第10話:「ダンジョン」とは
【ウラヌス内部・ガミの農園予定地】
「ぜぇ……はぁ……! 土、硬ぇよ……!」
クワを振り上げ、ガミが荒い息を吐いている。目の前には、雑草が生い茂る広大な荒れ地。ダンジョンの土壌は肥沃だが、開墾するにはあまりに頑強だった。そこへ、軽トラのエンジン音が近づいてくる。
「……何やってんのよ、手作業で。いつの時代の人?」
「あ、ミサキさん! いや、農耕機なんてガソリンスタンドないし無理じゃないっすか!」
「だから、これを持ってきたのよ。『ホンダ カセットガス耕うん機 ピアンタ(FV200)』」
「これ……耕運機? でもエンジンは?」
「これよ。イワタニのカセットガスボンベ。これを本体にカチャッとセットし、リコイルスターターを引くの!」
(ドルルルルッ!軽快なエンジン音が響く)
「うおおお! カセットコンロのガスで動くの!? 天才かよホンダ!」
「お気に召したようで、では、お買い上げありがとうございます。お代の方は付けておきますね」
「ヒャッハー! 文明の力だぁぁぁ!」
ピアンタを走らせると、硬い土がバターのように粉砕され、ふかふかの黒土に変わっていく。ポケットから「ダンジョン野菜の種」を取り出し、耕したばかりの土にばら撒くガミ。
すると——。ボボボボボッ!
種が着地した瞬間に発芽し、数秒でツルが伸び、数十秒後には巨大な実を結んだ。
「相変わらず、キモい成長速度ね」
「これぞダンジョン農業っ 収穫祭だ!」
◇
【内閣府 政策統括官(防災担当)付 次世代防災システム推進室】
薄暗い会議室で、数人の男たちがタブレットを囲んでいた。
京極(35):……なんだこれは。
部下A・猿渡(56):今、SNSでトレンド入りしている配信チャンネルです。『GAMI・チャンネル』。現在、同接2万5千人。
京極:2万5千? 暇人が多いんだな。 ……で、農業垂れ流し放送がどうしたというのだ?
部下A:巷ではこれが『ウラヌス』内部という噂でして。
京極:ウラヌス? あの封鎖領域にか? 馬鹿を言え。あそこは致死性ガスか未知のウイルスが充満しているんだぞ。こんな軽装で生きていられるわけがない。
部下A:それが……ネット上の噂では、あそこは『ダンジョン』なのではないかと。
京極:——ダンジョン?
部下A:はい。
京極:……地下牢(Dungeon)のことか? 誰かが監禁されているのか? 政府の極秘収容所だとでも言いたいのか、ネットの陰謀論者どもは。
部下A:あ、いえ。そうじゃなくてですね……。京極さん、RPGとかやります?
京極:な、暇あるとでも思うのか。
部下A:ですよね。えっと……今の若者が言う『ダンジョン』っていうのは…… 牢獄じゃなくて、こう…… 『異世界』のことなんですよ。
京極:異世界?
部下A:はい。モンスターがいて、宝箱があって、物理法則が仕事しない、なんでもアリの場所。それを総称してダンジョンって呼んでるんです。いわゆる『なろう系』の定義ですね。
京極:それで? にしても……見づらいな。そこのモニターにApple TVで。
部下B・雉岡(42):あ、はい。繋ぎます。
壁面のモニターに、ガミの配信画面が映し出された。画面の中では、ジャージ姿の男が、奇妙な赤い機械(耕運機)を押して走り回っている。
京極:……で? あそこがウラヌスなら、こいつは——異世界人、それとも宇宙人って? それが何故配信する? しかも日本語で。YouTubeなら開示要求して身元特定できるだろ?
部下A:そこなんです。この配信、プラットフォームがYouTubeじゃないんですよ。
京極:どこのプラットフォームでも同じ話だろ、政府の圧が効かないところとでも?
部下A:いえ。出所不明の野良アプリです。サーバーを経由しないP2P通信で、ブロックチェーン技術を応用してるみたいで……。
京極:なるほど、特定不可能なわけか……
その時、画面の中でガミが種を蒔いた——直後、ニョキニョキニョキッ——植物が爆発的に成長し、一瞬で辺り一面が緑に覆われた。
京極:……は? (京極が目を疑う。ガミは既に、実った野菜をもぎ取り、カメラに向かって齧り付いている) ……おい。今、種を蒔いたばかりだよな?
部下A:さすが、気付くのが早いですね。
京極:録画か? タイムラプス? 編集済みの収録を流してんだろ。
部下A:いや、それが……もう少し見てみませんか。
【コメント欄】
:うっわ育つの早すぎw
:編集乙
:今北枠乙
:にょきにょき育つな
:何育ててるの?
(視聴者数:25,007人↗︎)
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《¥50,000 スーパーチャット!》
『スパチャありがと!育ててるのは枝豆!』
京極:……会話が成立している?
部下A:の、様に見えますよね……
京極:……馬鹿な。植物の細胞分裂速度を加速させる技術? それとも、時間の流れを自在に操るとでも…… あれが・・・ ウラヌスの中・・・ ダンジョンの…… 中なのか……
部下A:ええ。この『ダンジョン』……我々の知っている現実とは、ルール(OS)が違うのかもしれません。
モニターの光が、京極の険しい顔を青白く照らしていた。
(第10話 完/第11話へ続く)




