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第12話:元彼ストーカーの国税タレコミ

【東京・大手町:某所】

 


「……これだけの金額が、

        短期間に個人の口座へ?」



「はい。配信プラットフォームを経由した——投げ銭、および——外部サービスから の送金です。『修繕令嬢』、『ミサキ』等と名乗ってますが、、、



身元は特定済み。



高田たかだ千代乃ちよの32歳。独身。元SE、現在はギグワーカー、フリーの配送業、申告は一切ありません」——国税局査察部。通称マルサ。彼らが動くとき、そこには必ず巨額の隠し資産がある。



「タレコミの主は?」



「内閣府・政策統括官付・防災担当付きの企画官の男です。『元システム開発の委託先の担当SEが不正な手段で得た利益を隠している可能性がある』と。……まあ、私怨の匂いもしますが、金の流れ自体は黒です」



「それにしても内閣府の職員

        からのタレコミねぇ……」





【ウラヌス内部・ガミの拠点(増築現場)】



ギコ……ギコ……ギコ……



GAMI:あーもう! 遅い! 日が暮れるって!



建築中のログハウス別棟。数体のスケルトン(骸骨)たちが、木材にノコギリを当てているが、全く切れている様子がない。彼らの細い腕は、ただ虚しく前後運動を繰り返しているだけだ。



ミサキ:……何やってんの、あれ? ——お遊戯会?



GAMI:あ、ミサキさん! いやぁ、建築要員としてスケルトン召喚したんすけど……こいつら、全然ラチがあかないんすよ!



ミサキ:骨だものね。



GAMI:そうなんすよ! 見ての通り、こいつら筋肉がゼロなんで! ノコギリを引く腕力トルクが物理的に足りないんすよ! ただ木材を撫でてるだけっす!



ミサキ:なるほどね。……筋繊維がないなら、モーターで回せばいいじゃない。(持ってきたプラスチックのハードケースを地面に置く。独特の「青緑色ティールブルー」のケースだ)



GAMI:その色は……まさか!



ミサキ:『マキタ(Makita)』の充電式チェーンソー。ガイドバー250ミリの軽量モデルよ。



GAMI:マキタァァァ! 日本の現場の守護神!



ミサキ:エンジン式じゃないから静かだし、振動も少ない。これなら骨でも扱えるでしょ。



スケルトン:……(キュイイイイイイン!! キュイイイイイイン!! キュイイイイイイン!!)



GAMI:おおおっ! はえぇぇ! 一瞬で切れた!



ミサキ:感情がないから躊躇しないし、疲れを知らないから無限に伐採できる。……これ、最強の林業従事者じゃない?



数体のスケルトンが、ウィーン、キュイイイ! と機械的なリズムで次々と木材を切り刻んでいく。その光景は、もはや建築現場というより、B級ホラー映画のクライマックスのようだった。



GAMI:すげぇ……見た目は完全に「悪魔のいけにえ」だけど、仕事が丁寧だ……! ミサキさん、追加でサンダーも頼んでいいっすか!?



ミサキ:はいはい。次に来る時ね。……じゃ、私は帰るから。





【ミサキの自宅の近く】



木更津から戻った私は、駅前のレンタカー店に車を返却した。深夜の街は静まり返っている。自分の足音だけが、やけに大きく響く。自宅である築30年の賃貸マンションまでは、徒歩で10分ほどだ。



——いつも通りの帰り道。



けれど、今日は背中がムズ痒い。さっきの京極からの着信が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。



(……考えすぎよ。あんなの、ただの間違い電話か、気まぐれに決まってる)



私は自分に言い聞かせながら、自宅へ続く最後の角を曲がった。そこで、足が止まった。一台の黒いセダンが停まっている。エンジンは切られているのか——



音はしない。



車内は暗く、中の様子は伺えない。ただの路上駐車かもしれない。この辺りではよくあることだ。だが、運転席に誰か「いる」ような気がした。



(…………っ)



心臓が嫌な音を立てて跳ねる。あれは誰? 京極の手のもの? それとも……まさか、税務署マルサの張り込み? いや、まさか。私は首を振る。ドラマじゃあるまいし。私の脱税(まだ確定してないけど)なんて、、、



国家予算から見れば小銭もいいところだ。



わざわざこんな夜中に、人を張り付かせるわけがない。これは私の「やましい心」が見せている幻影だ。幽霊の正体見たり枯れ尾花。ビビっているから、ただのサボリーマンが刺客に見えているだけ。



「……ふう」



私は努めて冷静を装い、視線をその車に向けないようにして歩き出した。ここでUターンして逃げ出したら、それこそ



「私は黒です」



と自白しているようなものだ。堂々としていればいい。私はただの、深夜配達帰りの疲れた女だ。背中に突き刺さるような視線……



勘繰りが止まらない。



エントランスを抜ける。逃げるようにエレベーターに乗り込み、「閉」ボタンを連打する。扉が閉まり、箱が上昇を始めた瞬間、ようやく息が吸えた気がした。





ガチャリ、と鍵を閉める。さらにチェーンロックを掛け、ドアスコープを覗く。……誰も追ってきていない。外の廊下は無人だ。



「……ははっ、馬鹿みたい」



玄関にへたり込み、乾いた笑いを漏らす。やっぱり、私の自意識過剰だったんだ。誰も私なんて見ていない。そう自分を納得させようとするが、、、



震えが止まらない。



布団を頭まで被る。ここなら安全なはずだ。ここは私の城だ。けれど、暗闇の中で思考は、、、



ネガティブな方向へと加速していく。



——もし、あれが本当に税務署だったら? ——明日、ドアを叩かれたら? ——口座が凍結されたら? ——京極が裏で手を回していて、ある日突然、逮捕状を持った警察が踏み込んできたら? ——連想ゲームのように、——最悪の未来予想図が脳内を駆け巡る。。。



 ……寒い



季節外れの悪寒に、私は身を縮こまらせた。ウラヌスの地下深層、あのスケルトンたちが黙々と働くダンジョンの方が、今の私にはよほど温かく、安全な場所に思えた。



皮肉な話だ。



魔物が徘徊する迷宮よりも、法治国家である日本の自宅の方が、今の私にとっては「敵地」なのだ。



(第12話 完/第13話へ続く)

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