる……!
部下A:それに予算。今期の予備費、イージスのサーバー維持費だけでカツカツじゃないですか。あのロボット——仮にロボットだとして——を買い上げる金なんて、どこにあるんです?稟議、誰が通すんですか? ハンコ貰えませんよ。
京極:ぐっ……ぐぬぬ。
部下A:無理ですよ。だいたい、我々に今求められているのは『イージスの復旧』であって、『新規技術の開拓』じゃありません。……まあ、見てるしかないですね。指くわえて。
〜部下Aの正論の刃が、京極の虚勢をザクザクと切り刻む。〜京極は言葉を詰まらせ、ただ黙るしかなかった。
(くそっ……わかっている! そんなことは私が一番わかっている!)
何もできない。手出しもできない。かつて自分が支配していたはずの女が、画面の向こうで好き勝手に暴れているのを、うす暗い部屋でただ眺めることしかできない。京極はギリ、と奥歯を噛み締め、青白いモニターの光の中で立ち尽くしていた。
(第15話 完/第16話へ続く)




