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第13話:都合の良い世界

【ウラヌス内部・ガミの拠点】



「ふぃぃぃ〜……! 生き返るぅぅ〜!」



ウラヌスの夜風は、生ぬるくて少しだけ甘い匂いがする。ガミの拠点であるログハウスの裏手に、湯気が立ち上っていた。ガミが手ぬぐいを頭に乗せ、岩風呂に肩まで浸かっている。



【水源探知】と【掘削スキル】



この二つのスキルの組み合わせて掘り当てた、正真正銘の天然温泉だ。湯船の周りには、綺麗に加工された石材でバーカウンターまで作られている。無駄に行動力がある男だ。



「風呂は最高っす。最高なんすけど……」



ガミが切なげな目で、空のグラスを見つめた。「風呂上がりの一杯がないと、画竜点睛を欠くんすよぉ……ダンジョンの果実はまだ発酵中だし……」



——ガサガサッ



茂みが揺れ、豚の顔をした亜人——オークたちが顔を覗かせた。彼らもまた、鼻をヒクつかせ、何かを求めてウロウロしている。



「またオーク来た。お前ら酒探してんの?」



ブヒィーー、と悲しげに鳴くオークたち。そこへ、エンジンの駆動音が響いた。



「お待たせ。……はい、これ」ミサキが台車に乗せて運んできたのは、銀色に輝くロング缶の山と、業務用のロックアイスだ。『サントリー -196℃ ストロングゼロ〈ダブルレモン〉ALC 9%』——通称、虚無の酒。あるいは福祉。



「ストゼロきたぁぁぁぁ!!」



ガミが歓喜の声を上げる。その匂いに反応したオークたちが、目の色を変えて殺到した。襲ってくるのではない。彼らは腰布から「金貨」を取り出し、ミサキに差し出しているのだ。



「ブモォ!(売ってくれ!)」「——はいはい、並んで。一本につき金貨一枚ね」「ブヒィィ!(安い!)」



プシュッ! プシュッ! 静かな森に、炭酸が弾ける音が連続する。数分後には、そこは異種族混成の大宴会場と化していた。



「カーッ! これこれ! この脳髄にガツンと来るケミカルな味!」ガミが顔を赤くして叫ぶ。その横では、フェンリルのポチが、氷をガリガリと噛み砕いて涼んでいる。ミサキは少し離れた場所で、焚き火の炎を見つめていた。手にはノンアルコールビールの缶。



「あれ? 珍しいですね? ミサキさん」



千鳥足のガミが近寄ってくる。普段なら配達が終われば即座に撤収する彼女が、今日は珍しく長居していた。



「……ま、色々あってね」



見上げれば、満天の星空が綺麗に輝いている。オークたちの笑い声。焚き火の爆ぜる音。



「あんたさ、なんで()()はこんなに()()()()できてるのか、不思議に思わないの?」



ミサキが焚き火を見つめたまま尋ねると、ガミはキョトンとして、ストゼロの缶を揺らした。



「そうですかね? ……それって、ミサキさんが()()()()()()と比べて、そう言ってるんでしょ?」



「え?」



「俺からしたら、むしろ、あっちの世界の方が()()()()できてるんですけどね」



「……確かにね」





【立川広域防災基地・大規模災害対策本部内 危機管理センター立川運用室】



換気扇が唸りを上げている。紫煙が充満する狭いスモーキングエリア。張り詰めた危機管理センターの空気から逃れるように、二人の職員が気怠そうに煙草を吹かしていた。



部下A・猿渡(56):なぁ、あの『高田千代乃』って名前さ、なんか相撲っぽくね?



部下B・雉岡(42):は? 何言ってんすか。



部下A:いやだから、高田みづえの旦那は若嶋津だけどさ、千代の富士は九重部屋だしな。なんか混ざってんだよ、名前が……。——昭和の角界かよって。



部下B:……どうでもいいすわ、そんなこと。(呆れたように灰皿に吸い殻を押し付ける)てか、あの子、イージス開発下請けベンダーのPMプロジェクトマネージャーだった子でしたよね? 地味だけど優秀でしたよね。仕事早かったし。



部下A: (σ・∀・)σ それな。後任のオッサン、マジ使ええよな。



京極(35):……急に辞めたよな、彼女。何か聞いてるか? (いつの間にか部屋の隅で紫煙をくゆらせていた京極が、ぬらりと会話に混ざってきた。)



部下B:あ、京極さん。……いえ、特には。ベンダーからは担当変更としか……引き継ぎも文書だけでしたし、事情とかは何も。



京極:そう……。(京極はゆっくりと煙を吐き出した。眼鏡の奥の目が、爬虫類のように細められる。)



京極:下請けの責任者、呼んでくれる? なるはやで。





その日の夜。呼び出されたITベンダーの開発部長と営業部長の二人は、パイプ椅子の上で小さくなっていた。



開発部長・甲田(51):そ、それが……実は、急に出社しなくなりまして……。退職届も郵送で一方的に送られてきまして……。本人と連絡がつかず、手続きもまだ終わってない状態でして……



京極(35):ほぉ……。( ̄▽ ̄)——退職時の誓約書とか、ちゃんと対面で巻いたの? 一応見せてくれる?



開発部長:あ、いえ、その……。ですから、郵送で……



京極:NDA(秘密保持契約)的に心配なんだけど。資料の持ち出しとか大丈夫? 彼女、イージスの管理者権限持ってたよね?(京極の声色が、一段低くなる)ちゃんと書面で取ってきてよー。家に行ってでもさ。実家でも、友人宅でも、どこでもいいから探し出して、サインさせてこい。



営業部長 乙野(59):は、はい!



京極:御社とはこれからも長く付き合いたいんだから。……ね?



営業部長:す、すぐに捜索させます! 探偵でも何でも使って、必ず!(逃げるように飛び出していく二人)



京極:社会人なんだから、ちゃんとしないとねぇ。——千代乃ちゃん。



(第13話 完/第14話へ続く)

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