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第14話:魔獣引越センター

小鳥のさえずりと、オークのいびきで目が覚めた。ミサキは焚き火の消えた跡をぼんやりと見つめていた。



「あれ、帰らなかったんですか?」



ログハウスから出てきたガミが、伸びをしながら声をかけてきた。「いっそミサキさんもこっちで暮らしたらどうですか?」



「は? あんたとシェアハウスとか御免よ」



「いやいや違いますよ! 俺、拠点レベル上がって新しい建材も手に入ったんで、あっちの丘に新居を建てようと思ってるんすよ。眺めもいいし。なんで、このログハウス、ミサキさんに譲りますよ」



「譲るって、売るってこと? いくらで?」


「うーん、じゃあ…300万でどうです?」


「は? 300万って。

       こんな掘っ立て小屋に……」



「掘っ立て小屋はひどいなw でもミサキさん、そのぐらい全然払えますよね? 俺がいったいいくら払ったと思ってるんすかw 貯金唸ってるでしょ?」



呆れて眉をひそめる私に対し、ガミは悪びれる様子もなく言い放つ。確かに、彼から巻き上げた金は、口座に数千万円単位で眠っている。高い気もするが、京極の手が届かない「安全」と「自由」が手に入るなら——。



「よし買った」


「お買い上げありがとうございますデス!」





ミサキは、自分が借りていた賃貸マンションの前に立っていた。スマホには、元職場の部長からの着信履歴が数十件。ポストには督促状の山。



「あーもう、めんどくさいなぁ!」



ミサキはスマホを放り投げたい衝動を堪え、大きく息を吐いた。「ちまちま運ぶのは終わり。……やるか」彼女は周囲に人がいないことを確認し、スキルを発動させた。もはや隠すつもりもない。



「来なさい。総員、作業開始」



ブォォォォォン……! 空間が歪み、夜の闇が裂けた。アスファルトの上に、巨大な銀色の影が着地する。フェンリルのポチだ。さらに上空には、バサバサという羽音と共に、数体のワイバーンが飛来した。



「グルルル……(主よ、敵か?)」


「う、うん、引越しよ」



ミサキが指差すと、ワイバーンの背中から、小さな影たちがロープを伝って降りてきた。ゴブリン部隊だ。手には軍手、頭にはタオル。完全に「引越し業者」のスタイルだ。



「あれ、全部箱詰めして運びなさい。

            一個も残さず!」



ゴブリンたちがミサキの部屋になだれ込み、段ボールを次々と運び出す。それをワイバーンたちが器用に足で掴み、あるいはネットに入れて吊り上げる。



——ウゥゥゥゥゥゥ……! その時、遠くでサイレンのような音が鳴り響いた。





【埼玉県・航空自衛隊入間基地 中部航空警戒管制団】



峯岡山みねおかやまレーダーサイトより入電! 東京湾岸エリア上空に未確認飛行物体! 低速ですが、反応多数!」



「ドローンか? いや、サイズがデカい」



司令室が騒然となる。モニター上の輝点が、編隊を組んで東京タワー方面へ移動している。「百里ひゃくりよりF-2、スクランブル発進! 確認急げ!」





【東京上空 高度2,000フィート】



キィィィィィン……! ジェットエンジンの轟音が、東京の夜空を切り裂く。F-2戦闘機のパイロットは、ナイトビジョン越しに信じられない光景を目撃した。



"Alpha 1, Tally. ...It's a monster. Visual on a pterosaur... Target is carrying a payload!?"



段ボール箱を抱えたワイバーンの群れが、首都高の上空を飛んでいる。まるでファンタジー映画のワンシーンだ。パイロットは困惑しながらも、警告のために翼を振った。その様子を、首都高を走るポチの背中から、ミサキが見上げていた。



「……見つかったか」



彼女は『念話』で上空の部隊に指示を飛ばした。〜落とすなよ。荷物も、あいつら(自衛隊)も。……ただの引越しだから、穏便にね〜



ふと、ミサキは苦笑した。「しかし、これ絵になるわね。ガミも連れてきて、配信させればよかったかも」



F-2が警告射撃フレアを放つ。まばゆい光が夜空を焼く。だが、ワイバーンたちは動じない。



〜回避行動!〜



ミサキの号令と共に、ワイバーンたちが風魔法を発動させる。巨大な翼が気流を掴み、物理法則を無視した急旋回インメルマンターンを決める。



"Control, target confirmed hostile. Request permission to engage!"



"Alpha 1, you are cleared to engage. Weapons free! I repeat, Weapons free!"



"Copy, engaging! target speed is too high! Unable to lock! I can't get a tone!"



最新鋭の戦闘機が、荷物を持った翼竜に翻弄されている。彼らは攻撃してこない。ただ、ひらりひらりと舞うように回避し、東京湾を目指している。



「逃げるぞ、ポチ!」


「ワンッ!」



ポチがアスファルトを蹴り、レインボーブリッジを疾走する。ETCゲートを飛び越え、パトカーの追跡を置き去りにし、お台場の海へとダイブするような勢いで加速した。目の前には、青白く輝く——ウラヌスのドーム。



「撤収!」



⊂(´・ω・`⊂)_≡=─ズサッー=≡3。ポチが光の膜へと飛び込む。続いて上空のワイバーンたちも、次々と光の中へ吸い込まれていく。



"Target lost. ...Confirm target entered Uranus. I repeat, target has retreated into Uranus."



——死傷者ゼロ。



被害は「深夜の騒音」と「パイロットの精神的疲労」、そしていくつかの未払いの請求書のみ。こうして、伝説の「魔獣引越センター」による夜逃げは完了した。



(第14話 完/第15話へ続く)

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